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まさかの異世界追放①

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 高位貴族である私が、嫌がらせ程度(しかも冤罪)で断罪されるのはあり得ないことなのに、国外追放どころか異世界に追放とは――。

 ピエール殿下とネトリ男爵令嬢は、侯爵家からは勿論のこと、周りの高位貴族や平民からも抗議を受けることは免れないだろう。

 手前味噌でお恥ずかしいけれど、私はいずれ王子妃になるということで孤児院で子供たちの教育やお世話のお手伝いをしたり、治療院で怪我や病気に苦しむ人々に治癒魔法を施したりしていたのだ。そして治療で得た収入は、孤児院に寄付したり治療院の設備や備品の費用に充ててもらっていたので完全にボランティアだった。さらに月に二日ほど、貧しい人たちに向けての炊き出しも行い、平民の方々にも第二王子の婚約者として顔を広め支持を集めていた。

 また騎士団の遠征に治療師として何度か同行したこともあり、治療を通じて騎士の人たちとも仲良くさせてもらっていた。それもこれも第二王子であるピエール殿下の評判を上げるためにやってきたことだと言うのに、悲しいことにあの方には私の努力や気遣いなど何一つ伝わっていなかったのだ。

 しかし異世界に来てしまい戻る術もない現状、私はこの世界で暮らしていくしかない。生活の基盤を整える以前に、今いる森から出て村や街を探し、住むところと仕事を探さなければならない。幸いなことに私は魔法が得意なので、仕事には困らないと思うのだ。

 しかし森の中は静かで薄暗く気味が悪い……。肝は座っている方ではあるが心細い。今頃あちらはどうなっているのだろうか? パーティーの真っ只中で起こったこの騒動。異世界に追放されてしまった侯爵令嬢……。ここで考えていても仕方はないけれど、せっかくの祝いの場があのような馬鹿げた茶番劇で台無しにされてしまったことは、他の参加者の方々に申し訳なく思う。あの時点ではまだ婚約者であったのだから、殿下の愚かさとネトリ男爵令嬢の企みに気付けなかったことは私の落ち度だろう。私だけならまだ良いけれど、他の方々にまで被害が及んでいなければ良いのだが……。

 勝ち誇った表情で私を見ていた彼女の顔を思い浮かべて小さく溜息を吐いた。

「ハア……。ここでジッとしていてもどうにもならないし、取り合えず移動しますか」

 声に出すことで自分に発破を掛けた私は、手近に落ちていた木の枝に燃え尽きない火を灯した。そして当てもなく歩いていると、とても綺麗な湖に辿り着いた。歩き続けて喉の乾いていた私は、そこで水分補給をすることにした。湖の水を手にそっと掬い、浄化魔法で飲むことが出来る水に変えて存分に喉を潤した。いくら綺麗に見えたとしても、そのままの生水を口にするのは危険なのである。万が一お腹を壊してしまっては大変だし、命の危険があるかもしれない。故に野外で水を飲むときは浄化魔法が必須なのだ。これは騎士団の遠征に同行した時に学んだことだ。侯爵家や王城では、当然のように安全で綺麗な水が出されるため、私は遠征に行くまでそのことを知らなかった。

 貴族として与えられるのが当然の生活は、私の生きる知恵を得る機会を狭めているのだと気付かされ、遠征に対してそれまでよりももっと前向きな気持ちで望むことが出来た。

 遠征や炊き出し、孤児院や治療院のボランティアを通じて、生活の知恵や民間療法の有用性などを知ることが出来たのは、大きな収穫だった。民間療法に関しては、信憑性の低い物もあったため全部を信じることは出来なかったけれど、そういったことがあると知れただけでも面白く、第二王子妃になるために支持を集めるという目的は、いつしか二の次になっていた。いつか殿下と正式に婚姻し王子妃になった時に、お側で政務の手助けが出来るように努力をしてきたというのに、それは全て無駄になってしまった。その活動で得た体験や知識は何よりも得難いものではあったが。

 冷たく澄み切った水を飲むと、気が緩んだのか途端に不安に襲われた。

 どうして自分がこのような目に合わなければならなかったのかと暗い気持ちになってしまった。

 せっかく前向きになっていたというのに――。

 きっと予定通り殿下と結婚していたとしても私の努力は報われることはなかったのだろうし、遅かれ早かれ愛人を庇って似たようなことが起こったかもしれない。それなら殿下とは関係のないところで自由に暮らした方が幸せになれるのかもしれない。

 ただ心残りなのは、突然会うことが出来なくなった家族のこと……。いつも優しく愛情たっぷりに私を包み込んでくれた家族。

 あのようなことをしでかした殿下の方が立場が悪いのは分かり切ったことなので、その点において侯爵家の心配はしていないけれど、家族にもう会うことが出来ないと思うと悲しくなる――。

 落ち込んだ気分で湖の畔に座り込んで考えていた私は、前触れもなく突然魔法で拘束されてしまった。今日はこういうことが多い……。魔法の腕に自信があったのに、気が緩みすぎである。突然の拘束に恐怖を抱きつつも心の片隅ではそんな自分に呆れていた。異世界に追放されるというとんでもないことが起こったばかりだ、嫌でも冷静になるというものである。

「お前は何者だ? ここで何をしている」
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