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第三篇 ~漆黒しか映らない復讐の瞳~

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「……息子のためにも、ラショウのためにも。無駄な行動は取るな…お前の任務を全うしろ。良いな?」
 
 暫く黙っていたヒルヴェルトだったが、直ぐに頷き、「御意」の言葉を残し、去っていった。
 彼女の背を目の端で見送った後、キミツキは静かに息を吐き出した。

(ラショウ…お前が生きていればどうしていたことか…)

 ふと彼は森林から覗く夜空を見上げた。
空は月も翳り、雲が黒く、暗く空を覆っている。
花火の打ち上げはこれから始まるというのに、間もなく雨でも降るのだろうかという天候だ。
 そんなことを思いつつ、キミツキはその黒い双眸を細めた。

「―――まさかお前も、ヒルヴェルトと同じことをした…なんてことはないよな……?」

 彼の呟きは夜の風に溶け込んで消えた。
 静寂とした空気が、どこまでも広がり続ける。
 ―――が、しかし。彼は閉じかけた瞳を見開いた。
 直後、森林にあり得ない轟音が響き渡ったのだ。




「なっ…!?」

 ズドン、という脳を揺さぶるような轟音。
 一瞬、生誕祭の花火かとも思ったキミツキであったが。それとは明らかに違う揺れ。
 その音と振動に鳥たちは声を上げ、漆黒の空へと羽ばたき逃げる。
 それから間もなく、聞こえてくる敵襲を報せる笛の音が響く。
 顔を顰め、キミツキは兵を呼び寄せる。

「敵襲だ!」

 その叫びに寝ぼけていたある兵は慌てて跳ね起き、雑談をしていたある兵たちは急ぎ武器を握る。

「キミツキ隊長!」

 と、キミツキの傍らへと駆け寄る軍人。
 連絡係である彼は敬礼も忘れ報告する。

「会食場の四方から攻撃を受けているようです!」
「何故誰も気づかなかった…!?」
「それが…この攻撃は警備をしている包囲の遥か外側から撃たれているようなのです!」

 キミツキはその報告に顔を顰める。

「昔そんな襲撃事件があったな…」
「確か…白装束の卒爾そつじ、でしたか…」

それは、アマゾナイトの入隊試験で必ず出題される程有名な歴史的事件の名だった。
今から400年程前に起こったとされる襲撃事件。
 ネフ族が忌み嫌われる要因となった事件であるが、その事件では古に失われたはずの兵器が使用されたと―――記されている。

「まさか…今回もネフ族が起こしているものということなのか……いや、それよりも今は一刻も早く兵器の発見と破壊だ。お前ら5人は此処で待機。後は俺と共に来い!」
「御意!」

 キミツキの命令に敬礼し、彼らは直ぐに動き出す。
 兵器があるだろう轟音の先へと。臆することもなく。







 同時刻。
湖上警備のため小舟に乗ろうとしていたヒルヴェルトは、その襲撃の音に足を止めた。
 遠く、湖上では祭の佳境を彩る花火が打ち上げられ始めている。

「何事でしょうか…?」

 花火の暴発なのか。だがそれとは明らかに音の感覚も聞こえてくる方角も違う。
 その場にいた他の軍人たちもヒルヴェルトと同じように困惑顔を浮かべ始める。

「……湖上の花火に紛れて襲撃してくるかもしれない。お前たちはこの近辺の警備をより一層固めておけ」
「はっ」

 部下たちにそう指示すると、彼女自身は小舟には乗らずにコートを翻した。

「ヒルヴェルト副隊長は何処へ…?」
「念のためこの異音について偵察と報告に行って来る」
「それならば私が…」

 そう部下が引き留めようとしたが、それでもヒルヴェルトの足が止まることはなく。

「いや、先ほどまで会話していた私の方が直ぐキミツキ隊長を見つけられるだろう」

 そのまま彼女は再度森の奥へと歩き出す。
と、会食場へ近付く程に轟音は騒がしくなり、地震の如く大地も震えていた。

「まさか…」

 徐々に森林の奥から、人の雄叫びのような悲鳴のような声も聞こえ始める。
ヒルヴェルトはこれが古代兵器―――砲撃によるものだと直感した。

「まさか…古の過ちを繰り返そうというのか…!」

 彼女は事件が起きているだろう場所へと急ぐべく、駆け出した。
 



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