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第二章 魔王討伐の旅に出る

四.弱音を吐くことは格好悪いことではない Sideエリック

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 オイラが魔王討伐のメンバーに選ばれたこともやけど、マリカとショウゴが異世界から召喚されたっちゅうのも驚きや。この世界には居らん色味の髪と瞳は、綺麗な黒で珍しいから、そうやって言われればそうなんやろうけど。

 異世界から来たっちゅうからどんだけ崇高なもんかと思えば、そこいらに居るガキとなんら変わらんかった。生活環境だとか、文化だとか、あとは魔法がなかったり、色んな違いはあるようやけど、話が通じひんこともないし、こっちのガキらが喜ぶようなことで笑ったりもする。

 マリカは聖女やって言われて召喚されたから、直ぐに魔法が使えるようになったようやけど、ショウゴは巻き込まれただけやから何の能力もなかった。せやのにショウゴは冷静に、元の世界に戻れないならこっちで生活するための仕事と住むところを探したいって言ったんやって――。

 普通なら文句言いよるで。召喚って言えば聞こえはええけど、そんなもん拉致と一緒やしな。それまでの努力や生活環境だとか丸々無視して、一方的に連れてこられた挙句、この世界のために魔王を討伐する旅に出なきゃならんって、オイラならブチギレ案件やで。ホンマ。

 二人とも弱音も吐かんと、ようやっとると思うわ。せやけど、やっぱりどこか無理してるのは見て取れる。

 心のケアは聖女の回復魔法でも出来ひんから、誰かがケアしたらなアカン。マリカは、神殿長のおじいに話を聞いてもろたりして、ある程度発散は出来とるみたいやけど、ショウゴに付いとるんは、人の感情に疎い王子ってことで、ショウゴのケアは必要やなって思うわ。そう思って王子のこともよくよく観察してみれば、詳しい事情は知らんけど、ショウゴと出会うまでは誰にも心を開かなかったって言う話を聞くと、王子もケアが必要やって気付いた。

 こっちの世界で一六歳っちゅうたら、子ども扱いは出来ない歳やけど、二人のいた世界ではまだまだ子供やって聞くと、お兄さんなオイラが助けたろうって思う訳で――。そうなると、討伐メンバーで最年長のオイラがみんな纏めて面倒見たらなしゃあないやん? オイラ頼られるの嫌いやないし。まあ、あまり出過ぎると、本人たちのためになれへんから、さり気なくフォローに回るつもりやけどな。

 二人がこっちの世界に来てから半年くらい経ったある日、パビケンヴォブルス神からの神託で、魔王討伐の旅に出るようにと指示があった。この半年で、みんなそれぞれスキルアップも出来たし、お互いの得意分野や戦闘における癖なんかが分かって、戦闘中の連携も取れるようになった。戦いなんかと無縁やった二人もだいぶ慣れたから、良い頃合いやろう。

 その日もいつものように、マリカの浄化魔法が発動するまで前衛と後衛に別れて、討伐をした。ショウゴも妖精魔法を上手く使いこなせるようになったし、短剣で止めをさしたりと活躍していた。戦闘は魔獣もオイラたちもお互い命を掛けるもんやから、無傷でって訳にはなかなかいけへん。軽い擦り傷やったら、放っといてもかまへんけど、王子がこっそり腕を庇ったのをオイラは見逃せへんかった。案の定魔獣の爪に切り裂かれとって、骨までは到達しとらへんかったけど、決して浅くない怪我をしとった。すぐにマリカの回復魔法で治してもろた。傷も残らず、はい良かったねって話やねんけど、ショウゴの様子がおかしい。怪我を隠しとった王子が悪いから、ショウゴに怒られるんは仕方ないと思うし、ここは二人で話すべきやと、その場を離れようとしたら――。勇者が余計なことを言いよった。

「殿下も分かっただろ? ショウゴは殿下が心配なんだってんだから、下手に隠すのは良くないぜ? 勿論俺らだって殿下には怪我して欲しくないんだからよ。まあ、無傷って訳にもいかねえけどさ、隠すのは無しにしようぜ? 俺らには・・・・マリカだって・・・・・・エリックだって・・・・・・・いるんだからよ・・・・・・・

 案の定ショウゴが泣き出してしもた。旅に出て何度か討伐をして、そろそろ心に疲れが溜まっているだろうと思とった矢先や。本当は魔獣を殺すことが辛いって分かっとったから、今日ゆっくり話を聞くつもりやったのに……。何してくれとるんやこの勇者は――。

 王子の熱烈な言葉で、何とかショウゴも泣きやんだけど、マリカもニヤニヤしとるし、ええ雰囲気になってもうて、このままチューしてから正気に戻ったら可哀そうやしと、声を掛ける。

「お二人さん。そういうことは二人っきりの時にしてな~。まだ、倒した魔獣の死骸の片付けもせなアカンねんから、イチャイチャは後回しやで~!」

 野次馬根性丸出しなマリカはほっといて、討伐の片付けの割り振りをする。そっちにマリカを残してショウゴには悪いけど、オイラは勇者を説教せなアカンからな。この脳みそまで筋肉で出来とる男は、何も考えんと悪気なく言ったんやと思うけど、良くないからな。

