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第一章 聖女召喚に巻き込まれてしまった 

二十三.王都への帰路(中)※

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 王子の宣言通り護衛さんたちが用意してくれた食事には、魔獣肉は一切使用されていなくて、俺は胸が軽くなるのを感じた。郷に入りては郷に従えっていうのに――。俺は受け入れることが出来なくて――。俺の我が儘で魔獣肉を食べることが出来ないのが申し訳なかったけど、みんなが気にしないでと言ってくれて、周囲の人に恵まれていることを改めて実感することが出来た。

 食後はエリックと別れて俺は王子と一緒にテントに戻った。王子に浄化の魔法を掛けてもらって、ベッドに横になったんだけど――。実は――キャベリックに滞在している間に変わったことがある……。エリックと気軽に接する俺の態度が気に入らなかった王子が、宿に戻ると前よりもベッタリしてくるようになってしまって……。エリックのことは年下だと思っていたし、猫獣人だからかあんまり距離が近くても気にならなくて、王子の機嫌が悪くなっていることには気が付いていたんだけど、放置しちゃっていたんだよね。そしたら、二人きりになった時にその反動が来ちゃって困ってしまった。ヤキモチって言ったら可愛く聞こえるかもしれないけど、俺は王子の所有物じゃないし付き合っている訳でもないから正直迷惑に思ってしまう。それでもずっと一緒に過ごすうちに情は沸くもので、無下にも出来ないのが痛いところ。ベッドが分けられたら一番いいんだけど、宿に大きなベッドがない場合以外はずっと一緒のベッドで眠っている。同衾自体はもう慣れたっていえば慣れたんだけど、王子のヤキモチのせいで、真ん中にあった境界線が取っ払われて――手を繋いで寝ることになってしまったんだ……。

「日中エリックがショウゴ殿の腕に纏わりつくのも腹が立ちますが、ショウゴ殿が悪くないのも理解しているのですが……。エリックに注意してものらりくらりと躱され、このままではわたしはエリックを排除しなければならなくなります――」

 エリックの年齢を知ったその日の夜に、宿に入った途端真剣な顔して言われたことに驚きが隠せず固まってしまう。そんな俺に構うことなく王子は言葉を続ける。

「わたしはショウゴ殿の嫌がることはしたくありません――。エリックの行動がショウゴ殿にとってスキンシップの範疇ではあると理解しておりますが、わたし以外の男がショウゴ殿に触れることにこれ以上我慢出来そうにありません。この数日ずっと耐えてきましたがもう限界です。エリックはあの様な見た目ですが、ディランよりも年上の成人です。わたしにもスキンシップの許可をいただけないでしょうか?」

 王子はエリックのスキンシップに嫉妬しているらしく、日中エリックとは反対側の手を握っているにも関わらず、もっとスキンシップをとりたいと言っているのだ。俺よりデカい男に小柄なエリックみたいな纏わりつかれ方をするのは――さすがに恥ずかしいし辛い。

「エリックと同じように引っ付きたいってこと?」

 恐る恐る王子に訊ねてみる。だってなんかさっきこのままではエリックを排除みたいなこと言ってたよね?

「小柄なショウゴ殿にわたしがエリックと同様なスキンシップは、体格的にも厳しいと思われますので、ショウゴ殿のの方からわたしに抱き着いたり、腕に巻き付いたりしてくだされば一番なのですが、慎ましやかなショウゴ殿には難しいと思います。ですので、日中のエリックの態度にある程度目を瞑る代わりに、受け入れて頂きたいことがございます」

 俺に許可を求めている様で、拒否なんて出来そうもない王子の気迫に圧されて思わず唾を飲み込む。

「俺に何をしてもらいたいの?」

「そんなに怯えずとも、わたしはショウゴ殿の嫌がることは致しませんし、自分の欲望を押し付ける気はございませんので、ご安心ください」

 そんなこと言われてもちっとも安心できないのは、王子の俺を見る目に欲が含まれていることに気が付いてしまっているから……。欲望を押し付ける気はないって言ってるけど、欲望があることは否定して無いんだもん。

