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第二篇 ~乙女には成れない野の花~
81連
しおりを挟む事件後、スティンバルは怪我が回復するなり直ぐに庭園へ足を運んだ。
兵の制止を半ば強引に振り切り訪れたそこには、あったはずの東屋がなく。
代わりに、円形に抉れた地面と細かな残骸が散乱していた。
エミレスの起こした『あの光』について、研究者の一人が言った。
「―――あれは恐らく、エナの暴走です」
感情の爆発、そして幼子故にコントロールが利かず起こってしまった悲劇だと言った。
エミレスには直接会えなかった。
が、彼女自身に怪我はなく、どういうことか事件後の記憶もないのだと聞いた。
暴走と共に記憶も放出してしまったのか。
はたまた、ショック過ぎて無意識にそれを封印してしまったのか。
しかし、その方が不幸中の幸いだったかもしれない。
まだ9歳の少女が不本意であれ、父を殺めてしまったことを知れば最悪の場合、新たな暴走を生み出しかねなかったからだ。
そのため、エミレスに事件のことは絶対に言ってはいけない―――禁止事項とされた。
この事件がエミレスに秘密とされたことにより、事件自体ももみ消されることとなった。
国王は突然急死し、屋上庭園への立入は禁止となった。
実験自体も元より停滞状態であったため、そのまま永久破棄。
研究者たちは強制解雇となり、目撃者であった数名の従者も暇を与えられた。
彼らには余生を安心して暮らせる大金を渡し、代わりに事件の一端でも語れば即重罪になると警告した。
否、警告などせずとも語ろうとは誰も思わないはずだった。
何せあのような異能の力と惨劇―――話したとて先ず誰も信じないだろうからだ。
その一方で、実験の全容を知る最高責任者は王国最高刑である流刑に処された。
全てを記録していたが故の口封じと、今回の事件への全責任を負わされる形となった。
事件自体は既に記録から抹消され、歴史の闇に消え去ったというのに。
徹底的に真実を隠すため、一人の男が犠牲となったのだ。
そして、事件以降エミレスについてある『約束ごと』が生まれた。
一つ、エミレスを傷つけない。
一つ、エミレスにショックを与えてはいけない。
一つ、エミレスを悲しませてはいけない。
一つ、エミレスの嫌がることをしない
それらの言動がエミレスのエナ暴走に繋がるとされたからだ。
住まいも王城から国の最東端に位置するノーテルの街へと移された。
事実上の追放であったが、エミレスには『心身の療養が必要だから』という理由が告げられた。
彼女の従者には流刑に処された責任者の子供が就くこととなった。
父を失くし行き場を失った二人への手向けと罰だった。
こうして、真実も告げられず唐突に家族から引き離され、果ての地で心細く暮らすことになったエミレス。
彼女は10年間、今の今まであの日を思い出すこともなく、必要以上に大切に育てられた。
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