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第七幕~青年は天使を失った3
しおりを挟む廃工場内。
銃声から間もなくして、硝煙の匂いが周囲に漂い始める。
と、羽交い締めから解放されたルイス。
倒れ込む彼から、止め処ない鮮血が地面に流れ広がっていく。
だがそれは心臓や頭と言った致命傷となる箇所ではなかった。
「ぐっ…ぁ……!」
激痛によりルイスが抑えている箇所は右脚だった。
「裏切ったとは言えど、やっぱりお前は惜しい駒なもんでな……」
語るイグバーンの顔は至って無表情かつ冷酷で。
翳るそれに、ルイスは恐怖すら感じた。
「悪く思うなよ、更に奥の手なんて隠されていても困るからな」
見せしめも兼ねて痛めつけておいた。
淡々とそう語ったイグバーンは、平然とした様子で兵士たちに合図を送った。
「一応急所は外したが重症化しても困るからな…ちゃんと手当してやれ」
ルイスのもとへ次々と駆け寄る兵士たち。
土埃が舞い上がり、彼らの革靴は地面の鮮血によって濡れていく。
「放せ…放してくれ…!」
撃たれた苦痛に顔を歪めるルイス。
言葉で抵抗したものの、兵士たちによりあっという間に拘束されてしまう。
と、同時に右脚の応急処置を始めた。
対抗する手立てさえ失ったルイスは、せめてとイグバーンを睨み続ける。
最早、彼にはこうすることしか、出来ることは無くなってしまった。
「ベルフュング将軍」
それから程なくして、一人の兵がイグバーンに駆け寄り、敬礼をする。
「天使二体を発見したとの報告がありました」
「よし、捕獲は出来るんだろうな」
「はい。命令通り、町全体を既に包囲済みですので」
その会話を耳にしたルイスは、痛みよりも怒りに震えた。
町全体を包囲するという話はルイスには聞かされていなかったからだ。
兵の人数も町民に知られては困るため、少数精鋭でいくと聞いていた。
だが実際は―――。
「流石に驚いたか? 事態が事態ってことでな…部隊総動員で来ちまったんだなこれが」
「まさかッ…だって……」
動揺を隠せないでいるルイスへ、近付くイグバーン。
適切な処置を施され、簡易担架に乗せられようとしている彼へ答える。
「悪いが、俺には青年が『黒』だって確証があったからな。予定外だったのはお前がここまで気持ち良く裏切ってくれたことだ」
念のため用心しておいて正解だった。そう付け足してイグバーンは笑う。
彼は始めからエスタが『天使』と確定し、ルイスが裏切るだろうことも想定したうえで、ルイスにこの任を与えていたのだ。
つまり全ては、イグバーンの掌の上だったということだ。
イグバーンの策略に言葉を失うルイス。
絶望に打ちひしがれ、脱力する彼を後目にイグバーンは兵士へ改めて指示を出す。
「事態は急を要するぞ。天使の二人は見つけ次第、始末しろ」
「え、ですが…」
動揺したのはルイスだけでなく、他の兵士たちもだった。
今回の任務において『件の天使は絶対に生きて捕獲するように』と、命令を出したのはイグバーンではなく部隊の指南役であるからだ。
「じいさんには俺が適当に言っておく。どうせ実験に使いたいだけだろうしな」
しかし、イグバーンとしては手っ取り早く天使を処理しておきたかった。
万が一負傷したルイスを目撃してしまい、暴走するという確率を潰しておきたいという考えもあってのことだが。
それ以上に彼の直感が、そう告げていたのだ。
後悔するような嫌な予感がする、と。
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