上 下
224 / 308
第三篇 ~漆黒しか映らない復讐の瞳~

46案

しおりを挟む
    






 作戦はこうだった。
 まずは生誕祭までに部品ごとに分けてある兵器を襲撃地周辺で素早く組み立て、設置し、見張りを付け待機。
 そして決行当日。夜に行う会食時間を狙い、襲撃する。
 生誕祭最後を彩る花火の音に紛れ、兵器を一斉に放つ。

「兵器の威力で壁を打ち破り砲撃手以外は会場内に突入。でもって、国王やその一族全て捕えた後に己の非を認めさせてから追放。その後は俺らで国を占拠し、新しい国として統治をするんだ」

 そう言うとロドはソファにふんぞり返り豪快に笑う。
 実に単純とも短絡的とも言える作戦。
 『兵器』という圧倒的な武力があるからこそ行使出来るもので、それが仮に瓦解してしまうことがあれば総崩れとも言える危うさのある作戦だった。
 だが、そんな穴の多い作戦に反論する者は誰もいなかった。

「とうちってのはさー、ニコたちもう石投げられたり辛い思いしたりしないですむってことだよね?」
「ああ」
「やったー! じゃあニコ頑張る!」

 躍起になっているのはニコだけではない。
 レグも、他のメンバーも、同じ気持ちでいた。
 憎しみの対象、諸悪の根源と信じている王国をいよいよ討つことが出来る。
 その喜びと興奮で、何よりも、そう言って彼らを導くロドのカリスマ性によって、誰もが成功を信じて止まなかった。
 疑う余地もなかったのだ。
 そして、ヤヲも少なからずその面々の一人となっていた。
 全てに決着がつく。復讐が成し遂げられる。
 それだけを、それさえを願い、此処に居るのだから。



 ヤヲたちが潜伏することとなった宿は、お世辞にも立派とは言えないが、寂れているとも言えない至って普通のレベルであった。
 個室や複数人用の客室から、雑魚寝用の大広間も設けられていた。
 ヤヲはそのうちの個室が割り振られ、旅の疲れを癒すことにする。
 ベッドがあるだけの簡素な設備。それでも窓があるだけ、日が浴びられるだけマシだと、彼は室内に入るなり窓を開け放った。
 心地良いとは言えないが、それでも地下アジトでは感じられなかった風がヤヲの髪を撫でるように吹く。
 時刻はもうすぐ夜になろうとしているというのに、空は鈍色の雲に覆われたままでいる。
 小雨も未だ止む様子を見せない。
 優しくひたひたと降り続く雨の音を聞きながら、ヤヲは暫くそこで精神を研ぎ澄ます。




「ヤヲ…いる…?」

 と、控えめのノック音と共に聞こえてきたのはリデの声だった。
 ヤヲは扉を開け、リデの顔を覗く。

「もしかして寝ていた…?」
「いや、少し休息していただけだから…何かあった?」

 彼女はヤヲの問いかけに一瞬だけ唇を震わせた。
 だが、それは直ぐに堅く閉じられる。
 小さく顔を振った後、彼女は改めて口が開いた。

「チェン=タンが、呼んでいるわ」
「チェン=タンが…?」

 その言葉を聞くなり、ヤヲはあからさまに顔を顰める。
 チェン=タンはそもそもこの組織の人間ではないのだが、今回は兵器の監修役として同行させられていた。

「ロビーで待っているって…」

 それだけ告げるとリデはそそくさと扉を閉め、廊下の奥へと消えていった。
 ヤヲは一人ため息を吐いた後、窓を閉めてからロビーへと向かう。
 行くとそこにはいつもの如くソファに座り込み紅茶を啜るチェン=タンの姿があった。

「一体何の用ですか…?」
「あれ、呼んじゃだめなの?」

 相変わらずの薄汚れよれた衣服にぼさぼさの白髪。
 それとは対照的に無邪気で明るい子供の様な笑顔を浮かべている。
 
「駄目とは言いませんが…良い用事ではない気がするので―――」

 そう言って、ヤヲは視線をチェン=タンの隣席へと向ける。
 彼の隣では同じくソファで寛ぐニコの姿があった。

「それとニコ。この人と一緒にいない方が良いですよ。得体の知れない人間なんですから」

 二人は波長が合うのか、随分と仲が良いようで。
 その様子はまるで親友同士のように見える。
 しかし、この男の異常っぷりを感じ取っているヤヲにしては、ニコのような天真爛漫な子は一緒にいるべきではないと思ったのだ。

「えー、でもレグももう寝ちゃってヒマだし。それにチェン=タン面白い人なんだよー。今もね、お菓子沢山くれたんだー」
「そうだそうだー。ワシだってデリケートなんだから。そんな扱いしないでよー」

 だが、彼女を制御出来るレグもおらず、宥められるリデもいないせいか完全にチェン=タンの肩を持ってしまっている。
 このままでは悪知恵か悪影響かを与えかねないと、深いため息を吐き出しながらヤヲはチェン=タンを宿の外へ引きずり出した。





     
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

決して戻らない記憶

菜花
ファンタジー
恋人だった二人が事故によって引き離され、その間に起こった出来事によって片方は愛情が消えうせてしまう。カクヨム様でも公開しています。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

男装の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。 領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。 しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。 だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。 そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。 なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

処理中です...