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妖精猫は少女と出会った

その5

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 その日からアサガオは段々と妖精猫ケットシーと打ち解けるようになっていった。
 人前でちゃんと歌えるようになって、お客のみんなとも話せるようになって、妖精猫ケットシーとも沢山話して笑うようになっていった。
 楽しそうに笑うアサガオを見てると妖精猫ケットシーもまた嬉しくて、一緒に沢山にんまりと笑った。
 妖精猫ケットシーはアサガオの隣にいつまでも並んでいた。ずっとずっと一緒にいた。





 そうした、毎日が続いていた―――ある日。

「にゃにゃ! アサガオちゃんもうすぐ誕生日なの?」
「うん。ちゃんと教えてもらったわけじゃないけど、もう少しで確か十歳になるんだよ」

 嬉しそうに足を揺らしながら話すアサガオ。そんな姿を見て妖精猫ケットシーは首を傾げる。

「誕生日ってそんなに嬉しいの?」

 妖精猫ケットシーは妖精なので、ちゃんとした誕生日がなかった。気付いたときには今の姿で生まれていて、いつの間にか妖精猫ケットシーとして暮らしていた。
 だから誕生日がめでたいなど、思ったことはなかった。

「嬉しいのかあんまりわからないけど…でもね、小さい時に一度だけお父さんとお母さんから人形をプレゼントされたことがあってね、それは今思い出しても嬉しかったことだよ」

 アサガオのどこか嬉しそうな表情を見て、妖精猫ケットシーの瞳がらんらんと光る。

「プレゼント? それをもらったらアサガオちゃんは嬉しいの?」

 妖精猫ケットシーの質問に少しだけ考えてから、アサガオは答えた。

「やっぱり…嬉しい、かな」

 彼女の言葉を聞いた途端、妖精猫ケットシーは席からぴょんと飛び降りた。その着地の勢いで皿のまたたびパンがかたんと揺れ動く。

「にゃあにゃあ、わかったよ! じゃあぼくがアサガオちゃんのためにとびっきりのプレゼントを用意するよ!」
「え、べ、別に…いらないよ?」

 しかし一度決めたら善は急げ、というのがこの妖精猫ケットシーのモットーで。
 彼はアサガオの言葉も聞かずに「待っていて!」と叫びながら何処かへ走り去ってしまった。

「本当に…そんなもの、いらないのに…」

 独り取り残されたアサガオはぽつりとそう呟いてから、目の前のパンを一口食べた。





 プレゼントを贈ることに決めた妖精猫ケットシーは早速、何をあげればいいのかハリボテたちに相談することとした。

「そういうのは本人に聞くのが一番だろうが」

 というのがハリボテの答えだった。

「そうなんだけど…でも『何にもいらない』って言われちゃいそうで。でもでも、本当はそんなことないのもわかってるんだ。だから何をあげたら喜ぶのか知りたいんだ」

 一生懸命に頭を深く深く下げる妖精猫ケットシーに、酒場で働くスタッフたちは困った顔をする。

「確かに…誕生日だってんならお祝いしてあげたいところだがな…」
「でも何が好きなのか、嬉しいのか…あまり教えてくれないからわからないわね」
「とりあえず好きな食べ物をあげるのが一番じゃないのか?」

 スタッフたちもまた首を左に右に傾げて、うなり声を上げて考える。
 と、調理担当のエルフが思い出したように言った。

「そうだわ。ペンダントなんてどうかしら。ステージで歌を歌っているときにいつも首元が寂しいなって思ってたの」
「にゃにゃ、それだ!」

 妖精猫ケットシーはその言葉を聞くなり、大はしゃぎに両手を合わせる。

「そういえば前に美しい『人魚の涙』っていう宝石のお話しを聞いたことがあるんだ。それを見つけてきてプレゼントしよう!」

 プレゼントが決まり、尻尾を揺らしながら大喜びしている妖精猫ケットシー。まるでもうすでにプレゼントを渡したかのような、お礼を言われた後のような、そんな様子にハリボテは深いため息をつく。

「『人魚の涙』って言やあ…ここから山4つ超えた先の大海に住む人魚にしか作れないっていう代物だぞ。お前の足じゃあたどり着くだけで何日以上かかると思ってるんだ…」

 この妖精猫ケットシーはのんびり屋の性格のせいで、どうにも他の妖精猫ケットシーよりも足が遅い。
 仮にプレゼントを手に入れて戻って来たとしても、その頃にはアサガオの誕生日が過ぎてしまうかもしれなかった。

「流石にそれは止めといた方が…」
「誕生日に間に合わなかったら哀しむのはアサガオの方よ?」

 他のスタッフたちも妖精猫ケットシーの考えに反対し、説得するほどだ。
 だがそれでも妖精猫ケットシーの意思は揺るがない。

「にゃあにゃあ…ちょっと遅れるかもしれないけれど、でも必ず戻ってくるから。そして絶対プレゼントするから! だって『人魚の涙』はね、とても美しい白銀色のキレイな宝石なんだって聞いたんだ」
 
 その輝きはきっとアサガオの髪色のように美しくキレイなのだろうと、だから絶対アサガオに似合う宝石なのだろうと、妖精猫ケットシーは思ったのだ。
 こうなった彼の決意は何が何でも固いらしく。まるでてこでも動かない、といった様子だった。
 そんな頑なにゆずらない妖精猫ケットシーに対して、根負けしたのはハリボテたちの方で。ハリボテは深いため息をつきながら言った。

「……のんびり屋できまぐれのお前が自分からそこまで決断するってことは、それほどの覚悟なんだろうな。じゃあこうなったらアサガオのためにも、絶対手に入れてきて、そんでもって急いで戻ってこい。わかったな?」
「にゃにゃ、わかってるよ!」

 ハリボテの言葉を受けて、妖精猫ケットシーは自信たっぷりに笑顔を見せながら、その胸をどんと叩いた。






   
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