「マリカは相変わらずやな~。まあ取り合えずはみんなで片付けるで! 勇者は、オイラと一緒な!」

 オイラは勇者を連れて、食用に出来る魔獣の回収に向かった。聖女であるマリカは魔獣肉NGやしショウゴも物によるから、この旅の最中はオイラたちは食べないけど、売れば旅の良い資金になるから回収は必須だ。少しでも収入は多いに越したことはないしな。

「勇者さんよ、回収しながらでええから話聞いてな」

「何だ改まって」

 魔獣の死骸を拾い上げようとしていた勇者は、手を止めてオイラの方に視線を向ける。

「手は動かしたままでええって言うてるやん。時は金なりやで!」

「ああ、そうだな」

 素直な勇者は、作業を再開させる。

「オイラが勇者に何を言いたいかってのは、きっと察しもつかないと思う。悪気も無ければ、そんなこと言ったのも覚えてるかどうか怪しいところやけど――」

「勿体ぶらずに言ってくれ」

 真面目な話だと気が付いた勇者は、途中で口を挟むことなく最後までオイラの話を聞いた。

「――せやから、ショウゴは泣いてもうてん」

 何でショウゴが泣いたのか、切っ掛けが自分であるということに気が付くと、慌ててショウゴの元へ走りだそうとするから、抑えるのに骨がいった。

「今回は、王子のフォローのおかげで大丈夫やから、今はそっとしといたり? 謝るんは、宿に入ってからでも遅ないからな。――怪我や病気に関しては、専門分野的にマリカやオイラが役に立つとは思うけど、そこをわざわざ口に出す必要はあれへん。勇者も分かってる通り、ショウゴは努力して力を付けたし、討伐の中でも活躍しとる。でもな、ショウゴは自己評価が低いというか、まだ『オマケ』と思っとる節がある。もうこっちに来たばっかりの、ただの一般人やないっちゅうのに、いつまでも自分はこのメンバーのお荷物なんやないかって不安なんや。そんなことないってメンバーみんな思っとるけど、もう少し時間を掛けて伝えていかんと、ショウゴの心には届かへん」

「俺はガサツだから、そんな繊細なところに気が付いてやれなくて、ショウゴには申し訳ないことをしてしまったな……。エリック、これからも俺が余計なことを言ったり、やったりしてしまったら、遠慮なく教えて欲しい。俺はショウゴのことを大切な仲間だと思ってるから、傷付けたくないんだ」

「そんだけ分かっとったら、十分やよ。まあ仕方ないから、これからもオイラがビシバシ指導したるわ! 覚悟しときや!」

 神妙な顔をしていた勇者は、オイラがそう言うと小さく笑って「お手柔らかにな」と言った。そのあとは冗談を言い合ったりしながら、食用になる魔獣の回収に集中した。

 街に戻ると、オイラはさっき集めた魔獣の死骸を金に変えるためにみんなとは別れる。宿で勇者がショウゴに謝るって言うから、余計なことを言いそうなマリカはオイラの方の用事に付き合ってもらうことにして、激励の意味も籠めて勇者の背中を叩く。吃驚して振り向いとったけど、オイラがニヤリと笑うと、意図が分かったのか、擽ったそうな笑みを浮かべて、宿に向かった。

「エリちゃん、あの後ディー様と話したんでしょ?」

「何のことや?」

「もうっ~! とぼけないでよ。うちの癒しの生BL観賞を邪魔したんだから、教えてくれてもいいじゃん」

 マリカはふざけた発言も多いけど、人の感情の起伏には意外と敏感なようで、オイラが勇者に説教したことに気付いているようだった。なかなか侮れない少女だ。

「まあ隠す事でもないし、マリカにはもうバレとると思うけど、ショウゴの心は今疲れが溜まっとってな、うっかり今回溢れてしまったちゅう訳や」

「北川は、まだ自分のことうちのオマケって思ってるけど、違うのにね。神様がギフトくれてさ、めっちゃ頑張って強くなってさ、みんなだって討伐メンバーの一員だって認めてるのに、伝わらない。難しいね――」

「そうやな……。まだまだ旅は長いし、焦らんと時間を掛けて伝えて行けば良いんやないか? マリカは唯一の同郷なんやし、変わらず接したったらショウゴも嬉しいと思うで」

「本当に? うちは、揶揄ったりすることの方が多い気もするけどww」

「お前分かっててやっとるん?」

「ええ~! 無意識なわけないじゃんww 反応を楽しんでるに決まってるww」

「ええ性格しとるな」

「アハハ! まあねぇ。生BLに興奮してるのは事実だけど、気軽に揶揄ったり出来る相手って、うちにとっては同級生の北川くらいしかいないしね。でも、エリちゃんやディー様と話すのも好きだし、うちは全然大丈夫! まあ王子様は、前よりは冷たくないけど、北川専用だし? あんまり喋らないけどさ、頑張って瘴気を祓って魔王を討伐して、平和な世界を取り戻そう!」

「――平和な世界ね。マリカがそのままで居ったら、きっとすぐに平和を取り戻せると思うわ。でもな、しんどいって思ったら、無理せずオイラに言うんやで? 話を聞くことしか出来ひんけど、オイラはマリカの味方でもあるんやから。弱音を吐くんは格好悪いことじゃないねんから、遠慮したらアカンで」

「――うん。ありがとう」

 さっきまでのふざけた空気がしんみりとしたものに変わって、柄でもないオイラは、魔獣肉を少しでも高く買い取ってもらえるように、店のおっちゃんに交渉しまくった。
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