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【小話】踊れ side ???

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「それにしても物足りない結果でがっかりだわぁ」

 そう口にするのは私の主である皇妃殿下である。しかし主が漏らす言葉に相槌を打つことは求められていない。私は従順な主の手足であるため、返答を求められない限り跪いてただ黙ってお言葉をお聞きするのみである。そして主の求めることを察して陰ながら動くのだ。

「だって間抜けにも程があると思わなくて?」

 視線で反応を求められ素直に頷く。そもそも主に身も心も忠誠を誓っている私には頷く以外の選択肢はないのだが。

「そうよねぇ。どうして気付かないのかしらって思うと、可笑しくって」

 クスリと笑いながら主が先程から話題に上げている人物に考えを巡らせる。彼女の転落は自業自得であるし全く同情はしていないが、もう少し抗って面白味のある結果を残してもらいたかったものだ。

「だって可笑しいと思わなかったのかしら? 侯爵令嬢から王子を寝取った挙句、冤罪で異世界に追放しちゃったのよ? ついでにお相手の王子は王族から除名までされてしまったというのに、たかが男爵令嬢の身である自分はお咎めなしだなんて普通に考えたら有り得ないことだもの」

 主の言うように、本来であれば真っ先に罪に問われて処罰されるべき対象である。それが今回の断罪劇が起こるまで野放しにされていたのだから、本人も何かの思惑に気付いて然るべきだろう。まあ自分がしたことを罪だとも思っていない愚かな思考の持ち主であるということは既に分かっていることなのだが。一年以上泳がせた結果がこれだと思うと――――。

「そこまで知恵が回るなら、手当たり次第男に手を出して傾国気取りなんてしないとは思うけれど、もっと楽しませて頂きたかったわぁ」

 皇帝が皇妃を溺愛している故に趣味の悪い遊びをすることは、帝国の貴族は勿論のこと属国の貴族たちにも知れ渡っている周知の事実だ。しかしその実、裏で皇妃が手を引いていることは主の忠実な部下しもべである我々しか知らないことであるが、恐らく皇帝はそのことに気付いている上で知らないフリをしている。本当に似たもの夫婦である。

「一年も時間をあげたというのに、想像通りの結果しか出せないなんて……。お前ももっと上手く誘導すれば良かったものを」

「申し訳ございません」

 私自身もう少しやりようはあったと思うのだ。我が主を満足させられなかった自分が不甲斐ない。チラリと向けられた冷たい視線に身震いしつつも、すぐさま謝罪の言葉を口にするべく額を床に擦り付けた。

「うふふふっ……。まあ身の程知らずの傾国気取りの転落は愉快でしたし、皇帝陛下からの愛情も再確認出来たのだから、今回は大目に見てあげるわ。頭を上げることを許します。欲を言えばもう少し足掻いてわたくしを楽しませて頂きたかったけれど。次はもっとわたくしを楽しませて頂戴ね?」

「我が主のお心のままに」

 頭を上げることを許された私は、再び忠誠を誓うために跪いて我が主のドレスの裾にそっと口付けた。

 ◇◇◇

「帝国の方が何故あの罪人の肩を持たれるのでしょうか?」

 目の前で訝し気にそう発言したのは属国の宰相である。ここは属国の王宮の会議室で、国王は勿論のこと王太子とその婚約者が揃っている。貴族も一部ではあるが当主のみ集まってもらっている。

るお方がしかるべき時にお裁きになるとだけお伝えいたします」

「然るお方とは……」

「やめろ」

 王太子がそう口にしかけたところを国王によって遮られる。第二王子が愚かだったため、国王も程度が知れていると思っていたが、少しは頭が回るらしい。

「発言をお許しください」

「どうぞ」

 そう言って発言の許可を求めたのは、ウォールナッツ侯爵家の当主だった。承諾を与えたのは、この男が一番の被害者の父親だからだ。

「要するに、その時が来るまで泳がせておけということでしょうか?」

 娘を貶めた男爵令嬢を野放しにすることに一番難色を示しそうだと思っていただけに、物分かりの良い発言に驚かされる。

「そうですね。時が来たら分かることなので、出来るだけ好きにさせてください」

「それは男爵家も同様でしょうか?」

 王太子には発言を許していなかったけれど、横で渋い顔をしている国王に免じて答えることにした。

「男爵家も同様です。娘への咎めがないと知った上で、調子に乗り怪しげな行動を取るようであれば早めに対処することも考えます。ですから、こちらが動くまでどうか手出し無用で願いたい」

 それだけ言うと会議室を後にした。

 第二王子が王族籍から除名された後、教会に保護されたと聞いた。その後行方不明になったが、誰もその行方を探さなかった。教会に潜入していた間諜うかみからの情報によると、侯爵令嬢を追って異世界に渡ったのだとか。その辺りに興味はなかったため間諜も教会から引き上げさせた。主の遊戯に第二王子の安否は何の関係もないのだから、これ以上の情報は必要ない。然るべき時が来る前に第二王子に手出しされては、計画が狂うと警戒していたに過ぎないのだから。

 例の男爵令嬢は好き勝手にあちこちの男の元を渡り歩いていた。初めの頃こそ若い高位貴族の男たちを侍らせていたが、肉欲に溺れた結果なのか身分は高いが歳のいった男たちとも身体の関係を持つようになった。

 彼らは自分の身を滅ぼすことなく火遊びすることに長けている故に、引き際も弁えている。所詮遊び相手であって、若い子息たちのように男爵令嬢にのめり込むことはなかった。贅沢をさせて愛を囁くことはあっても、それは遊びの中でのことであって、機嫌よく若い肉体を貪るための手段に過ぎない。それを本気にされても困るのだ。そろそろ邪魔になった彼らは切り捨てる方法を探していた。だからこの依頼は都合が良かったのだろう。そこに皇帝陛下の話を持ち掛ければ、実に協力的に令嬢を誘導してくれた。

 ・大帝国の皇帝の側妃の席が空いていること。

 ・皇帝が数日この国に滞在するということ。

 ・自分なら皇帝と顔を繋げることが出来るということ。

 この三点を令嬢に伝えてもらえば、後は勝手に行動するだろう。身分の高い男に拘っているのは、贅沢が出来るからだということは分かっている。そこに近頃は閨ごとに長けているという条件も加わっていたようだが、大帝国の皇帝の側妃・・・・・・・・・という餌の前ではどうでもいいことだったのだろう。しかし実際の皇帝陛下の夜事情は主から伺っているので、肉欲に溺れた売女はのめり込むだろうことは想像に難くない。

 ――主のためにせいぜい踊れ。
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