20 / 29
爪現すケモノ
しおりを挟む「なん、で…カイル……天使じゃ、なかったの……?」
「違います。僕はちゃんとした天使を狩る側の人間です」
突然の発砲。突然の攻撃。突然の敵意。
あまりにも突然な青年の、裏切りにも近い行為に女将の顔色は蒼白していく。
が、押し寄せる絶望に呆然としている暇もなく。
彼女は突然、激しい痛みに襲われる。
「痛いッ…痛い痛い痛い、いたい、いたいいたいいたい、イタイッ!!」
ネコを撃ったその一撃は貫通し、女将の肩口にも当たっていた。
彼女は激痛に肩を押さえながらその場に蹲る。
「ハァ…ハァ……なんで、カイル…!」
涙を浮かべ、縋るように青年を見上げ訴える女将。
尚も助けを求める彼女へ、非情にも青年は冷血な顔で見下す。
「全ては天使に与してしまった貴女のせいですよ」
「だっ、って……わた、しは…悪くないッ……のに……!」
痛みと苦しみ。哀しみと怒り。
あらゆる負の感情が入り乱れ、女将をより一層と狂わせていく。
「ひどいひどいひどいひどいっ…!」
項垂れ、昂る感情に涙する彼女は、ふと、ある声を聞いた。
『―――大丈夫ですよ…ほら、ゆっくりと、息を吸って吐いてごらんなさい?』
「あれ…痛くない、ッ…?」
次の瞬間には先ほどまであれだけあった激痛が、まるで嘘のように引いていた。
驚き肩口を見つめると、撃たれた傷口はもう塞がっているようだった。
「ああ…嘘、本当に…私は……願いが、叶ったの…叶ったのよ!」
紛れもない不可思議な現象。
しかし『天使と遭遇』という怪奇現象を既に体験している彼女にとって、最早それは小さな差異でしかなかった。
それよりも『痛みが引いた。傷が治った』という奇跡を、女将は純粋に感激していた。
先ほどまでの負の感情がすっかりと抜け落ちてしまうほどに。
だが。その反面、青年の表情は違った。
冷血だった顔は顰められており、まるで悍ましい化け物を見るかのように引きつっていた。
「ほら見て、カイル! 私はやっぱり何も悪くない! 天使の力なんかじゃない、赤猫様の奇跡よ! 辛く苦しかった私の願いを叶えてくれた!」
彼の顔色の変化にも気付かず立ち上がり、浮かれ、天を仰ぐ女将。
自分の身に起こっている変貌にも気付かずに、感激し笑う。
「私は! これでもう! 死なな―――」
が、次の瞬間。
雷鳴に紛れ、またもや放たれた銃弾。
その一撃が女将の脳天を打ち貫いた。
「将軍…!」
「まだ油断するな!」
部屋へと辿り着いたイグバーンは持っていた銃で女将を撃ったのだ。
飄々としたいつもとは違う彼の態度に、青年も同じく包帯を解き、隠し握っていた銃を構える。
続けざまに銃撃は二発、三発と女将を狙い撃つ。
間違いなく頭部や急所を撃たれた女将は無言のまま、その場に崩れ落ちた。
致命傷は確実に与えた。はずだった。
「どういう理屈が起こったかは知らんが…この女将はもう養製天使だ…!」
間違いなく仕留めたはずだった。
力無く倒れ、地に伏したその様は絶命を意味していたはずだった。
傷口から、その頭部から流れ出る血液がそれを物語っているはずだった。
―――しかし、その直後。
絶命したはずの女将から、くつくつと喉を鳴らすような笑い声が聞こえてきた。
「―――フフ、フフフフ…ああ、やっと…やっとこの身体を手に入れられたわ…!」
突如、その場から女将は起き上がる。
何事もなかったかのような顔で女将はそう言って高らかに笑う。
だが、その様子は明らかに女将とは全く別の雰囲気であった。
何よりも、彼女の眼の色が変わっていた。
まるで血のように紅い双眸。
そして、広げた両腕からは白い羽が生えていく。
綿毛のような無数の羽が、彼女が負った痛々しい傷を覆い隠す。
「もっと手っ取り早く手に入れられると思ってたのに…この身体が意外と用心深くて手間取っちゃったわ…」
そう言いながら彼女はくるりと振り返り、イグバーンを見つめる。
「けど貴方のお蔭で止めを刺してあげる手間が省けた…一応その礼だけは言ってあげる。あ・り・が・とうね、軍人さんたち」
口角を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべる女将―――否、それはまさしく養製天使に宿ると言われている天使人格そのものだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
僕と天使の終幕のはじまり、はじまり
緋島礼桜
ファンタジー
灰の町『ドガルタ』で細々とパン屋を営む青年エスタ。そんな彼はある日、親友のルイスと8年ぶりの再会を果たす……しかし、これにより彼の運命の歯車は大きく廻り始めることとなる―――三人称、回想、手記、報告書。様々な視点で巡る物語。その最後に待つのは一体何か…。
他、カクヨム、小説家になろうでも投稿していきます。
CROWNの絆
須藤慎弥
青春
【注意】
※ 当作はBLジャンルの既存作『必然ラヴァーズ』、『狂愛サイリューム』のスピンオフ作となります
