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第三章 魔王城

五.妖精王アゲイン

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「誤解だよ。俺とアクアは契約こそしているけど、そんな関係じゃないよ。それに、俺には婚約者がいるし……」

 憤慨した様子で俺とアクアの関係を疑って食って掛かって来ていた火の妖精に、俺たちの関係を説明した。土の中での戦闘で助けてもらったことや、その後に契約をしてもらうことになったことを話し、それでもどこか懐疑的なフィアに納得してもらう為に、王子と俺が婚約関係にあることを話した。

「そうよ! しょうちゃんはれおっちとラブラブなんだから、変な言い掛かりつけるのやめなさいよね!」

 俺の話を聞いていた妖精たちが援護してくれるけど、有難いのにとても辱められているような気持ちにさせられる。

「ちょうたんはれおたんのこと大ちゅきでちゅ♪」

「おれっちから見ても二人はラブラブに見えるし、何しろアニキはアクア姉の好みじゃないじゃん」

 妖精たちに他意はないことは分かっているんだけど、やっぱり恥ずかしい。俺の横にいる王子には、妖精と俺の会話は聞こえないけど、俺が王子と婚約者だっていう発言をしてから顔を赤らめたりしているのを、何とも言えないような微笑まし気というか生温い笑顔で見詰めて来て辛い……。

「じゃあ、本当にお前とアクアは何でもないんだな?」

「勿論だよ!」

 念押しで確認されたから即座に答える。

「ふーん。なら良いけどよ、くれぐれもアクアのこと変な目で見るなよ?」

「うん。大丈夫だよ。アクアは綺麗だけど、俺には……レオがいるから……」

 最後の方は恥ずかしくて小さな声になってしまったけど、フィアには聞こえたようで納得してくれた。でも、凄く小さな声で話したはずなのに王子にも聞こえてたみたいで「わたしにもショウゴ殿だけですからね」って囁いてきて益々居た堪れなくなった。

「フィア、わたくしのことを追い回すほどお暇なのでしたら、あなたもショウゴ様と契約なさいな。妖精王様の加護を持つショウゴ様のことお嫌いではないのでしょ? わたくしに、少しは好いところをお見せなさいな」

 今まで我関せずだったアクアがフィアにそう言うと、フィアは直ぐに了承してくれて、俺のリアクションも待たずに頬へ口付けを落として契約をした。

「そりゃいいな! 俺様がどれだけ優秀な火の妖精かってところを見せてやるよ。きっと惚れなおすぜ?」

「せいぜい足を引っ張らないことですわね」

「フィアも仲間になったなんて、しょうちゃんやったね! ――ココだけの話、フィアはアクアの掌でコロコロだから扱いやすいと思うよ」

 胸を叩いてアクアに任せろと言っているフィアを他所に、こっそりポピーはそう言った。アクアもツンデレっぽいけど、フィアも結構アレだな。そんな感想を抱きつつ、フィアにどういう魔法が出来るのかなどを聞きながら先へ進んだ。

 ロッジを出てからは、いつ襲撃に合っても良いように馬は王子の転送魔法で、一番近い村に非難させている。足場も悪く歩いて進むのはしんどいけど、定期的に田辺さんが回復魔法を掛けてくれているおかげで何とか進むことが出来た。他のみんなに比べて、俺も田辺さんも持久力がないから、回復魔法は本当に有難い。襲い掛かる魔獣を倒しながら、魔王城への道を進んでいると、ポピーが俺の腕を引いて「妖精王お父さんが呼んでるから、しょうちゃんちょっと来て」と言った。みんなにそう伝えると、湖の時のように王子は一緒に付いて行くと言うから、ポピーに許可をもらった。

