上 下
81 / 87
英名の代償に

しおりを挟む
    







「―――これが、ネールの身体を借りている経緯だ」
「呪いだなんて…そんな……」

 パーシバルとネールの事情を知ったアスレイ。
 彼はパーシバルが他人の身体を借りて生き永らえていることよりも、パーシバルが受けた呪いについて驚きを隠せなかった。
 天才魔槍士でさえも敵わない禁術以上の魔術―――呪術。
 ネールが助けていなければ、今頃パーシバルは消滅していた。
 しかし、彼女ネールの身に危険が及べば、命を落としてしまったら。パーシバルも一瞬にして消滅してしまう。
 ミリアのようにいなくなってしまう。
 そう考えてしまうと、アスレイは余りの衝撃から言葉を失いそうになる。




「もしや…魔槍士様ではないですか!?」

 と、そんな二人の後方から、突然声が聞こえてきた。
 アスレイが振り返ったその先には、ランプを持った衛兵たちの姿があった。

「その出で立ちは噂で聞いた通り…間違いない。まさかこのような場所でお会いできるとは!」
「今回の行方不明者が出ていた騒動も犯人は山賊であったと進言し、尚且つその山賊たちまで退治して下さったそうで!」
「ご報告にあった山賊のアジトで捉えられた者たちは全員無事に保護してあります!」
「しかし一体なぜティルダ様がそのような賊に加担を…」

 衛兵たちは近付いてくるなり、各々が事の真相を興奮気味にパーシバルへ語っていく。
 どうやら今回の騒動―――もとい事件は天才魔槍士である彼が全て解決したと思っているようだった。
 天才魔槍士と共にこの真相に立ち会った人物がいた事実には、全く気付く様子もない。
 否、立ち会ったアスレイ自身、今回の件はパーシバルがいたからこそ解決出来たと認めていた。証拠品をアスレイに渡したことも、この場で起こった戦いも、全てパーシバルの助力がなければ―――アスレイ一人ではどうにもならなかった。

(あのときは意気込んでこそいたけど…結局、俺がいる必要ってあったのかな……なんて、流石に考えちゃうよな…まあ解ってはいたことだけど)

 そんな取り越し苦労だった結果にアスレイは人知れず肩を落とす。
 と、そのときだ。

「―――君がいるからこそ救われる者もいる。それを忘れるな」
「え…?」

 衛兵たちに同行するべくその場を去ろうとしていたパーシバルが、去り際にそう呟いた。
 アスレイの肩にそっと触れ残していった言葉に、アスレイは思わず顔を上げる。
 それはどういう意味か。そう尋ねようと急ぎ声を掛けようとしたものの、既にパーシバルは立ち去った後だった。
 そんな、呆然としていたアスレイの真下から、突如彼女の声が聞こえてきた。




「ははは…ホント、アンタってバカだよね」

 視線を下した先には、うつ伏せに倒れたままのレンナがいた。拘束され動けない彼女は、唯一動かせるその口で悪態をつく。

「散々首突っ込んでおきながら、何の活躍もなし。いざ解決したら手柄は天才魔槍士様に全部持ってかれて。ホント、バカ丸出しじゃん?」

 レンナの言っていることは何一つ間違っていない。
 結果だけを見てしまえばアスレイの行為など、さぞかし自分勝手で情けないものだろう。
 言い返す言葉も浮かばず、アスレイは俯いたまま黙り込む。

「つまり、アンタがどうこうしなくたって事件は解決したし、こうして首を突っ込まなければ天才魔槍士はアンタなんかに秘密を語ることもなかったでしょうね?」

 嘲るように笑い、レンナは「バカ」という単語を繰り返す。
 それは、これまで見たきたどんな彼女の姿とも違う。思わず目を背けてしまいたくなるような品のない、彼女らしくない姿。
 だからこそ。彼女が嘲笑うほどに、悪態を浴びせるほどに。アスレイはやるせない感情ばかりが募っていく。

「…確かに俺は何の活躍もしていないよ。迷惑なだけだったかもしれない…それでも。この結末に後悔はしていないし、この場にいて良かったと思っているよ」
「フン、強がり言って、これだからバカガキは―――」
「だって、此処に居たから会いたかった魔槍士に出会えた。それにレンナの暴走を止めることも出来たからさ」

 直後、レンナの口が止まる。
 彼女は驚いたような睨みつけるような、そんな複雑な顔をアスレイに向けた。

「は…?」
「俺は今でもレンナは良い人だったって信じたい。だからレンナがこれ以上罪を重ねないよう止められたのなら…それで俺が利用されるくらい、むしろ大歓迎だよ」

 そう言って微笑みかけるアスレイ。
 と、彼女は突如大声を張り上げ否定する。

「違うッ!!」

 その怒声は周辺に響き渡り、近くにいた衛兵たちが驚いてアスレイたちを見てしまう程であった。




「もしかして、あそこで拘束されているのが例の『黄昏誘う魔女』か…?」

 事件の粗方の事情を聞いていた衛兵たちは、彼女の姿を見るなり噂と正体の差に動揺を隠せず、どよめく。
 が、激しい剣幕で怒鳴る魔女に異常さと恐怖を感じた男たちは、即刻彼女を連行するべく駆けようとする。
 しかしそんな彼らの行く手を遮るようにパーシバルが立ち、その腕を伸ばして彼らを制止した。






    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

竜焔の騎士

時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証…… これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語――― 田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。 会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ? マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。 「フールに、選ばれたのでしょう?」 突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!? この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー! 天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平
ファンタジー
新米動物看護師の飯野あかりは、車にひかれそうになった猫を助けて死んでしまう。異世界に転生したあかりは、動物とお話ができる力を授かった。動物とお話ができる力で霊獣やドラゴンを助けてお友達になり、冒険の旅に出た。ハンサムだけど弱虫な勇者アスランと、カッコいいけどうさん臭い魔法使いグリフも仲間に加わり旅を続ける。小説家になろうさまにもあげています。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

処理中です...