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第三篇 ~漆黒しか映らない復讐の瞳~
46案
しおりを挟む作戦はこうだった。
まずは生誕祭までに部品ごとに分けてある兵器を襲撃地周辺で素早く組み立て、設置し、見張りを付け待機。
そして決行当日。夜に行う会食時間を狙い、襲撃する。
生誕祭最後を彩る花火の音に紛れ、兵器を一斉に放つ。
「兵器の威力で壁を打ち破り砲撃手以外は会場内に突入。でもって、国王やその一族全て捕えた後に己の非を認めさせてから追放。その後は俺らで国を占拠し、新しい国として統治をするんだ」
そう言うとロドはソファにふんぞり返り豪快に笑う。
実に単純とも短絡的とも言える作戦。
『兵器』という圧倒的な武力があるからこそ行使出来るもので、それが仮に瓦解してしまうことがあれば総崩れとも言える危うさのある作戦だった。
だが、そんな穴の多い作戦に反論する者は誰もいなかった。
「とうちってのはさー、ニコたちもう石投げられたり辛い思いしたりしないですむってことだよね?」
「ああ」
「やったー! じゃあニコ頑張る!」
躍起になっているのはニコだけではない。
レグも、他のメンバーも、同じ気持ちでいた。
憎しみの対象、諸悪の根源と信じている王国をいよいよ討つことが出来る。
その喜びと興奮で、何よりも、そう言って彼らを導くロドのカリスマ性によって、誰もが成功を信じて止まなかった。
疑う余地もなかったのだ。
そして、ヤヲも少なからずその面々の一人となっていた。
全てに決着がつく。復讐が成し遂げられる。
それだけを、それさえを願い、此処に居るのだから。
ヤヲたちが潜伏することとなった宿は、お世辞にも立派とは言えないが、寂れているとも言えない至って普通のレベルであった。
個室や複数人用の客室から、雑魚寝用の大広間も設けられていた。
ヤヲはそのうちの個室が割り振られ、旅の疲れを癒すことにする。
ベッドがあるだけの簡素な設備。それでも窓があるだけ、日が浴びられるだけマシだと、彼は室内に入るなり窓を開け放った。
心地良いとは言えないが、それでも地下アジトでは感じられなかった風がヤヲの髪を撫でるように吹く。
時刻はもうすぐ夜になろうとしているというのに、空は鈍色の雲に覆われたままでいる。
小雨も未だ止む様子を見せない。
優しくひたひたと降り続く雨の音を聞きながら、ヤヲは暫くそこで精神を研ぎ澄ます。
「ヤヲ…いる…?」
と、控えめのノック音と共に聞こえてきたのはリデの声だった。
ヤヲは扉を開け、リデの顔を覗く。
「もしかして寝ていた…?」
「いや、少し休息していただけだから…何かあった?」
彼女はヤヲの問いかけに一瞬だけ唇を震わせた。
だが、それは直ぐに堅く閉じられる。
小さく顔を振った後、彼女は改めて口が開いた。
「チェン=タンが、呼んでいるわ」
「チェン=タンが…?」
その言葉を聞くなり、ヤヲはあからさまに顔を顰める。
チェン=タンはそもそもこの組織の人間ではないのだが、今回は兵器の監修役として同行させられていた。
「ロビーで待っているって…」
それだけ告げるとリデはそそくさと扉を閉め、廊下の奥へと消えていった。
ヤヲは一人ため息を吐いた後、窓を閉めてからロビーへと向かう。
行くとそこにはいつもの如くソファに座り込み紅茶を啜るチェン=タンの姿があった。
「一体何の用ですか…?」
「あれ、呼んじゃだめなの?」
相変わらずの薄汚れよれた衣服にぼさぼさの白髪。
それとは対照的に無邪気で明るい子供の様な笑顔を浮かべている。
「駄目とは言いませんが…良い用事ではない気がするので―――」
そう言って、ヤヲは視線をチェン=タンの隣席へと向ける。
彼の隣では同じくソファで寛ぐニコの姿があった。
「それとニコ。この人と一緒にいない方が良いですよ。得体の知れない人間なんですから」
二人は波長が合うのか、随分と仲が良いようで。
その様子はまるで親友同士のように見える。
しかし、この男の異常っぷりを感じ取っているヤヲにしては、ニコのような天真爛漫な子は一緒にいるべきではないと思ったのだ。
「えー、でもレグももう寝ちゃってヒマだし。それにチェン=タン面白い人なんだよー。今もね、お菓子沢山くれたんだー」
「そうだそうだー。ワシだってデリケートなんだから。そんな扱いしないでよー」
だが、彼女を制御出来るレグもおらず、宥められるリデもいないせいか完全にチェン=タンの肩を持ってしまっている。
このままでは悪知恵か悪影響かを与えかねないと、深いため息を吐き出しながらヤヲはチェン=タンを宿の外へ引きずり出した。
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