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第一篇 ~銀弾でも貫かれない父娘の狼~

34話

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 アーサガはアドレーヌを探し回った。
 スラム街道に存在している店は全て回ってみた。
 賭博場も、闇ギルドも、薬品や武器の売買場さえも。
 彼女と一度でも行ったことがあった場所は、くまなく探した。
 だが、どこを探しても見つかるわけがない。
 アドレーヌの行った先は既に決まっているのだ。
 だからこそ、彼女の場所へ追いかけることはアーサガには出来なかった。
 アーサガはアドレーヌが届かない場所へ行ってしまったことを信じたくなかった。

「アドレーヌ…約束したのに……」

 アーサガは探し疲れ、崩れ落ちるようにその場に座った。
 日はいつの間にか傾き始め、暮れようとしている。

「なんでだよ…」

 ずっと慕っていた、想っていた相手が目の前から居なくなってしまった。
 約束も果たしていないうちに姿を消してしまった。
 生きていても、もう二度と、会うことも話すことさえ叶わない。

「く…そぅ…!」

 アーサガはこのとき初めて知った。
 大切な人が居なくなるという恐怖と悲しみを。



 例えようのない悔しさと憤り、そして悲しみにアーサガは街道のど真ん中―――人前であることも忘れて地面へ何度も拳を打ち付けた。
 奴当たるように何度も何度も。
 だが周囲を通りがかる人々は、そんな少年を気に病むことも制止することもない。
 大きく振りかざした拳は次第に血と土で汚れていった。
 と、また振り下そうとした拳へ、次の瞬間、優しく温かい感触が伝わってきた。
 振り返るとそこには、アーサガの幼い手を握るリンダの姿があった。
 彼女はポケットから取り出したハンカチでアーサガの汚れた手を包み込む。
 そんな彼女の瞳には沢山の涙が溢れていた。

「私も寂しいよ…だって、ちょっとしか一緒じゃなかったけど兄弟みたいで楽しかった……だから…ひと言、さよならって言って欲しかったね…」

 耐え切れなくなったリンダはアーサガを抱きしめた。
 きつく、強く。
 流れ出る涙をそのままに。
 アーサガはこのとき初めて気付いた。
 アドレーヌを慕っていた、想っていた人物は自分一人だけではなかったということに。
 リンダもまた、同じ想いを寄せていたということに。
 無意識にアーサガはリンダの頬へ、そっと触れた。
 頬を伝う彼女の涙に触れ、その温かさに気づく。

「リンダ…」

 気付けばアーサガも涙を流していた。
 一つこぼれ落ちたそれは、一つ、また一つとこぼれていき、次第に止め処なく流れていった。
 それからしばらく、二人はそのまま心の底から悲しみ、泣き続けた。
 道のど真ん中で、消え去ってしまった歌姫を思い叫んだ。
 次第に空を覆っていた暗雲は雨雲へと変わり、大粒の雨を降らせた。
 冷たく突き刺さる雨粒が二人の体温を奪い、身体は直ぐに凍えていった。
 しかしそのせいか、リンダの流した涙の温もりがとても心地よくて、優しくて、アーサガはいつまでも忘れられなかった。
 同時に、アーサガにとってリンダはアドレーヌよりも特別な存在なのだと気がついたのは、この時であった。 







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