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本編

王宮への引っ越し①

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「お世話になりました!」

 俺は塔に向かって頭を下げた。
 それを見ていたポワソン少年とセインは不思議そうに、何故誰もいない塔に向かってお礼を言っているのかと聞いてきた。

「姫ちゃん、何で誰もいないのにお礼言ったの?」

「誰かに言ったんじゃなくて、俺の逃げ場所というか……心の平穏を守ってくれたこの塔には、お礼を言いたかったんだ。この世界に来て俺が安心して過ごせる場所なんてどこにもなかったからな。だからこの塔は俺のことを守ってくれていたから感謝しているんだ‼ それから、セインとポワソンもこんな俺なんかの我が儘のために、窮屈な思いをさせちゃってごめん‼ それからありがとう……」

 俺が二人に改めてお礼を言うと、セインは照れたように姫ちゃんおれを守るのがオイラセインの役目だから気にしなくていいと言ってくれて、ポワソン少年は何故か泣いてしまった。
 突然の涙に慌てた俺は、ポワソン少年の背中をさすってどうしたのか訊ねた。
 そんなにこの塔での暮らしが辛かったのかなと考えていると、ポワソン少年は少し落ち着きを取り戻したのか、ゆっくり自分の気持ちを話してくれた。

「姫様にそのようなことを言っていただけるなんて、思ってもいませんでしたから、感極まってしまって……。ご迷惑をおかけして申し訳ございません……」

「そんな! 迷惑だなんて全く思ってないって!」

「ありがとうございます。やはり姫様はお優しいですね。私は姫様のお側にいられて幸せです。姫様がこの塔に入られてから、キャサリン様とお話しされたりお料理をなさったりするのを近くで拝見させていただいて、姫様の人となりが良く分かりました。精霊姫様だからではなく、一人の人間として尊敬できるお人だと確信致しました。そんな姫様が私に『ありがとう』と言ってくださって……。勿体ないお言葉に感激してしまいました」

「ポワソンは大袈裟だよ。俺はそんな大層な人間なんかじゃないし、してもらって嬉しかったら『ありがとう』っていうのは当然のことだから、いちいち気にすることじゃないんだぞ?」

「そんな姫様だからこそ、私はこれからも誠心誠意尽くして参りますので、どうか末永くお側においてくださいませ」

「そんなのこっちからお願いしたいくらいだよ。歳も近いし、仲良くしてくれたらそれだけで俺は嬉しいんだから。だから、塔から出てもラジオの体操付き合ってくれよ?」

「はい!  是非ご一緒させてください!」

 ポワソン少年って淡々としてるイメージだったけど、結構熱血漢というか、涙脆いんだなと改めて思った。
 やっとポワソン少年が落ち着いたから、俺たちが少ない荷物を持って王宮へ向かって歩いていると、王宮の入り口にルシアンがいるのが見えた。
 あれ? 仕事はいいのかな?

「姫! お待ちしておりました!」

 俺たちの姿を見付けると、ルシアンは満面の笑みで迎えてくれた。
 ルシアンのあんな表情、初めて見たかもしれない。
 塔に入る前は、作り物みたいな表情だったし、塔にいるときは俺の顔色を窺ってる感じだったし……。
 顔色も良さそうで、ちゃんとご飯を食べて睡眠もとれたみたいで良かった!
 それにしても忙しいはずだし、わざわざ出迎えなんて良かったのに……。
 もしかして俺たちがちゃんと王宮に来るか心配だったとか?

「ルシアン出迎えてくれてありがとう。だけど仕事は大丈夫なのか?」

「姫が王宮に戻られる以上に優先すべき執務などございませんから。本日も姫のお顔を見ることが出来て私は幸せ者です」

「ほんとルシアンは大袈裟だなぁ。これからは俺も王宮で過ごすし食堂も使うんだから、時間さえ合えばご飯の時に会えるんだし、そんなレアなもんでもないだろ」

「いえ、姫に会えなかった日々は乾ききっていて色さえない日々でしたから。こうしてお顔を拝見出来て言葉を交わすことが出来るのがどれほど幸福なことか……」

 ルシアンはそういうと顔を覆って俯いてしまった。
 俺なんかに会えたくらいでそんなに幸せだって思ってくれるのは素直に嬉しいかな。
 だけど前みたいに夜這いとかされたらたまらないから、釘だけはしっかり刺しておかないといけない。

「ルシアン、これから俺は王宮に戻るけど、前みたいに夜忍び込んで勝手なことはしないって約束しろよ? もしまた勝手にベットに忍び込んでいやらしいことしたら、今度こそどっかに消えるからな?」

 俺がそう言い切ると、ルシアンは顔を青くして何度も何度も頷いた。
 王宮には入るけど、基本的には塔と同様にセインに結界を張ってもらって、俺が許可した人しか入れないようにはするつもりだ。
 昼間でもマリオンに押し倒された前例があるから、俺が部屋にいるときはいつでも結界を張り続けてくれるようにセインにはお願いしている。

「もちろんです。姫の許可なく触れたりしないことを誓います」

 ルシアンが俺の手に触れる許可を求めたから許した。
 そしたら俺の目の前で跪いて、手を取るとそこに自分の額を押し付けて誓った。
 すると俺とルシアンの周りにふわっとした光が瞬いて驚かされる。
 何が起こったのか理解していない俺がキョトンとしていると、セインが教えてくれた。
 それによると、今ルシアンは魔法による誓いを立ててくれたらしい。
 魔法の誓いというのは、破った時にペナルティを負うものだそうだ。

 ――嫌な予感がする。
 確認せずにはいられない。

「ペナルティを負うって……何にしたんだ?」

「私が姫の許可なく体に触れた場合に、心臓が止まるように誓いました」

 まさかそんなに重いものだと思わなかった俺は血の気が引くのを感じた。
 そこまでして誓ってくれたルシアンの覚悟は凄いと思うけど、度を越してるだろ。
 自分の命を懸けた誓いなんて……求めてない!

「何でそんなことを誓いのペナルティにしてるんだよ! もしかしたらうっかり触れちゃうことだってあるかもしれないじゃないか!」

「姫に私の覚悟と愛を信じていただきたかったので、後悔はしていません」

「だとしても、やりすぎだろ! 俺はルシアンの命を懸けてまで誓って欲しくなんてなかった……。なぁ? どうしたらその魔法の誓いのペナルティは変更できるんだ?」

「魔法の誓いは一度成立すれば覆すことは出来ません……」

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