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第三篇 ~漆黒しか映らない復讐の瞳~
44案
しおりを挟む―――小雨が降り続く早朝。
広大な草原地帯を進む、荷馬車の列。
それは王都エクソルティスへと続く路だった。
ゆっくりと進む荷馬車はやがて、王都出入り口である門の前へと辿り着いた。
「通行許可証を」
「はい」
そう言って先頭馬車の御者は番兵である人物へと通行許可証を見せる。
判の捺された証を確認した番兵は敬礼した後、その手を奥の方へ向ける。
「どうぞ、お通りください」
番兵の言葉を聞いた御者は軽く会釈し、手綱を叩こうとした。
「待て」
しかし、先へ進もうとする馬車を止める声が何処からか聞こえてきた。
それは門の向こうから姿を見せた―――別の兵士だった。
馬に跨り急ぎやって来た様子の兵士は槍を構え、馬車の行く手を塞いだ。
「随分な大所帯だな」
そう言うと兵士は先頭馬車の更に後方の馬車へと視線を移していく。
確かに、大きな荷馬車の列は6台に渡っており、まるで一つの村が丸ごと移動しているかのようにも見える。
兵士が疑うのも尤もと言えばそうだった。
「で、ですが隊長…この通り通行証は持っておりましたし……」
しかし通行証がある以上、その疑念はあくまでもその兵士の偏見とも直感とも言える。
そんな上官の行動に、明らかな動揺を見せ制止する部下の番兵。
だが彼は部下の言葉に聞く耳も持たず。馬を降り、馬車へ近付く。
「僕らは旅の商い一座でして…国王様の嫡男様生誕祭に肖ろうと思いまして、遠路遥々足を運んだ次第です」
「商売をしにか? だとしてもこの人数でこの馬車の数…怪しいもんだ」
御者である青年にそう返すと、兵士は疑いの眼差しを馬車の中へと向ける。
と、兵士は半ば強引に馬車へ乗り込もうと幌を掴んだ。
「悪いが中を調べさせてもらう」
そう言うと彼は荷馬車の中を覗き込む。
だが、確認することなく、兵士はその手を止めた。
「動くな、喚くな。余計なことをしなければ命は取らん」
幌の隙間から現れたもの―――それは鋭く輝く刃だった。
剣先を喉元へと突き付けられた兵士は、静かに息を呑む。
「悪いけど…全てが終わるまでは拘束させて貰うわね」
その言葉が耳に入ってきた直後、兵士の視界がぐにゃりと歪んだ。
兵士の男は、一瞬にして力無く崩れ落ちた。
「凄い麻酔の効き目だね…」
「チェン=タンが用意してくれたものだけど…ちゃんと後で起きる…のよね…?」
そう言いながら不安そうに倒れた兵士を覗き込む女性―――リデ。
彼女に寄り添い、御者の男―――もといヤヲは眼鏡の蔓を押し上げながら言った。
「問題ない…とは断言出来ないけれど、こんなところで躓くわけにはいかないし…余計な犠牲者を出すよりはマシだよ」
「そう、よね」
そう話す合間にも、気を失った兵士はレグによって手早く門の隅へと運ばれていく。
少々乱雑に扱われているが、それでも目を覚まさないところを見るに、効き目は相当なもののようだった。
「…この兵士の後のことは頼んだわよ」
「はい」
リデに言われ、返事をする番兵の男。
彼は実は反乱組織ゾォバの人間で。この『革命』に向けて予め潜入していた内通者の一人だった。
上官の暴走がなければ、今頃はすんなりと仲間たちを通過させていたところであった。
「とても勘の働く男で…なるべく此処の任には当たらないよう策は練っておいたのですが…」
「不測の事態は望まないときほど起こるものよ、仕方がないわ」
リデの言葉にもう一度頭を下げた後、男は敬礼をした。
「痛み入ります。そちらこそお気を付けて」
そうして、男の見送りを受けながら、馬車の列は再度進み始めた。
向かうは王都エクソルティスの更に奥部。
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