41 / 308
第一篇 ~銀弾でも貫かれない父娘の狼~
39話
しおりを挟むアーサガの脳裏に過る光景。
回収していた兵器が突如暴発したあの日。
兵器に巻き込まれ、愛する妻が命を落とした。
地面は鮮血に染まり、彼女の下半身は見るも無残な様になっていた。
だがそれでも彼女は言葉を残そうと唇を動かし、涙を流して絶命した。
「―――違う! 俺は…あれは……!」
アーサガは感情に身を任せ、ジャスミンが持っていた銃の引き金を引いた。
が、それは発砲することなく、小さな金属音が聞こえたのみだった。
まさかの事態に更なる動揺を一瞬だけしてしまうアーサガ。
その僅かな隙を逃さずジャスミンは次の瞬間、地を蹴り彼の懐へと飛び込んだ。
眼前に迫る不敵な笑み。
アーサガが反応するより早く、彼女は彼の持つ銃を蹴り上げた。
彼の目線は自然と弾け飛んだ銃の方へ向いてしまう。
直後、腹部に激痛が走った。
「ぐっ…!」
ジャスミンの力強い蹴りで、アーサガは激しく吹き飛ばされていた。
椅子やテーブルが乱雑に詰まれた瓦礫へと投げ飛ばされ、それらはアーサガの真上に落ちていく。
埃が激しく舞い散る中、ジャスミンは飛んでいったアーサガの元へ悠然と近寄る。
そうして転げ落ちていた自分の銃を拾い上げた。
「くそっ…!」
残骸を避け、立ち上がろうともがくアーサガ。
と、その額に冷たい感触が当たった。
ガチャリという重たい金属音が響き、それがなんなのかを確信させる。
「…弾切れの銃なんか突き付けてなんの意味もねえだろ」
「ホント馬鹿な子だねえ。闇の人間はいかなる対応もしとくもんさ。あたしのコレは特別製でね、特殊な操作をしないと安全装置が外れることはないんだよ。なんなら試しに撃ってみるかい?」
目の前に見えるジャスミンの銃はよくあるタイプの回転式小銃だ。
アーサガが握ったときも違和感などなかった。
彼女のハッタリとも取れたが、その瞳が嘘ではないと語っているようにも見える。
信じるか信じないか。
動くか、降参するか。
形勢はいつの間にか逆転し、アーサガは不利な状況に陥っていた。
ジャスミンの言葉に嘘はないだろうが、このまま降参しては彼女の暴走を止める事が出来ない。
アーサガは目の端から見えた足元の木の棒に気付き、一か八か、静かにそれを足に引っかけた。
そしてタイミングを見計らい、彼女目掛けて大きく蹴り上げようとした。
「そんな見え見えの動きを私が逃すと思ったかい?」
が、不意を狙ったはずの彼女は笑みを浮かべる。
アーサガは顔を顰めた。
「…危ないっ!」
突如、その声は何処からともなく聞こえた。
予想だにしていなかった第三者の声に、ジャスミンは思わず目線を逸らしてしまっていた。
アーサガはその機会を逃さず。
蹴り上げた木の棒を手に掴ませ、振り回した。
が、ジャスミンはそれを既のところで避け、飛び退いた。
「邪魔が入ったね…」
そう洩らす彼女の顔に、つい先ほどまでの笑みはない。
苦虫を噛み潰したような顔をし、そして何も告げずにジャスミンは立ち去っていく。
「待て…!」
ジャスミンの後を追うべく、アーサガは彼女の背へと手を伸ばした。
しかし、椅子の山が落ちてきたときの衝撃で足を打ったらしく、思うように足が動かない。
無理に動こうとすると激しい痛みが全身に走った。
「くっ…!」
「無理はしないでください!」
顔を苦痛に歪ませるアーサガへ、駆け寄る女性。
それはハイリであった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
妻と愛人と家族
春秋花壇
現代文学
4 愛は辛抱強く,親切です。愛は嫉妬しません。愛は自慢せず,思い上がらず, 5 下品な振る舞いをせず,自分のことばかり考えず,いら立ちません。愛は傷つけられても根に持ちません。 6 愛は不正を喜ばないで,真実を喜びます。 7 愛は全てのことに耐え,全てのことを信じ,全てのことを希望し,全てのことを忍耐します。
8 愛は決して絶えません。
コリント第一13章4~8節
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
義妹がいつの間にか婚約者に躾けられていた件について抗議させてください
Ruhuna
ファンタジー
義妹の印象
・我儘
・自己中心
・人のものを盗る
・楽観的
・・・・だったはず。
気付いたら義妹は人が変わったように大人しくなっていました。
義妹のことに関して抗議したいことがあります。義妹の婚約者殿。
*大公殿下に結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい、の最後に登場したアマリリスのお話になります。
この作品だけでも楽しめますが、ぜひ前作もお読みいただければ嬉しいです。
4/22 完結予定
〜attention〜
*誤字脱字は気をつけておりますが、見落としがある場合もあります。どうか寛大なお心でお読み下さい
*話の矛盾点など多々あると思います。ゆるふわ設定ですのでご了承ください
上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!
まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。
ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる