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第三章 魔王城

十.上書き、してくれないか?(後) sideレオンハルト ※

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 わたしの目の前で体を朱に染めて淫らに身動いでいるのは、この世で一番愛しくて掛け替えのない存在だ。

 気持ちを受け入れてもらって婚約者になった。それだけでも、生きてきた中で最も幸福なことだと思っていたのに、幸福の先にまだこんなに素晴らしいものがあるとは思ってもいなかった。一緒の時を過ごせば過ごすほど果てもなく気持ちは増していき、彼の笑顔を見るだけで幸せな気持ちになるのだ。わたしはそれほど信心深い方ではないけれど、運命の人ショウと巡り合えたことを神に感謝しなければならない。

 以前戦闘中に、わたしの目の前でショウはオークたちと共に地中に飲み込まれて行った。あれは今思い出すだけでも恐ろしい……。わたしはまた大切な存在を護ることが出来なかったのかと絶望した。結果から言えば、ショウはオークを倒し無事に地上に生還した。妖精魔法で地中に空間を作るという発想にも驚かされたけれど、手強いオーク数体を一人で倒したのだ。護られるだけでは嫌だという彼の強い意志を尊重して、戦闘に参加してもらっているが、どこか安全な場所に閉じ込めて護りたい衝動に駆られてしまう……。

 それは彼の望むところではないし、そんな身勝手な考えを押し付けてしまえば、彼はわたしの元から去って行くだろう。
 ――彼を失えばわたしはもう正気を保つことは出来ない。

 失ってしまうかもしれないという恐怖から、無事に戻って来てくれたというのに、目の前の彼が生きていることを確認したくて彼に触れた。彼の体温や鼓動を感じて安心したところから記憶がない。気が付いた時にはわたしの昂り切った剛直がショウの慎ましやかな後孔に精を吐き出していたのだ。初めてであるというのに、わたしは慣らすこともそこそこに挿入してしまったのか、彼の美しい後孔は赤く腫れ上がっていた。

 優しい彼は身も心も結ばれて嬉しいから気にしないで欲しいと言う――。

 しかし、わたしは自分で自分が許せない。

 初めて結ばれるのは結婚式の後の初夜で、蕩けるほどに全身愛撫を施して、苦痛など感じさせない幸せなものにすると心に決めていたというのに――。無理やり体を開いた上、強引に奪ってしまったのだ。

 その日から、口付けや軽い触れ合いの頻度を減らした。ショウに恐ろしい思いをさせてしまったのだ。どれが切っ掛けで思い出させてしまうか分からない。

 今日廃村で四天王が一人、キャンベラとの戦闘があった。奴の飼育していた蟲どもを殲滅すると、突如現れた奴は巨大ミミズを呼びだした。巨大ミミズは、地中を移動して攻撃を仕掛けてきた。土の妖精の力を借りたショウの的確な指示のおかげで、巨大ミミズの戦闘にそれほど手こずることはなかったのだが、様子を窺っていたキャンベラはショウに狙いを定めた。

 さほど攻撃力のなさそうなキャンベラだが、捨て身で渾身の一撃を放ってきた。しかしショウのネックレスの結界が発動して、奴に跳ね返すことが出来た。そこに聖女様の浄化の効果も相まってキャンベラの魂は消滅し、本体だと思われる人形だけが残された。それに手を伸ばそうとしているショウを制して、わたしは容赦なく人形を燃やした。
 
 ロッジに戻り食事を済ませると、それぞれの部屋に戻る。二人きりになると、壊れてしまったネックレスの代わりに、ブレスレットを贈った。これは魔石の性能的に状態異常無効程度の魔術しか籠めることが出来なかったのだが、金色のバングルに翠色の魔石が誂えられている意匠で、密かにわたしの色を身に着けてもらいたいという願望の籠められた品だ。

 ショウの腕に装着すると、愛らしい眦から美しい涙が零れ落ちそうで、思わず口付けて涙を吸い取った。

「嬉しい。レオの色で、見てるだけで勇気が貰えそうだよ」

 効果を説明して、必ずわたしが護ると誓うと、そのような可愛らしいことを言ってくれるものだから、愛しさが溢れてお互い自然と唇を重ねた。口付けが深くなり、どんどん気持ちも昂ってくる。ただでさえ、戦闘後で興奮冷めやらない状態である。少しの刺激でわたしの愚息は反応を示してしまった。これ以上口付けを続ければ、ショウに恐ろしい思いをさせてしまうことになるだろう。

 初めてを奪ってしまったあの日、ショウはわたしを気遣って気にしていないと言ってくれたけれど、恐ろしかったに違いないのだ。いくら目の前でショウが消えて、絶望に包まれていたからといって、無事に戻ってくれた彼を襲うなど……。自分で自分が許せない。

