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第三篇 ~漆黒しか映らない復讐の瞳~
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しおりを挟む丸一日過ぎまで歩き詰めだったヤヲとリデ。
二人はやっとのことでアジトへと帰ってきていた。
時刻はもう夜明けとなり、空は明るくなり始めていた。
だが、一歩アジト内部に入ってしまうとそこは光とは無縁の暗闇が広がっている。
本来ならば天井に通路を照らしている灯りがあるのだが、節約のため今は切断されている。
そのため室内からの灯りが所々、通路へ漏れ出ている程度であった。
「ねえ…この後って何か用事はある…?」
と、通路の突当りに差し掛かったところで、リデが顔を覗き込むようにして尋ねた。
手持ちランタンの灯りから窺える、含むような笑み。
ヤヲは苦笑を浮かべつつ答える。
「とりあえずは仮眠かな」
「その後は?」
「いいや。もう少し日数掛かると思っていたし…特には考えてないかな」
「そうなの? それじゃあ―――」
リデが何か言いかけたそのときだ。
次の言葉を遮るほどの大きな声が通路中に轟いた。
「あーっ! 二人共いたじゃーん!!」
叫び声の方を見つめると、そこにはランタンの灯りが一つ。
それを持っていたレグと、大はしゃぎでいるニコの姿があった。
ニコは二人を見つけるなり両手を振り回しながその傍へと駆け寄ってきた。
「ねえどこ行ってたのー? もう、探してたんだよ?」
そう言ってヤヲのコート袖を引っ張り始めるニコ。
その喜びに沸く笑顔はランタンの灯りにも負けない。
「すみません。少し用事で出かけていました」
「ニコの方こそどうしたの、随分と汗まみれよ」
「そりゃあね、レグと訓練場帰りだから~」
と、ヤヲを開放した彼女の指先が、今度はレグを指し示す。
レグはというとその顔は終始しかめっ面であり、不機嫌そのものといった様子だ。
「ニコの相手は疲れる…」
「ニコだってレグの相手大変なんだけど~?」
今度はニコとレグ、二人そろって不満そうな顔を浮かべる。
なぜこの二人がこんなにも不満なのだろうか。
そう思い困惑しているヤヲに、リデはこっそりと耳打ちした。
「遊び半分で訓練するニコと、実践同様に訓練をするレグはいつも反発してるのよ」
彼女の説明にヤヲはなるほどと、口元を緩ませる。
一方でニコは口をへの字に曲げたまま、今度はリデの腕を引っ張り始める。
「ねえねえ、今度はリデが相手してよー」
「ニコ…二人は帰ってきたばかりだ。それに俺たちも一旦休んだ方が良い」
「えー、まだ二人とお話したいんだけど~」
より一層と不満げに頬を膨らますニコ。
そんな彼女にレグはため息をつき、それからニコの首根っこを掴むとまるで人形のように抱え込んだ。
「やだー、もう降ろしてってばー…!」
「駄目だ。強制的に連れて行く」
じたばたと暴れるニコを他所に、レグはそのまま仮眠室の方へと消えていった。
残されたヤヲとリデはおもむろに視線を合わせ、それから間もなく苦笑を洩らす。
「あの二人って、本当…仲が良くないようで仲の良い親子でしょう?」
「…見ていて飽きることはないかな」
ヤヲの言葉に、更に笑みを零すリデ。
しかし、ニコを連れて行ってくれたレグにヤヲは正直感謝していた。
何せ、ほとんど休憩もなく走り続けの体力では、訓練どころか最早まともに立つことさえ堪えただろう。
一刻も早く身体を休めたいヤヲは霞む目を擦りながら、自室へ向かおうとする。
―――だが、しかし。
突然腕を掴まれてしまい、ヤヲは足を止めた。
反動で揺れる体。
振り返ったその先には、リデの顔があった。
「ねえ」
いつになく穏やかな声。
少女の声を出した彼女は、腕を掴む手とは違う手を出し、一点を指した。
「ほんのちょっとだけ…付き合ってくれない?」
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