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第二篇 ~乙女には成れない野の花~
48連
しおりを挟む―――それから更に時は進み、数日後。
ようやく10年前を知る人物の手掛かりを得た。
念のため若い兵士や従者にも当たってみたのが功を奏した。
「そーいや、僕のじいちゃんが元学者で王城に勤めていたよ。まあ10年前に辞めてるけど…」
「本当か? それで今は何処にいる…?」
「王都の南地区だよ」
ラライは人知れず小さく拳を握る。
やっと掴んだ手掛かり。
早速その人物を尋ねるべくラライは詳しい所在地を聞き、急ごうとした。
が、情報を聞いた兵士たちがしていた会話を耳にし、彼は足を止めた。
「そーいえば僕さ…エミレス様が閉じ籠ってる理由、知ってるんだ」
それは何気ない同僚同士の、他愛のない噂話だった。
しかしラライは心の高ぶりから、そんな彼らのよた話にも目を光らせた。
彼は直ぐに踵を返すと、兵士の懐にまで飛び込んだ。
「そりゃ本当か! 何で姫様は閉じ籠ってんだ…!?」
鋼の肩当てを掴まれ、思いっきり揺さぶられる若い兵士。
「ちょ、ちょっと…!」
「落ち着いて下さい…!」
「ああ、すまん」
目を白黒させ驚いている若い兵士を助けるべく、同僚の兵士がラライを制止する。
何とか解放された若い兵士は軽く咳き込み、ふらつく頭を押さえながらもラライを一瞥した。
「まあ…ここだけの話しだよ…?」
そう言うと彼は何故か得意げな口振りで囁いた。
「実は―――エミレス様は国王様の実妹じゃないんだ」
若い兵士の言葉を聞いた途端、ラライは顔を顰める。
確かにその噂はよく耳に入っており、可能性も高いとラライ自身も考えていたことだった。
「別邸で長年離れて暮らしてた辺り、無くはない説だが…それが閉じ籠る理由になるのか?」
エミレス自身は兄や義姉に会いたがっていたと、リャン=ノウの報告でラライは聞かされていた。
それがいざ再会しようにもあんな素っ気ない対応をされては、確かに閉じ籠りたくなる気持ちもよく分かる。
と、今更に推測するラライ。
「いや、そういうことじゃないって」
そう言って若い兵士は指を左右に振ってみせる。
彼の持つ雰囲気に僅かに顔を顰めるラライだが、若い兵士は構わずに話を続けた。
「―――だって、似てないじゃないか…あの兄妹」
「は?」
思わず出た声。
ラライの眼つきが鋭くなったことにも気付かず、若い兵士は語る。
「国王スティンバル様と妃ベイル様はお若くして国を担うお方、そして勇猛で慈悲深い美男美女。国一番の美しい夫婦とも言われてる……」
それもよく聞く話だった。
整った顔立ちである国王と王妃は歴代国王の中でも随一の美しさだと。
そんな世間話の延長線上で語られ始めている、つまらない噂話だった。
ラライは、若い兵士の次の言葉を聞いた瞬間、これまで以上に目を細めた。
「片やでエミレス様と言えば…無理矢理整われた金髪に死んだような目。顔は化粧をしても目立つそばかすでさ…体系も小太りだったし、とてもとて、も―――」
兵士はそれ以上、何も言えなくなってしまった。
鬼のような形相のラライが、彼の口元を思い切り掴んだからだ。
顔面に食い込む爪先。
若い兵士は苦痛に呻き声を洩らす。
「あー、随分と反吐の出る理由だな……お前も大概な形してるくせによ…!」
至って平静を装うラライの口振り。
一方でその憤りは、顔に食い込む指先の強さと比例する。
と、ラライは兵士の顔から手を放した。
解放された若い兵士は逃げるように仲間の兵士の背後に隠れる。
「な、何するんだよ…!」
「すまんな、面白いこと言う口があったからつい触ってみたくなった」
適当な言い訳だけどな、と告げるラライの冷血な視線。
睨まれる若い兵士はすっかり狼狽してしまい、怯えた様子で同僚にすり寄る。
城を守る立場の人間とは思えない行為に呆れつつ、ラライはやりきれない怒りから深いため息を吐く。
「知らないのか、ぼ、僕だけじゃない…みんな言ってんだって!」
ついには先ほどまで得意顔でいた己の推測を他人せいだとへ転嫁する始末。
彼は同僚の制止も聞かず、声を荒げた。
「よ、よせよお前…」
「―――エミレス様は不細工だ、『王城の籠り王女』じゃなく『王城の籠の醜女』だってさ!!」
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