 離れ難いけれどそろそろ体を離そうと考えていると、ショウは信じられないことを口にした。

「レオ、しないのか?」

 聞き間違いかと聞き返すけれど、言葉の通りの意味だった。

「ショウ……。その……、ショウは嫌じゃないのですか?」

 恐る恐る訊ねる。

「うん。嫌じゃない」

 優しい彼のことだから、わたしの愚息が兆していることに気付いて、気を使っているのかもしれない。どうしたら良いのか分からず狼狽えていると、破壊力の凄い言葉が発せられた。

「あのさ、この間も言ったけど俺は嫌じゃなかったんだよ? 切っ掛けはどうであれ、身も心も結ばれたのは純粋に嬉しかったし。でもレオが初体験を後悔しているんだったら、今日初体験の上書き、してくれないか?」

 初体験の上書き――。

 願ってもないことだった。あの初めてをなかったことには出来ないけれど、愛させてくれるというのだ。目の前にいるこの彼こそ神なのではなかろうかと思うほど尊い。

「そう。正直なところ、急展開だったこともあって俺自身もはっきり覚えてないからさ、ちゃんと愛し合いたい。ダメかな?」

 尊さに固まっていると、首を傾げて上目遣いにこちらを見ている黒曜石の瞳が目に入る。可愛いが過ぎるその行動はわたしの心臓を打ち抜く。ダメな訳がある訳ない!

「貴方との初体験を、上書きさせてください!」

「レオ、優しくしてね?」

 なんとか動揺を隠して言えたというのに、何と可愛らしいことを言うのだろう。可愛すぎてこの場で襲い掛かりたい気持ちをなんとか堪えてベッドに運ぶとすぐに彼の上に覆いかぶさった。早急に名前を呼びながら、細いショウの首筋に舌を這わせると、焦ったような声が聞こえた。しかしもうこの状況で我慢など出来ない……。謝ってそのまま行為を続けた。

 ボタンを外してはだけさせた胸元を手で弄り、慎ましやかな果実の存在に気が付く。ずっと触れて味わいたいと思っていたショウの胸の飾り……。口付けていた唇を離すと、首筋をなぞって胸まで舌を這わせた。

 小さいのに健気に存在を主張しているショウの胸の果実は、わたしの愛撫を受けて少し色が濃くなった。手で触れた時にはふにふにとした極上の柔らかさだったそこが、次第に芯を持ち、ここにいるよとわたしに語りかけて来ている気がして、堪らず吸い付いた。

 口に含むと、小さい果実はしっとりして不思議なことに甘ささえ感じた。舌で捏ねて感触を堪能し、尖らせた舌先で小刻みに弾くと、ショウから甘美な鳴き声が聞こえてきた。その声に興奮したわたしは、ショウの蕩けた表情も見逃したくなくて、果実と彼の顔を交互に堪能した。

 ――ピチャピチャ

 わざと立てた水音はいやらしい雰囲気を益々濃くする。

「――っ‼ 痛いっ……」

 しかし何か考え事をしているのかどこか上の空な彼に、集中して欲しくて乳首を甘噛みすると、小さな悲鳴が上がった。何を考えていたのか訊ねる。答えようとしているのに、乳首への愛撫は止めない。

「っ、やっ、む、むらに……うんっ、あっ、村に、つくった、うんっ、お墓のことを、考えてた……、ご、ごめん」

 息絶え絶えに答えてくれたことは、彼ならそう思うだろうと思っていたことだった。戦闘後直ぐに対処していたことだったから、安心させるためにもそう告げる。彼の愁いを晴らすのはわたしの務めであり喜びなのだから。それを聞いた彼はわたしの頭を抱えるように胸に抱き寄せ、髪を優しく撫でてくれた。

「レオ、ありがとう……」

 感謝をしたいのはわたしの方だというのに、彼は些細なことにもすぐ感謝を口にする。わたしは彼に出会って、随分人間らしい感情を思い出すことが出来ていると思うのだ。クラーレを亡くしてから、他人を信じることが出来なくなっていたわたしを救ってくれたのは紛れもなく彼の存在だ。

 頭が解放されるとショウから口付けてくれた。どこかしんみりとしてしまっていたけれど、舌を絡ませると欲望の炎が再び燃え上ってくる。ショウの咥内を蹂躙しながら上衣を全て取り去って、下衣の上から彼の太腿を撫で擦り柔らかさを堪能する。何度も執拗に撫で擦ると焦れたのか、彼の腰がゆるゆると動いているのに気が付いた。無意識だろうと思われるけれど、わたしとの行為に嫌悪を抱いていないことが分かり、嬉しくて思わず小さく笑ってしまった。
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