119 / 313
第二篇 ~乙女には成れない野の花~
47連
しおりを挟む*
今日も一日、何も変わりませんでした。
何も変わらない毎日。
何も得られない毎日。
私は独りぼっちです。
それがとても恐いです。
このままどうなっていくのだろう、私はどうしたいのだろう…。
それが解らなくて苦痛で仕方がありません。
でもその苦痛も、あの頃の懐かしかった楽しかった日々を思い返せば忘れられます。
それに、今の私を助けてくれるのはきっと貴方だと信じています。
私は貴方が此処に来てくれる日を待っています。
私に初めての感動をくれた人。
初めて恋をした人。
貴方にとても会いたいです。
―――フェイケスへ―――
貴方を待つエミレスより。
*
エミレスが部屋に籠ってから、更に時は進む。
相変わらず兵士たちは彼女を『王城の篭り王女』などと揶揄し、噂している。
これ以上は王家の名に傷が付くからと、彼女を別所へ隔離するよう望む貴族もいた。
だが未だそれに至っていないのは、偏にスティンバル国王の一声があるからこそ、であった。
一方でラライはあれからずっと、エミレスたちの『あのとき』について調べていた。
しかし、その前途多難さに彼は打ちのめされる。
王城内の資料室。
そこでラライは今日も声を荒げていた。
「ちっ……なんで記録が残ってないんだよ!」
彼はエミレスに関する記録書や、王城内外で起こった出来事の報告書、しまいには歴史書まで引っ張り出して調べた。
が、そのどれもにエミレスの名が記されていないどころか、何故か存在さえ書かれていなかったのだ。
「王女様が産まれてからの記録が全くないって…なんでなんだよ…!?」
顔を顰め、頭を掻き回すラライ。
王族の家系図には唯一名前こそ記載されていた。
が、エミレス・ノト・リンクスに関する記述は皆無であった。
彼女がどのように育ってきたのか。
彼女がどのようにして、あの別邸に住むようになったのか。
どのようなことが、彼女に起こったのか。
何処にも―――まるで彼女の存在そのものを隠すかの如く、一節さえも記されていなかった。
「じいさんの態度に合点がいった…あの姫様、そこまで秘匿にされてるってことかよ…!」
一週間近く資料室に籠って得た結果が、それであった。
随分と時間を無駄にしてしまったと、苛立つラライ。
しかしそんな気持ちを抑えながら、彼は即座に次の行動へと移した。
エミレスがノーテルの別邸に移り住む以前―――10年前の王城を知る者たちから、情報を聴くことにしたのだ。
古くから仕えている従者や、昔から王城で暮らす貴族たち。
記録がなくとも、彼らの記憶には何かしらの手掛かりがあるはず。
―――そう思っていた。
だが、この作戦も簡単にはいかなかった。
どういうわけか、アドレーヌ城に10年前から住み込みで仕えている者たちでさえ、エミレスについて詳しい話を知らなかった。
「―――エミレス様は、確かに昔は明るく天真爛漫な子でした。ですが王城から外へお出になることはありませんでしたし、以前も話した通り、私は一度暇を貰った身…詳しい話は何も知らされておりません」
一番詳細であった情報が、前にも聞いた乳母のクレアくらいであった。
他の関係者に尋ねると、ほとんどの者が首を傾げるか、頭を振ってしまっていた。
「そもそも、国王に妹君がいたなんて驚いたよ」
「20年とこの城に仕えていましたが、この間初めてお目にかかりましたよ」
口々に彼らは「実は初めて見た」「幼少を見たことがない」「存在自体知らなかった」と、話す。
ラライはどんどんと面倒くさい展開に追いやられている感覚に後悔しつつも、めげることなく城内外を歩き回った。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
隠された第四皇女
山田ランチ
ファンタジー
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる