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まさかの異世界追放②
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「お前は何者だ? ここで何をしている」
威圧感のある声に恐る恐る振り向くと、私を拘束した男性は二十代後半くらいに見える美丈夫であった。黒い髪に紫色の瞳が美しくて、拘束されているというのに不覚にも見惚れてしまった。
「ここで何をしていると聞いている。んっ? お前は……」
何も答えずにいる私に再び問いかけた男性は、私の顔を見るなり何かを呟き固まってしまった。ただでさえ怪しまれているのに問い掛けられて答えないのは状況的に良くないだろう。敵か味方かはまだ分からないけれど、拘束後に暴力で口を割らせるでもなく言葉で訊ねてくれている部分に少なからず好印象を抱いた。
「申し訳ありません。怪しいかとは思いますが、私は異世界より転移させられてこの世界にやってきました。信じていただけるとは思いませんが、元の世界に戻る手立てはございません」
敵対する意思がないことを示すように、ゆっくりと丁寧な言葉を選んで話す。こういう時に冷静になることが出来るのは、元の世界での様々な経験の賜物だろう。内心では出来るだけ穏便に事を運びたいとドキドキしているけれど、それを顔に出すことはしない。必要なくなってしまったと思った王子妃教育も全くの無駄になった訳ではないらしい。幸い、男性は私の話に耳を傾けてくれているようで、無言ではあるけれど続きを促してくれた。
「速やかに住むところを探し、魔法で生計を立てていけたらと思っております。貴方様に決してご迷惑はお掛けしませんので、街への道を教えていただけないでしょうか?」
「…………」
しばらく無表情のままだったけれど考えが纏まったのか、男性は意を決したように口を開いた。
男性が語るところによると、今私たちがいるこの森は立ち入り禁止区域に指定されているらしい。そしてこの森の管理を任されているのがこの男性で、僅かな魔法の気配を感じたため、調査にやってきたのだと言う。
実際私が使った魔法は、枝に火を灯したものと、手の中の水を浄化したものだけで大した魔法は使っておらず、使用した魔力も微々たるものだったのだが、それを感知することが出来るこの人は魔術に長けた人物なのだろう。
異世界から来たということは、私の纏う魔力の色味がこの世界の物とは違うということで信じてもらうことが出来た。拘束はされたままだが、このまま立ち入り禁止の森に居続けるのは魔獣なども出て危ないということで、私は一旦男性の家に連れていかれることになった。
街への道を教えて欲しかっただけなのにと思ったけれど、彼の管理する立ち入り禁止の森に、不可抗力とはいえ勝手に入ってしまったのは私なのだから素直に従うより他ない。そう思っても、やはり初対面の男性の家に連れていかれるのは少し不安で、拘束さえされていなかったら魔法で逃げ出していたことだろう――。
男性は簡単な説明の後、私の腕を掴むとすぐに転移魔法を展開した。
着いた先にあったのは塔のような造りの建物で、どうやらここが男性の家らしかった。男性が塔の入り口のドアに掌を翳すと自動で開く魔術が仕掛けられているらしく、思わず目を輝かせてしまった。興味深く観察していると、この塔の扉は彼が許可した者のみが掌を翳すことによりドアを開けることが出来るのだということを教えてくれた。
どういう魔術を仕込めばこの様な高度な仕掛けが出来るのかを説明してくれたけれど、残念ながら私には理解することが出来なかった。
いきなり拘束した割に色々と教えてくれる男性は、存外悪い人ではないのかもしれない。
男性は塔に入ると二階に案内してくれた。一階部分は玄関口と奥に浴場があるそうで、主に二階部分が生活スペースになっているらしい。二階に上がると広々とした部屋があり、部屋の隅に小さなキッチンが備え付けられていた。ドアで仕切られた隣が彼の寝室で、三階には仕事部屋があり、四階は空き部屋らしかった。
部屋に入ると、ダイニングテーブルを挟んで背もたれのないベンチ椅子に座るように言われた。そして、私が少しでも怪しい行動を取ったら問答無用で攻撃するという条件付きではあったけれど、拘束を解いてもらうことが出来た。
