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追憶の中で微笑む彼女
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しおりを挟む旅立ちの経緯を全て話し終え、アスレイは何処か肩の荷が下りたような、晴れやかな顔を浮かべる。
そんな彼の一方で、話を聞いていたケビンとレンナは複雑な表情を見せ、暫しの沈黙の後、その口を開く。
「まさか…噂には聞いていたが、あの厄災の被害者だったとは…その…なんだ、話させて悪かったな。そこまで重い話だとは思わなくてな…」
「良いんだ。話せたことで楽になったところもあるし」
そう言うとアスレイは笑みを浮かべ、続けて話す。
「それに…本当は誰かに知ってもらいたかったんだ。この大陸にそんな彼女がいたんだ。ってことをさ」
強く逞しいその笑顔を見やり、ケビンは実感する。
彼が人を強く信じようとする根底には、彼女に対する強い信頼―――想いがあるからなのだろうと。そこまで想うからこそ、アスレイはここまで強くいられるのであろうと。
「俺もお前の話を聞けて良かったと思う。彼女のような素晴らしい女性がいたことを知ることができたんだからな」
そう言って微笑むケビン。
同じ話を以前にも旅先で何度かしたことはあれど、そう返して貰ったことはなく。大抵は「重い話」だ「惚気た話」だと小馬鹿にされていた。
だからこそ彼の反応にアスレイは驚き、一瞬キョトンと目を丸くする。
が、しかし直ぐに破願して答えた。
「…そっか、それなら良かった。ミリアも喜んでいると思うよ」
「でさでさ! アンタのお涙頂戴エピソードはわかったけど。その愛しの彼女との約束を果たすために各地回って天才魔槍士探しってわけ? ったく…ホント損な性格ね、アンタ…」
呆れたため息を吐き出しながら、その場から立ち上がるレンナ。
苦笑を浮かべるアスレイは後頭部を掻きながら、頷く。
「俺自身もそうは思うよ。けどだからこそ、どうしても1ファンの人みたいな会い方はしたくないんだ。ちゃんとミリアが恋い焦がれた人と直接会って、真正面から向き合って、実感したいんだ」
どれほど強い人なのか。
どれほど凄い人なのか。
目を輝かせながらそう話すアスレイを見やり、ケビンは思う。
そんなアスレイもまた、天才魔槍士に憧れ焦れる人間なのだろうと。恐らく今彼が見せている羨望の瞳は、かつてミリアが見せていたそれと同じなのだろうと、人知れずケビンは笑みを零した。
アスレイたちが会話をしていたその空き地より少し離れた、その壁際に寄りかかる一人の影。
無粋ながらも物陰から彼の過去話を聞いていたネールは組んでいた腕を解き、ポツリと呟いた。
「そうか…なるほど……また私は救えなかったということか…」
誰が聞いたわけでもない独り言。
振り下した掌は静かに拳を作る。力強く、音を立てて握り締めながら。
そして、ネールは一人踵を返し、人知れず何処かへと姿を消した。
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