「ショウゴ殿のその表情も大変可愛らしくそそられるのですが、怖がられてしまうのも不本意ですので、この要求に於いてのショウゴ殿の貞操の安全は保障致します」

 俺の貞操が護られるんなら大丈夫かな!? 王子の表情を窺うとキラキラの王子スマイルで、うさん臭さは微塵も感じられなかったから、俺は小さく頷いた。それで寝る時の境界線の撤廃と手を繋いで眠ることを約束させられてしまったのだ。

 そして俺は今、テントの中で王子にしっかりがっしり手を握られたまま横になっている。

「テントの中は魔法で適温にしておりますが、寒かったり熱かったりしたら遠慮なく仰ってくださいね。勿論寒いときはわたしで暖を取っていただいて構いませんので、そちらもご遠慮なさらないでくださいね」

「……。レオンハルト様ありがとう……」

 ほんの少し肌寒い気がするけど、これってさ……もしかして、俺が寝惚けて寒いからって王子にすり寄るのが狙いだったりする?

「レオンハルト様、少し肌寒いから毛布もう一枚もらっても良い?」

 王子は一瞬残念そうな表情をしたけど、すぐに亜空間収納から肌触りの良いフカフカの毛布を出してくれたので、それを体に巻き付けて目を瞑った。

「眠っている間に寒いと感じましたら、遠慮なくわたしを使って温まってくださいね」

「――おやすみ」

「ショウゴ殿おやすみなさい。ゆっくり休んで良い夢を」

 握られた右手に力が入り、俺も軽く握り返すと『フフッ』という笑い声が聞こえたけど、久しぶりの馬での移動で疲れていた俺はすぐに眠りについていた。

 ――俺は一人であの林にいた。林の中を進むと、小さな湖があって俺が近付くと湖面がユラユラと揺れて小さな人が現れた。その小さな人が俺の額に掌を翳して何か唱えると、俺は光に包まれた。

 テントの覗き窓から朝日が射し込んできて、俺は眩しさに目を覚ました。

 俺が目を覚ますと、いつもなら俺より先に起きている王子がまだ隣にいて、まだ早い時間だというのが分かる。そして俺は王子と手を繋いで眠っていたはずなのだが、腕をがっしりと掴まれて王子の抱き枕にされていた。気付きたくなかったけど、若い王子の王子がズボンを押し上げて主張していて――。朝だから仕方がないとは思うんだけど、とても気まずい……。しかもちょっと俺の手の甲に当たってるんだよね。呼吸に合わせてピクピク動いているし、僅かに湿っている気もする――。このまま気付かないフリをするべきなのか、寝返りをするフリをして腕を振りほどくか……。

 俺は勇気を出して寝返り作戦を実行すべく体を捩ることにした――のだが、俺が身動みじろぐと王子も身動いで片方の腕を俺の腰に回してがしりと抱きしめられる形になってしまった。手の甲に感じる王子の王子の硬さと熱がより鮮明に伝わってくる――。寝惚けているのか、ユルユルと腰も揺れている! まさか俺の手を使って自慰をしているのか!? 慌てて王子の表情を窺い見ると、ほんのりと頬は赤いけれど瞼は固く閉じられているし、起きているようには見えない。先程よりも逃げ場のいない状況に思わず現実逃避でフリーズしてしまう。手の甲には熱くて硬い物が押し付けられているし、さっきよりも湿り気が増していることに気が付く。腰の動きも少し早くなって――。王子が小さく痙攣して達したことが分かる。ズボン越しに熱い飛沫しぶきを放った王子の王子が、ビクビクと震えて最後の一滴まで絞り出したのまで分かってしまった。王子は荒い呼吸を整えている間に目覚めたらしく、俺の腕に抱き着いて夢精したことに気付くと、慌てて俺から離れた。王子の温もりが残る手の甲に洗浄魔法を掛けられたことが分かる。俺に毛布を掛け直すと、王子はベッドから降りてテントを出て行った。俺はその間ずっと寝たフリをしていて――。

『王子って……やっぱりそういう目で俺のことを見ているんだよな――』

 改めて王子にそういう対象として見られているということを意識させられてしまった。
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