威圧感のある声に恐る恐る振り向くと、私を拘束した男性は二十代後半くらいに見える美丈夫であった。黒い髪に紫色の瞳が美しくて、拘束されているというのに不覚にも見惚れてしまった。
「ここで何をしていると聞いている。んっ? お前は……」
何も答えずにいる私に再び問いかけた男性は、私の顔を見るなり何かを呟き固まってしまった。ただでさえ怪しまれているのに問い掛けられて答えないのは状況的に良くないだろう。敵か味方かはまだ分からないけれど、拘束後に暴力で口を割らせるでもなく言葉で訊ねてくれている部分に少なからず好印象を抱いた。
「申し訳ありません。怪しいかとは思いますが、私は異世界より転移させられてこの世界にやってきました。信じていただけるとは思いませんが、元の世界に戻る手立てはございません」
敵対する意思がないことを示すように、ゆっくりと丁寧な言葉を選んで話す。こういう時に冷静になることが出来るのは、元の世界での様々な経験の賜物だろう。内心では出来るだけ穏便に事を運びたいとドキドキしているけれど、それを顔に出すことはしない。必要なくなってしまったと思った王子妃教育も全くの無駄になった訳ではないらしい。幸い、男性は私の話に耳を傾けてくれているようで、無言ではあるけれど続きを促してくれた。
「速やかに住むところを探し、魔法で生計を立てていけたらと思っております。貴方様に決してご迷惑はお掛けしませんので、街への道を教えていただけないでしょうか?」
「…………」
しばらく無表情のままだったけれど考えが纏まったのか、男性は意を決したように口を開いた。
男性が語るところによると、今私たちがいるこの森は立ち入り禁止区域に指定されているらしい。そしてこの森の管理を任されているのがこの男性で、僅かな魔法の気配を感じたため、調査にやってきたのだと言う。
実際私が使った魔法は、枝に火を灯したものと、手の中の水を浄化したものだけで大した魔法は使っておらず、使用した魔力も微々たるものだったのだが、それを感知することが出来るこの人は魔術に長けた人物なのだろう。
異世界から来たということは、私の纏う魔力の色味がこの世界の物とは違うということで信じてもらうことが出来た。拘束はされたままだが、このまま立ち入り禁止の森に居続けるのは魔獣なども出て危ないということで、私は一旦男性の家に連れていかれることになった。
街への道を教えて欲しかっただけなのにと思ったけれど、彼の管理する立ち入り禁止の森に、不可抗力とはいえ勝手に入ってしまったのは私なのだから素直に従うより他ない。そう思っても、やはり初対面の男性の家に連れていかれるのは少し不安で、拘束さえされていなかったら魔法で逃げ出していたことだろう――。
男性は簡単な説明の後、私の腕を掴むとすぐに転移魔法を展開した。
着いた先にあったのは塔のような造りの建物で、どうやらここが男性の家らしかった。男性が塔の入り口のドアに掌を翳すと自動で開く魔術が仕掛けられているらしく、思わず目を輝かせてしまった。興味深く観察していると、この塔の扉は彼が許可した者のみが掌を翳すことによりドアを開けることが出来るのだということを教えてくれた。
どういう魔術を仕込めばこの様な高度な仕掛けが出来るのかを説明してくれたけれど、残念ながら私には理解することが出来なかった。
いきなり拘束した割に色々と教えてくれる男性は、存外悪い人ではないのかもしれない。
男性は塔に入ると二階に案内してくれた。一階部分は玄関口と奥に浴場があるそうで、主に二階部分が生活スペースになっているらしい。二階に上がると広々とした部屋があり、部屋の隅に小さなキッチンが備え付けられていた。ドアで仕切られた隣が彼の寝室で、三階には仕事部屋があり、四階は空き部屋らしかった。
部屋に入ると、ダイニングテーブルを挟んで背もたれのないベンチ椅子に座るように言われた。そして、私が少しでも怪しい行動を取ったら問答無用で攻撃するという条件付きではあったけれど、拘束を解いてもらうことが出来た。
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