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第一篇 ~銀弾でも貫かれない父娘の狼~
61話
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アマゾナイト軍基地の正門ではエナバイクによる駆動音が轟いていた。
艶やかに黒く光を放つそのバイクには、かつて使用されていた液体燃料を必要としない。
代替のエンジンとなるのは、核と呼ばれる結晶体。
この透明な結晶石には、近年発見されたばかりである高エネルギー物質“エナ”が含まれている。
“エナ”は、まだ何も解明されていない未知の代物でこそある。
が、かの兵器に匹敵する力を得られつつも、大地や自然への悪影響は少ないとされている。
そのため、現在その研究が進んでいるという―――つまりは、新たな未来の“源”と言えた。
そして、そんな未来の“源”と同じく、アーサガにとっての未来の“源”もまた、そのバイクの上で眠っている。
ベルトで腰を固定されながらも、ウトウトと頭を揺らしている。
だがそれでも父から離れまいとそのか細い両手はしっかりと彼の身体を掴んで離さない。
そんな愛しい姿の娘を見やり、穏やかに微笑むアーサガ。
彼は視線を改めて門の方へと向けた。
「もう行っちゃうのか? 何だかんだでゆっくり出来なかっただろ」
アーサガが視線を向ける先では、ブムカイが見送りに来ていた。
「休養しに来たわけじゃねえし」
「けど脚の怪我だって完治してないだろ。ちゃんと治るまでは休んだ方が良いと思うぞ?」
ブムカイの言葉に対し、沈黙するアーサガ。
バイクの駆動音だけが虚しく轟いていく。
と、それからおもむろに、アーサガが重い口を開いた。
「―――なあ、兵器は…無くなると思うか?」
いつになく神妙な顔付きで尋ねるアーサガ。
それに答えるべくブムカイは顎に手を添え、思案顔を浮かべる。
彼の顎には剃る暇も無かったのか、いつの間にか無精ひげが生えていた。
「うーん―――女神様の奇跡で大半の兵器は鉄くずに成り変わった…けど、何もかも消滅したわけじゃない。新たな争いが起これば確実に兵器もまた作り出される…かもしれない」
ブムカイはそう言ってから、アーサガに向けていた目線を少しばかり逸らす。
が、彼はすぐに目線を戻し晴れやかな笑顔を見せた。
「でも、な。俺は兵器が無くなるどうのこうのよりも、お前がその行為―――狩人を続けていくことに意義があると思うぜ」
そう言うとアーサガの肩を軽く、激励の意を込めて叩くブムカイ。
仮にその言葉が気休めだったとしても、今のアーサガにとってはありがたいと思えたし、ブムカイの気さくな性格にも救われる。
「…そうか」
一言だけそう言うとアーサガはヘルメットへと手を伸ばす。
漆黒のヘルメットを被り、彼は一度バイクを唸らせた。
「今度は何処の方面に行くんだ?」
「マナタ山脈に行くつもりだ」
「ってことは南部か…あの辺は『女神の奇跡』が届かなかったのか兵器の墓場と化しているからな。気をつけろよ」
アーサガは後席のナスカに目を配らせ、再度ベルトの固定を確認し、前方へと向く。
いよいよ出発、そう思った矢先。
「待ってください!」
と、彼らの背後で声がした。
ブムカイが振り返ると、そこには慌てて駆けつけてきたハイリがいた。
彼女は息を切らし、肩を大きく揺らしながらアーサガのバイクへ近付く。
「あの、あの…!」
まるで今生の別れかの如く、悲痛な声と表情を見せるハイリ。
言いたい事があったのに、何も言えない声が出ないといった様子だった。
と、そんな彼女を一瞥した後、アーサガはおもむろに言った。
「次はちゃんと休養しに来てやる………後、今回は色々と世話になった…またな、トイラ」
地面から静かに足を離すアーサガ。
すると、後輪側部の排気口から勢いよく風が吐き出される。
このバイクはこの風の力を利用して動いていた。
そして風に舞う木の葉の如く。
バイクは颯爽と彼女達の前から姿を消した。
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