67 / 104
第六幕~青年は親友を信じた3
しおりを挟むミラースは直ぐに瞼を開けた。
目の前にはエスタを担ぐルイスがいた。
「こっちだ」
静かにそう言うとルイスは路地裏に続く柵の扉を開けた。
突然現れたルイス。
そして、エスタを担ぎ、何処かへ導こうとしているルイス。
彼を信じて良いのかどうか―――否、信じられるわけがない。
だが、彼女には選択肢もなかった。
まばらな足音が、徐々に大きくなっている。
軍の兵たちが確実に近づいていた。
ミラースは顔を顰めながらも、ルイスの言うとおりに駆け出した。
ルイスが案内する道は人がいるかいないか、ギリギリの建物の隙間であった。
人が通れるかどうかもギリギリな道だ。
「…なんでこんな道知ってるの?」
出来るだけ疑っていることを示すように、低い声でミラースは尋ねる。
するとルイスはいつもと変わらない表情と口調で答えた。
「色々…この街を調べまわっているうちに覚えたんだよ。ま、犯人の逃走ルートを探すためでもあったけどさ」
陽気とも取れる彼の口振りと性格は、今にして思えば飄々としていて掴み処がなかったと、ミラースは思う。
時折見せていた真面目で冷たい視線も、今思えば偽りの仮面が剥がれた瞬間の顔だったのかもしれない。
「―――貴方がわからない」
思わず、出た言葉だった。
しかし、意外なことにルイスは苦笑を浮かべたのだ。
「…俺もだよ」
囁くような、独り言のような声で彼はそう言った。
ルイスが導きながら辿り着いた先は工場地区の片隅にある小さな工場だった。
正しくは廃工場だ。
機器の老朽化により随分と昔に使わなくなり、町の人たちからも忘れられた場所。
「もう、大丈夫だから…」
と、ルイスに背負われ続けていたエスタが此処で声を上げた。
その言葉を聞いたルイスは彼を静かに下ろす。
まだよろめいていたが、先ほどより断然顔色は良くなっていた。
「…軍の人も近づかないって言われてる廃工場…だっけ」
「けどどうせ直ぐに見つかる。あくまでも一時しのぎの休憩場みたいなもんだ」
エスタの言葉にそう答えるルイス。
随分と使われていない廃工場は、窓ガラスが破られ暗雲が良く見えた。
よく見ると天井すらなくなっている。
雨ざらしになり錆びついた壁と機材が不気味さを醸し出している。
そんな場所だった。
「助けて…くれたんだよね…?」
偶然あった古びた木箱に暫く座り込んでいたエスタ。
呼吸も粗方整った彼はおもむろに、その真っ直ぐな瞳をルイスに向けた。
「でも、ルイスは裏切ったんだよ?」
ミラ―スに白い目で見られ、眉を顰めるルイス。
言い訳でしかないと思いつつも、彼は口を開く。
「裏切ったフリだったんだ。あの人を欺くには従うフリをしないと無理だからな…護送車にお前たちを乗せたらそれごと奪って逃げるつもりだった」
大きな想定外があったお陰で大分変更になったけどな。
そう付け足し話すルイス。
真実とも嘘とも思える言葉に、ミラ―スはエスタを一瞥する。
「信じるの、エスタ…?」
軍の人間である以上、本来ならば信じられるはずがない。
信じてはいけない人だった。
そう思っているミラ―スだが、決定はエスタに委ねようと決めた。
だが委ねるも何も、結論はもう出ていることも、彼女は解っていた。
迷いのない、いつもと変わらない双眸がルイスを見つめる。
思わず視線を反らしたくなるほどの眩さに、眉を顰める。
しかし、それでも。
ルイスは真っ直ぐにエスタを見つめ返した。
「―――僕はルイスを信じるよ」
予想していた通りの言葉を、エスタは迷わずに言った。
その揺るぎない双眸を見たときから、ルイスは解りきっていた。
真っ直ぐ過ぎるほどの信念。
こうであるべきだと、重圧ともいえる願い。
此処に居たいと、思わせてくれるような安心感。
彼はそんな想いに溢れていたから。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!
のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、
ハサンと名を変えて異世界で
聖騎士として生きることを決める。
ここでの世界では
感謝の力が有効と知る。
魔王スマターを倒せ!
不動明王へと化身せよ!
聖騎士ハサン伝説の伝承!
略称は「しなおじ」!
年内書籍化予定!
Crystal of Latir
鳳
ファンタジー
西暦2011年、大都市晃京に無数の悪魔が現れ
人々は混迷に覆われてしまう。
夜間の内に23区周辺は封鎖。
都内在住の高校生、神来杜聖夜は奇襲を受ける寸前
3人の同級生に助けられ、原因とされる結晶
アンジェラスクリスタルを各地で回収するよう依頼。
街を解放するために協力を頼まれた。
だが、脅威は外だけでなく、内からによる事象も顕在。
人々は人知を超えた異質なる価値に魅入られ、
呼びかけられる何処の塊に囚われてゆく。
太陽と月の交わりが訪れる暦までに。
今作品は2019年9月より執筆開始したものです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、
実在のものとは関係ありません。
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
ロウの人 〜 What you see 〜
ムラサキ
ファンタジー
主人公 ベリア・ハイヒブルックは祖父と2人だけでゴーストタウンと成り果てたハイヒブルック市に住む。
大地震や巨大生物の出現により変わり果てた世界。
水面下で蠢く事実。
悲観的な少女、ベリアはあらゆる人々と出会いながら、どう生きていくのか。
幸せとは何か。不幸とは何か。
立ち向かうとは何か。現実逃避とは何か。
荒廃した世界を舞台に少女の成長を描く物語。
『西暦5028年。絶滅しかけた人類は生き残り、文明を再び築き上げることができていた。そして、再び己らの罪を認識する時がくる。』
毎夜20時に更新。(その都度変更があります。)
※この作品は序盤の話となっています。
南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語
猫村まぬる
ファンタジー
海外出張からの帰りに事故に遭い、気づいた時にはどことも知れない南の島で幽閉されていた南洋海(ミナミ ヒロミ)は、年上の少年たち相手にも決してひるまない、誇り高き少女剣士と出会う。現代文明の及ばないこの島は、いったい何なのか。たった一人の肉親である妹・茉莉のいる日本へ帰るため、道筋の見えない冒険の旅が始まる。
(全32章です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる