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第二篇 ~乙女には成れない野の花~
55連
しおりを挟むそうして辿り着いた場所が、王城の裏庭であった。
案の定、人の気配さえ感じられない荒れた庭に、荒れた叫び声が轟く。
「どうして!! どうしてなのよっ!!」
ベイルは憤り、悲しみ、その叫びを包み隠さずその場所で曝け出した。
溢れ出す感情をぶつけるように、城の壁に拳を叩きつけ続ける。
額に手を添え、目を血走らせ、奥歯をギリギリと噛み締める。
「あの子は…あの子は……あの子だけは絶対に許してはならないのに、許したくないのに!! どうして…どうしてあの人はそれが解らないのッ…解ってくれないの…!!!」
怒りを辺り中にぶつけ、暴れ続けるベイル。
だが、彼女は突如その手を止めた。
背後から近付く気配に気付いたからだ。
ベイルは驚き、慌てて振り返った。
「―――すみません、随分とヒステリックなのが心配だったもので」
彼女の前に現れた男は不敵とも不気味とも言える笑みを見せつける。
男の正体に気付くと、ベイルは顔を顰めながらいつもの気丈な振る舞いで返した。
「…こういうとき、紳士なら黙って見過ごしてくれるものじゃなくて…?」
「フフ、それは失礼しました」
紳士らしく、丁寧過ぎるほど腰を折って謝罪する男。
しかしそのつり上がったままの口角を見るに反省の色はなく。
ベイルはより一層と紅潮していた双眸を細めた。
「悠長にしているようだけど…貴方こそ自分がどういう立場か解ってるの……リョウ=ノウ」
きつく睨みつけられた男―――もといリョウ=ノウは作り笑いを浮かべながら「勿論」と答える。
「王妃ベイル様のおかげでこうして王城内で平穏に匿わせて貰えてるわけですし、作戦も順調に進められる」
「順調…?」
リョウ=ノウの言葉にベイルは睨みつけたまま、反論する。
「順調なのはエミレスの方じゃない。私は貴方が手紙をよこしたから…目的と利害が一致したから手を組んでいるのよ!もし失敗したなんてことになったのなら―――」
と、軽く脅迫するつもりで彼女は言った。
だが、次の瞬間。
その先の言葉を口に出すよりも早く、リョウ=ノウがベイルの口を塞ぐ。
刃向かえない程に力強く。
逆らえないように黒い笑顔を浮かべて。
リョウ=ノウは言う。
「重々解ってます。が、勘違いしないで貰えますか? 僕たちは運命共同体…目的が失敗したそのときはベイル様も道連れになるんですよ…そうする証拠も此方にはある」
掌を押し付けられた勢いでベイルは後退りし、背後の壁へとぶつかる。
それでも構わずリョウ=ノウは冷酷に、低い声で語る。
その気迫に思わずベイルは頷くことしか出来なくなった。
「解って頂ければ幸いです。それで…実は目的のために貴方の力を借りる必要が出ましてね…」
と、リョウ=ノウはその体勢のまま話を続ける。
人気のない、手入れすらされていない裏庭とは言え、相手は男だ。
壁に押し付けられたこの状況を誰かに目撃され、逢瀬などと勘違いされては困ると、ベイルは訴える。
が、その口は塞がれたままであり、リョウ=ノウに届くことはなく。
「聞いて下さいますよね…?」
半ば強制的に、彼はその内容をベイルの耳元で囁く。
木々の騒めきよりも微かな声で、伝えられる策。
それを聞いたベイルは目を見開いた。
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