※ 今作に限ってはBL要素ではなく、過去の回想や仲間の絆をメインに描いているためジャンルタグを「青春」にしております
※ 狂愛サイリュームのはじまりにあります、聖南の副総長時代のエピソードを読了してからの閲覧を強くオススメいたします
※ 女性が出てきますのでアレルギーをお持ちの方はご注意を
※ 別サイトにて会員限定で連載していたものを少しだけ加筆修正し、2年温めたのでついに公開です
以上、ご理解くださいませ。
〜あらすじとは言えないもの〜
今作は、唐突に思い立って「書きたい!!」となったCROWNの過去編(アキラバージョン)となります。
全編アキラの一人称でお届けします。
必然ラヴァーズ、狂愛サイリュームを読んでくださった読者さまはお分かりかと思いますが、激レアです。
三人はCROWN結成前からの顔見知りではありましたが、特別仲が良かったわけではありません。
会えば話す程度でした。
そこから様々な事があって三人は少しずつ絆を深めていき、現在に至ります。
今回はそのうちの一つ、三人の絆がより強くなったエピソードをアキラ視点で書いてみました。
以前読んでくださった方も、初見の方も、楽しんでいただけますように*(๑¯人¯)✧*
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
ダダ甘♡ワードオーダー
きぐるみんZ
ファンタジー
【異世界から日本へ!そしてまた異世界へ!どこでだってダダ甘♡、貫きます!】
これは、『きぐるみ♡女神伝』のスピンオフ作品です。
「仲間が『死なない』、モンスターを『殺さない』」
という一連のシリーズのテーマを守る為に、この作品ではどういう工夫をしているのか、ぜひ読み取って下さい。
作品ごとに、その工夫は違います。
【特徴】
この作品のコンセプトは
「誰も死なない」
「誰も殺さない」
小さな子供さんでも読める様に描いているので、
異世界ファンタジーなのでバトルシーンはありますが、モンスター1匹たりとも命を奪ってはいません。
これが、この作品の最大の見どころです。
大人さんも、子供さんも。
男の子さんも、女の子さんも。
みんな、読めばきっとココロが優しくなります。
そんな「夏休みの推薦図書」を目指します。
討妖の執剣者 ~魔王宿せし鉐眼叛徒~ (とうようのディーナケアルト)
LucifeR
ファンタジー
その日、俺は有限(いのち)を失った――――
どうも、ラーメンと兵器とHR/HM音楽のマニア、顔出しニコ生放送したり、ギャルゲーサークル“ConquistadoR(コンキスタドール)”を立ち上げたり、俳優やったり色々と活動中(有村架純さん/東山紀之さん主演・TBS主催の舞台“ジャンヌダルク”出演)の中学11年生・LucifeRです!
本作は“小説カキコ”様で、私が発表していた長編(小説大会2014 シリアス・ダーク部門4位入賞作)を加筆修正、挿絵を付けての転載です。
作者本人による重複投稿になります。
挿絵:白狼識さん
表紙:ラプターちゃん
† † † † † † †
文明の発達した現代社会ではあるが、解明できない事件は今なお多い。それもそのはず、これらを引き起こす存在は、ほとんどの人間には認識できないのだ。彼ら怪魔(マレフィクス)は、古より人知れず災いを生み出してきた。
時は2026年。これは、社会の暗部(かげ)で闇の捕食者を討つ、妖屠たちの物語である。
† † † † † † †
タイトル・・・主人公がデスペルタルという刀の使い手なので。
サブタイトルは彼の片目が魔王と契約したことにより鉐色となって、眼帯で封印していることから「隻眼」もかけたダブルミーニングです。
悪魔、天使などの設定はミルトンの“失楽園”をはじめ、コラン・ド・プランシーの“地獄の事典”など、キリス〇ト教がらみの文献を参考にしました。「違う学説だと云々」等、あるとは思いますが、フィクションを元にしたフィクションと受け取っていただければ幸いです。
天使、悪魔に興味のある方、厨二全開の詠唱が好きな方は、良かったら読んでみてください!
http://com.nicovideo.jp/community/co2677397
https://twitter.com/satanrising
ご感想、アドバイス等お待ちしています!
Fate/grand orderのフレンド申請もお待ちしていますw
※)アイコン写真はたまに変わりますが、いずれも本人です。
どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ- リメイク!!
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG[アルバスクロニクルオンライン]
しかし、たまたま手に入れたスキルで波乱万丈な冒険をする事になる。
基本、面倒くさがりの主人公が行くドタバタ冒険記物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる