上 下
39 / 59
第二章 魔王討伐の旅に出る

七.田辺さんは結構明け透けな性格

しおりを挟む
 王子と両想いになった翌日、朝食のために食堂に向かうと、先に席に着いていた田辺さんに声を掛けられる。

「北川おはよ! 昨日は疲れで熱が出ちゃったんだって? もう大丈夫?」

 エリックが上手いこと言ってくれると言っていたのはこのことだと思い、口裏を合わせることにした。

「田辺さんおはよう。うん、もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

「うちは病気とかは治してあげられないから、しんどくなったらすぐにエリちゃんに言うんだよ?」

 田辺さんの優しい言葉に少しの後ろめたさを感じる。本当は熱なんかじゃなくて、王子とキスして顔が火照ってたからみんなの前に顔を出せなかったからなんだけど……。バレたら絶対に揶揄われるし、平然としてなきゃ――。

 俺と田辺さんが話をしていると、ディランとエリックも食堂にやって来た。

「おう、ショウゴもう具合は良いのか?」

「心配してくれてありがとう。昨日ゆっくり寝たからもう平気」

「顔色もええし、今日は周辺の聞き込みくらいやから、ショウゴは王子と一緒に必要な食料や備品の補充しとったらええよ」

 エリックは俺が本当は具合が悪かった訳じゃないのを知っているし、王子と俺の関係がどうなったかも気付いてるから、親切心で提案してくれる。みんなで今日の予定を確認していると王子もやって来たから、食堂のおかみさんに朝食を出してもらえるように言った。

 何で王子が遅かったかというと、俺が変に意識しちゃって一緒の部屋で寝泊りしているくせに、同時に部屋を出るのが照れ臭くって時間差で出てもらうことになったんだ。

『わたしはすぐにでもみんなにショウゴ殿はわたしの婚約者であると宣言したいところなのですが、奥ゆかしいショウゴ殿の心の準備が整うまでは秘匿と致しましょう。エリックにもその様に伝えて参りますから、ショウゴ殿は今まで通りお振舞い下さい』

 昨日、王子は夕食を取りに行ってくれる時にそう言ってくれた。まだ俺の覚悟が足りなくて、みんなに言う勇気がないばっかりに王子には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。王子の気持ちを受け入れるって決めたのに、優柔不断で自分でも情けない。遅かれ早かれ、田辺さんには揶揄われるだろうし、みんなには祝ってもらえると思うんだけど、やっぱり初めての恋人(婚約者)だし? 何か照れ臭くて無理――。

「殿下、今日はえらいゆっくりだったな!」

 ディランが席に着いた王子に声を掛ける。大丈夫だとは思うけど、余計なことを言わないか心配になる。

「少し寝坊してしまってな」

 王子はいつもの声のトーンで答えると、運ばれてきた朝食に手を伸ばした。

「殿下が寝坊なんて珍しいな。いつも一番早く起きて準備してるのにな。もしかして殿下も調子が悪いのか?」

 珍しくディランが王子の調子を心配したりして、ハラハラさせられる。

「問題ない。昨夜少し眠るのが遅くなっただけだ」

 王子は愛想なくそう言ったけど、そこに田辺さんが喰いついた!

「ええ~、寝るのが遅くなったとか――。北川と何かしてたとかなんじゃないのぉ?」

 田辺さんはどうしてそう直球なんだ!? 清楚な見た目に反して田辺さんは結構下ネタをぶち込んでくるというか、明け透け過ぎて困ってしまう。

「聖女様、熱のあるショウゴ殿を看病する以外に何があるとおっしゃるのでしょう?」

 王子が誤魔化してくれてるから、俺もそれに合わせることにした。

「レオ、昨日はありがとう。俺の看病のせいで寝不足になっちゃったんだね――。ごめんなさい」

「いえ、わたしがショウゴ殿の看病をすることは当然のことですから、何もお気になさる必要はございませんよ」

 キラキラスマイルでそう言ってくれる王子は本当にかっこよくて、こんな人と俺は恋人同士になったのだと思うと、自然と顔が赤くなってしまう。

「ちょっと北川、顔真っ赤じゃん! 王子様のスマイルで何かやらしいことでも思い出したんじゃないの? やだあww」

「マリカ、ショウゴは病み上がりなんやから、あんまり揶揄わんといたってや。また熱が上がったらかなわんからな」

 エリックのアシストのおかげで、田辺さんが退いてくれて助かった。これ以上絡まられたらボロが出そうで怖かったし――。食事を終えるとみんなそれぞれの役割に別れて行動することになった。

 ディランは店を中心に魔獣の目撃情報や、瘴気の影響などの聞き込みをし、エリックと田辺さんは教会や孤児院に行って神様に祈りを捧げたり困りごとがないかを聞くという。俺と王子は食品や物資の補充のための買い出しを任された。

「昼ご飯はそれぞれ出向いた先で適当に済ませるんでええやんな?」

 エリックが確認のためにみんなに問いかけてくれたから、みんなは頷いて了承の意思を示した。

「北川、王子様とデート良かったね! しっかりエスコートしてもらってね♪」

 ディランが先に出発して、エリックに「そろそろ行くで」と促された田辺さんがすれ違いざまにそう言ってきた。本当に田辺さんはこういう時はしつこい……。

「マリカ! また余計なこと言うてっ! ショウゴ、気にしたらアカンで? いちいち真に受けとったらマリカの思う壺やからな!」

 田辺さんの背中を押すようにしてエリックも宿を出発して行った。今までは何とかスルー出来ていたことも、王子と俺の関係性が変わったことで、意識してしまって上手く受け流すことが出来ない――。三人が出て行って、残されたのは俺と王子の二人。

「聖女様のおっしゃるように、婚約者になってから初めての二人っきりの買い出しですから、デートというものにあたりますね。ああっ! 何て幸せなのでしょう――」

 掌で顔を覆って天を仰ぐように上を向いている王子は、大袈裟だけど心から喜んでくれているみたいで、恥ずかしいけど、俺も何だか嬉しくて楽しみになってきた。恋人同士になるってすごい――。今まで何とも思わなかったことでもドキドキしたり、嬉しくなったりするんだな。素直に気持ちを伝えてくれている王子に、俺も自分の気持ちを伝えたくなって、勇気を出して言葉に出す。

「俺も、レオとデートみたいで嬉しっ、ぐっ――」

 俺が全部言い終わる前に、思いっきりギュッと抱き締められて、いきなりだったから思わず変な声が出てしまった。

「ああっ……。このまま二人でどこかに行ってしまいたい――」

 嬉しそうな王子に、本気でこのままどこかに連れて行かれそうだったから、慌てて買い出しのことを伝える。

「レオっ! ちゃんと買い出ししないと! 明日にはまた出発するんでしょ? それに、俺レオと一緒にこの街のお店とかも見てみたい」

 柄じゃないけど甘えてみると、王子は小さく呻き声を上げていたから、キモかったかもしれない――。そう思って少しだけ落ち込んだ。

「――ショウゴ殿がわたしと一緒に店を回るのを所望されるなんて! しかも先程はデートみたいで嬉しいとおっしゃって――」

 あっ、別に気持ち悪がられてはいないみたいだ。――良かった。でもこのままだと、出発が遅くなるからと、王子に腕の拘束を解いてもらってなんとか宿を出ることが出来た。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】1億あげるから俺とキスして

SKYTRICK
BL
校内で有名な金持ち美形記憶喪失先輩×取り柄のない平凡鈍感後輩 ——真紀人先輩、全て忘れてしまったんですね 司の恋は高校時代の一度だけ。二学年上の真紀人とは一年にも満たない交流だったけれど、それでも司は真紀人への恋を忘れられずにいた。 名門私立校に生活を切り詰めながら通っていた一般家庭の司とは違って、真紀人は上流階級の人間だった。二人の交流は傍目から見ても異様で、最後に別れた日は、司にとっても悲しい記憶になっている。 先に卒業した真紀人と会うこともないまま司も高校を卒業し九年が経った。 真紀人は会社を立ち上げ、若手社長として見事に成功している。司は恋を忘れられないまま、彼とは無縁の人生を歩むが、突如として勤めていた会社が倒産し無職になってしまう。 途方に暮れた司だが、偶然にも真紀人の会社から声をかけられる。自分が真紀人と知り合いだと知らない社員は話を進め、とうとう真紀人との面接に至ってしまう。 このままだとダメだ。なぜなら自分たちの別れは最悪すぎる。追い返されるに決まっている。顔面蒼白する司だが、真紀人の反応は違った。 「俺とお前がただの知り合いなのか?」 事故で記憶に障害を受けた真紀人は、司を忘れていたのだ。 彼は言った。 「そんなわけがない」「もしそうなら俺は頭がおかしいな——……」 ⭐︎一言でも感想嬉しいです。

英雄様を育てただけなのに《完結》

トキ
BL
俺、横谷満(よこたにみつる)は神様の手違いで突然異世界に飛ばされ、悲劇しかない英雄様を救ってほしいとお願いされた。英雄様が旅立つまで育ててくれたら元の世界へ帰すと言われ、俺は仕方なく奴隷市場に足を運び、処分寸前の未来の英雄様を奴隷商人から買って神様が用意してくれた屋敷へ連れ帰った。神様の力で悪趣味な太った中年貴族のような姿に変えられた俺を、未来の英雄様は警戒して敵視して、彼が青年となり英雄だと発覚しても嫌われたままだった。英雄様が仲間と共に旅立った直後、俺は魔獣に襲われて命を落とした。気が付くと俺は元の世界に帰っていた。全てが嫌になり疲れ果て、それでも無気力に生きていたけど俺はまた異世界に召喚された。今度は悪役の貴族ではなく、世界を救う神子として…… 奴隷だった英雄様×容姿を変えられていた不憫な青年のお話。満は英雄様に嫌われていると思い込んでいますが、英雄様は最初から満大好きで物凄く執着しています。ヤンデレですが旅の仲間達のお陰でぱっと見は満溺愛のスパダリ。 ※男性妊娠・出産可能な設定です。 R18には最後に「※」を表記しています。 この小説は自サイトと『小説家になろう』のムーンライトノベルズ様にも掲載しています。

【完結】11私は愛されていなかったの?

華蓮
恋愛
アリシアはアルキロードの家に嫁ぐ予定だったけど、ある会話を聞いて、アルキロードを支える自信がなくなった。

【完結(続編)ほかに相手がいるのに】

もえこ
恋愛
恋愛小説大賞に参加中、投票いただけると嬉しいです。 遂に、杉崎への気持ちを完全に自覚した葉月。 理性に抗えずに杉崎と再び身体を重ねた葉月は、出張先から帰るまさにその日に、遠距離恋愛中である恋人の拓海が自身の自宅まで来ている事を知り、動揺する…。 拓海は空港まで迎えにくるというが… 男女間の性描写があるため、苦手な方は読むのをお控えください。 こちらは、既に公開・完結済みの「ほかに相手がいるのに」の続編となります。 よろしければそちらを先にご覧ください。

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す

夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。 それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。 しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。 リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。 そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。 何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。 その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。 果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。 これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。 ※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。 ※他サイト様にも掲載中。

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。 そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。 HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!

処理中です...