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第二章 魔王討伐の旅に出る

一.神託が出たのでいよいよ出発だ

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 俺と田辺さんがこの世界にやって来てから半年ほど経ったある日、パビケンヴォブルス神から、魔王討伐の旅に出るようにという神託が下った。

 何度か田辺さんが瘴気を祓うための遠征に同行させてもらったりして、俺自身も魔獣を倒すことが出来るようになったりと、少しは成長したと思う。

 魔王討伐の旅は、勇者のディランと、聖女の田辺さんを中心とした神託を受けたメンバーと、おまけの俺だけ。いつもの遠征には、護衛の騎士さんたちが一緒だったりするんだけど、あちこち回って長旅になる可能性が高いから、必要最低限の人数で行くことになっている。

 少し心細い気もするけど、何度か遠征で戦闘の連携も経験したし、人数が多いと却って動きづらくなるから仕方ない。世界最強の魔術師であるレオと、弓が得意な薬師エリックも一緒なんだから、俺は足を引っ張らないように頑張るしかない。

 俺のウェストポーチは、王子が亜空間に作った俺専用スペースと繋がっているから、見た目以上に色々入っている。驚いたことに亜空間にある間は時間の干渉を受けないとかで、食べ物が腐ることもないし、冷たいものは冷たいまま、温かいものは温かいままとこの上なくハイスペックなのだ。中には、エリックのお婆さんが作ってくれた物と同じ胃薬や、ポピーや他の妖精用のお菓子がたくさん入っている。心配性なクリスくんに持たされたアレコレも入っているから、とてもリュックなんかじゃ収まらないので、この便利なウェストポーチはとても重宝している。

 移動は基本的には馬だ。聖女である田辺さんもこの半年ですっかり馬の扱いが上手になっていて、下手したら俺よりも早く走れるかもしれない。テントやその他大きな荷物は王子の亜空間収納に入れてもらっているから、それぞれ重い荷物がない分身軽に動くことが出来る。

 王子が、田辺さんにはポシェット、ディランには俺と似たようなウェストポーチを、それぞれ亜空間に繋げてくれたおかげで、自分の必要な荷物は各自で管理出来るから、本当に有難い。俺なんかは見られて困る物なんて何にもないけど、田辺さんは女の子だし見られたくない物もあると思うからなおのこと重宝したに違いない。

 旅の衣装は、王子とディランは軍服みたいなかっこいい服装で長身が生かされて、イケメンに拍車がかかっている。王子が黒で、ディランが白で色違いなのも何か良い。

 エリックは、お尻まですっぽり隠れるチュニックに膝丈のズボンとショートブーツで、上にベージュのフード付きのマントじゃなくて、ローブって言うのか? を纏っている。

 田辺さんは白い膝下丈のワンピースに、膝まである白い編み上げブーツを履いていて、これまた真っ白いロングコートを着ている。それぞれに汚れない魔法が掛けられているらしいけど、それでも俺は汚しそうであんな真っ白い格好は無理だ。

 それで、俺は一番地味。目立ちたくないし、王子が用意してくれた王子とお揃いの軍服なんて着こなせなそうだから断った。RPGとかに出てくる村人みたいな地味な恰好を目指したかったんだけど、さすがにそれは勇者一行の仲間としてダメだとクリスくんに却下されてしまったから、クリスくんの用意してくれた服を着ている。結局軍服もどきというか、学ランに近い衣装を着ることになった。色は薄い灰色に、金色のボタンがあしらわれていて、裾にさり気なく緑色の刺繍が……。これが何を意味しているかなんて、もう嫌というほど理解しているけど、俺はあえてそれには触れない。足元はスニーカーに似た靴を履いているから動きやすい。服に着られている感が満載だけど、王子が最初に用意したお揃いの黒い軍服よりはマシ。あれは金の刺繍や飾りがいっぱい付いていたし、エメラルドが所々に散りばめられていて、主張が激しすぎて見た瞬間にごめんなさいした。
 
 半年一緒に過ごしてきたけど、俺と王子の関係は以前と変わらない。相変わらず一緒のベッドで寝ているし、起きたら抱き枕にされているのが常だけど、恋人同士という訳ではない。王子に乞われればハグも受け入れるし、手も繋ぐという不思議な関係。たまに田辺さんに茶々を入れられて、恥ずかしくなって王子を避けちゃったりする。そうすると王子が物すごい落ち込むし、誰に何を言われたのかって探りを入れてくるから、うっかり田辺さんに怒りのい矛先が向いちゃったりして大変なことになる。だから俺もいい加減いじられることに慣れて、スルーするスキルを身に付けなきゃなんだけど、田辺さんの茶々がどこかで見てたのかっていうくらい身に覚えがある内容だったりするから赤面してしまうのはしかたのないことだ。

 ――でも本当は少しだけ進展があって、寝る前と起きた時に王子からだけど、触れるだけのキスをする(される)ようになってしまったんだ。それが嫌じゃないんだから、俺も覚悟を決めるべきなんだろうけど、王子がそれ以上を急かさないでいてくれているから、それに甘えてしまっている。ある日、俺は訓練で思うような成果が出せなくて、どうしようもなく落ち込んだ時があって、自分でもどうしてあんなに取り乱していたのか分からないくらい気持ちがぐちゃぐちゃで、王子に泣きながら八つ当たりしたんだ。そしたら「こちらの事情に巻き込んですみません」って謝りながら優しく抱き締めてくれて、俺が泣きやむまで背中を擦ってくれてさ――。涙も止まりかけた時に顔を上げたら、王子が俺のこと見てて、気付いたら唇が重なってた。触れるだけの口付けは数秒で離れていったけど、温かくて柔らかくて、初めてのキスが男とだとか気にならないくらい心地が良かった。その後すぐに王子は謝ってくれたけど、俺は何も言わずに軽く抱き着いた。――思い出すだけで恥ずかしくなる。

 それからは、最初は寝る前とかに「口付けをしてもいいですか?」って聞かれていたんだけど、どうしようもないくらい恥ずかしいから、「いちいち聞かないで」って言っちゃって、気付いたら習慣になってた。俺も逆に王子のキスがないと、何か落ち着いて寝れない気がしちゃって、本当は手遅れだと思う。でもその先の行ためは、知識はあるけど未知の世界過ぎて怖くて、王子を受け入れる勇気がないんだ。

 ――王子には悪いと思うけど、もう少しこのままでいさせて欲しい。

「北川~! 何してんの? もうみんな出発しちゃってるよ~」

 ボーっと考え事をしていた俺は、みんなが出発していることに気が付いていなかった。

「ごめんごめん。今行く!」

 慌てて田辺さんの横に並ぶように馬を走らせる。他のみんなも俺が着いて来ていないことに気が付いて、馬を止めて待ってくれていたから謝罪の言葉を口にする。
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