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第一章 聖女召喚に巻き込まれてしまった 

十三.神殿に行ってみた(後)

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「田辺さんはいつも神殿で何をしているの?」

 これ以上田辺さんのペースでの会話は耐えられそうになかったから、神殿や聖女のことに話を切り替えることにした。

「うち?」

「そう。俺はただの一般人だけど、田辺さんは聖女だから忙しそうだなって思って」

 よし! 王子と俺の話から気がそれたぞ。

「そうだなぁ――。取り合えず祈ってるよ」

 田辺さんは軽い感じでそう言った。

「祈るの? 神殿だし神様に?」

 出来たらもう少し詳しく話して欲しいけど、聞かなきゃ答えてくれそうにないから、質問していくことにする。

「そうだよ。パビケンヴォブルスっていう神様」

「パビ……?」

「パビケンヴォブルス」

 神様の名前を教えてくれたけど、耳慣れなくてなかなか聞き取ることが出来ない。

「その神様に祈るの?」

「北川、パビケンヴォブルスって言うの諦めたねww」

 俺が諦めて神様って言ったのがバレていて少し恥ずかしくなった。

「正式名称なんていいじゃんか。それよりも聖女のこと教えて欲しい」

「聖女のことって言われてもねえ。神殿長のおじいちゃんが言ってた通り、浄化の魔法で瘴気を祓うために、魔法の訓練をしたりとかかな。あとは回復系の魔法も使えるようになるみたいだから、それについての勉強とか?」

 何でもない風に軽く言っているけど、結構大変そうだなって思った。田辺さんが言うには、回復の魔法も人体について知っているのといないのとでは、効果が全然違うらしい。例えば打ち身一つとっても、皮膚の下で内出血が起こっているということが分かっていれば、破れた毛細血管を修復するイメージで魔法を使うと効果が出やすいんだって。骨折では骨を繋ぐイメージが必要で、結構専門的な知識がいるそうだ。イメージが出来ないと、痛みを取り除くことが出来ても、修復が出来ないから一時しのぎにしかならないとか――。

 浄化もイメージが大事で、田辺さんは空気清浄機をイメージしてるんだって。フィルターを通して清廉な空気にするイメージ。イメージであって実際に吸い込んで吐き出すような魔法ではないけど、綺麗になるっていうイメージが浄化には大事なんだって。

 俺には魔力もないし魔法も使えないから、田辺さんのことを正直羨ましいとか思っていたけど、魔法は便利な分知識や努力も必要なんだということが分かった。王子も国一番の魔術師になるまで相当な努力をしたのだろう。俺が今日から始めた短剣の訓練だって自分で望んで決めたことなんだから、もっと頑張らなければならないと思い直すことが出来た。田辺さんも俺が思っている以上に頑張っているのに、弱音一つ吐かないで取り組んでいて、心の底から強い女性だなと尊敬することが出来た。王子のモンペくらい自分で対処出来なくてどうするんだ。

 田辺さんと話した後は、神殿の中を少し案内してもらった。『パビケンヴォブルス』っていう神様を祀っている祭壇の前でいつも祈りを捧げているんだって。田辺さんはまだないけど、神殿長はここで神託を賜ったとか――。だから、旅の時期とかはここで神託が下りることになるだろうからと、毎日決まった時間に祈っているらしい。

 一通り施設を案内してもらって俺たちはお城に戻ることにした。

 別れる前に田辺さんがこっそり「王子様と仲良くね」と言ってきたから、折角タメになる話を聞いて素直に感心していたのにと、残念な気持ちにさせられた。

 神殿を出ると外はもう日が落ちかけていて、薄暗かったけど、モリスさんが魔法でランタンみたいな物を出してくれて、真っ暗な状態を歩くことは回避出来た。

 ここはお城の敷地内だから、結界的な物が張られていて魔物が入ってくることは滅多にないみたいだけど、暗くなったら魔物が出やすいから注意が必要なんだって。ということで、俺たちは少し急ぎ足でお城まで歩くことにした。思っていたより時間が掛かるから、次回からは贅沢なことだけど馬車を使わせてもらおうと思った。

 お城に戻ると部屋で王子が待っていて、帰りが遅いことに小言を言われた。

「レオンハルト様、遅くなってごめんなさい。心配させちゃったよね?」

 王子は俺のお母さんなのかな? とも思わないでもないけど、遅くなってしまって心配をさせてしまったのは事実だから、素直に謝ると王子は優しい笑顔で笑って許してくれた。

「護衛をつけていたとしても、暗い時間は心配で堪らないので、出来るだけ日が落ちる前にお戻りください。わたしもショウゴ殿を閉じ込めたくはないですから」

 何か最後不穏なことを言っていた気がするけど――俺の聞き間違いか? こんなニッコリキラキラ笑顔で言うことじゃないもんな。うん――。きっと気のせいだろう。

 一緒に夕食を食べて、田辺さんに聞いた魔法のことを話した。するとやっぱり王子も魔法を使うにはイメージが大事だって言っていたから、そういうものらしい。

「田辺さんに話を聞くまで、魔法って魔力がある人は簡単に使うことが出来るものだと思っていたから、少し羨ましいと思っていたけど、考え方が変わったよ。レオンハルト様も国一番の魔術師って呼ばれるようになるまで、すごい努力して頑張ったんだねって俺が言っても安っぽい言葉にしかならないけど、素直にすごいって思う」

 俺がそう言うと、王子の綺麗な碧色の瞳から一粒の涙が零れ落ちた。

「えっ!? 俺なんか傷つけるようなこと言っちゃいましたか!?」

 慌てて席を立って王子の座っているところまで行ってハンカチを手渡すと、はにかんだような顔になって俺の手を握った。

「いえ、お恥ずかしいことですが嬉しかったんです――」

 俯いたまま王子は言葉を続ける。

「今までわたしの周りには、魔力が高いのだから出来て当たり前という考えの者ばかりでしたので――。勿論ディランの様に、そうでないということを分かってくれている者もおりますが、わたしはショウゴ殿にそう思って頂けたことが嬉しいのです。今までの努力が報われた気さえします」

 王子の話を聞いて、クリスくんやディラン様の話にもあった、兄弟によるやっかみなどを思い出した。いくら頑張っても結果を出すのが当然だと、努力を認めてもらえないのに、それでも頑張り続けて国一番の魔術師にまで登り詰めたのだから、王子は俺の想像を遥かに超える様な努力をしてきたのだろう――。

「俺なんかにレオンハルト様の努力の何が分かるんだって思うかもしれないけど、貴方の努力を見てくれている人はわりと近くにいるものですよ。明日も俺、訓練頑張るから、ディラン様と一緒にご指導宜しくお願いします」

 俺が頭を下げると王子は照れたような表情で「こちらこそよろしくお願いします」と言った。

 夜はなぜかまた俺の部屋のベッドで一緒に眠ることになったけど、昨日決めたルールを守ってくれたらいいかなと思って了承した。それがまさか毎晩になるとは思わなかったけど――。

 一緒のベッドで寝ていることは田辺さんにはバレないようにしなければ――。
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