「この先に湖があるらしくって、そこで妖精王が呼んでいるって言うから、少しだけ抜けさせてもらうね」

 その間に少しでも体を休めることが出来るように、王子はロッジと同じような効果のある小屋を取り出した。俺たち二人が抜けている間に万が一強敵が現れた場合、いくら勇者ディランとエリックが強いとは言え、二人だけで聖女田辺さんを護りながらでは無理がある。六畳一間しかない小屋だけど、王子がロッジを作り出す研究の試作品として作った小屋は、大きなソファーが誂えてあって休憩程度なら俺たち全員でも十分なのだ。無駄に広いより落ち着くのは、元の俺の部屋が六畳だったからかな。

 ポピーに付いて行くと、開けた場所に出る。その真ん中に小さな湖があって、そこに妖精王は佇んで居た。

「久しいのう愛し子よ」

 相変わらず中性的で綺麗な妖精王は、美しい笑顔を浮かべている。

「お久しぶりです、妖精王様」

「そう畏まるでない、横の王子にもわしの姿が見えるようにしてやろう」

 妖精王の魔法で、王子にも妖精の姿が見えるようになった。

「やっほ~れおっちぃ♪ おっひさしぶり~」

 ポピーが場にそぐわない明るさでそう言うと、王子は二人に丁寧に挨拶をした。

「ご無沙汰しております。妖精王様、妖精姫様。その尊くお美しいお姿を拝見できるようにして頂き光栄でございます」

「ほほっ、人の王子は相変わらず堅苦しいのう。そう緊張せずとも良い」

 妖精王が笑うと、湖の周りに花が咲き乱れた。その様子があまりにも神秘的で、王子と一緒に周りをキョロキョロを見渡して見入ってしまった。

「して、今日愛し子を呼んだのは、妖精魔法についてなのじゃ」

 花に夢中でボーっとしてしまっていた俺は、妖精王の言葉で我に返る。

「妖精魔法ですか?」

「そうじゃ。ちと制限を解除しようと思うてな」

「制限?」

 妖精魔法では、生き物の命を直接的な魔法で奪うことが出来ない。その為、止めは俺が刺さなければならないんだけど、それを契約した妖精のみ解除してくれると言った。

 魔王城に近付くにつれ敵も強くなり、戦闘不能にしても回復したりと止めを刺すまで油断は出来なくなっている。本来であるなら、妖精として生き物の命を奪うことは許されないことではあるけど、魔王を倒さなければ多くの犠牲が出るのも確かで、それもまた必要なことだろうと結論付けてくれたらしい。妖精王にとっても、俺は初めての愛し子で契約した妖精の魔法についての制約も時と場合によっては変えても良いんじゃないかってことだった。

「わしは愛し子のことを信用しておるし、心配はいらぬと思うておるのだが、釘だけは刺さねばならぬ。愛し子よ、万が一妖精魔法を悪用するようなことがあれば、即刻加護を失うと心得るように」

「はい。妖精王様ありがとうございます。妖精王様に恥じないように頑張ります!」

「妖精王様のご寛大なお心使い有難く思います。しかしわたしの命に誓って、その様なことには決してなりませんので、ご安心ください」

「人の王子は真面目じゃのう。わしとて疑ってはおらぬが、一応言わねばならぬのだ。では、愛し子よこちらへ」

「はい」

 手招きされて湖に近付くと湖面が虹色に輝いた。そして湖の真ん中に居たはずの妖精王は、すぐ目の前に現れて俺の額に口付けた。

「これで、そなたと契約した妖精は生き物の命を奪うことが出来ないという制約から外れることになる。但し、悪党であっても魔物や魔族以外は今までと同じように止めはそなたが刺さねばならぬぞ」

「分かりました」

「そなたらも、愛し子の役に立てるように頑張るのじゃよ」

「オッケーお父さん」

「あいっ」

「了解~」

「承知いたしました」

「俺様が仲間になったんだ、心配はいらねえよ」

 妖精たちはそれぞれ妖精王に返事をしていたけど、敬語で喋っているのはアクアだけだったのに、妖精王は気にする様子もなくニコニコと頷いていた。妖精たちに慕われるのも分かるな。うんうん。
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