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本編

ほだされてるのか?

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 毎日来ていた奴等が来なくなったおかげで、やっと自分の時間を過ごすことが出来るようになった。

 あれだけ熱望していた一人時間だけど、最近は常に誰かがいるのが当たり前になっていたから、少し寂しいような気もする。
 まぁポワソン少年もセインもいるから、全く一人だという訳ではないんだけどね。
 やりたいことは色々あるけど、何となく昨日は一日ゴロゴロして過ごした。
 何だかんだと疲れが溜まってたみたいで、自分でも驚くほど寝てしまったんだよね。

 さすがに昨日あれだけ寝たから疲れも取れたらしく、今日は久しぶりにキッチンに立っている。
 お城の厨房から差し入れのリンゴをポワソン少年がたくさんも貰ってきてくれたから、アップルパイと日保ちのするジャムを作ろうと思う。
 元の世界で作ったことがあるから、パイ生地の作り方は覚えているけど、配合が分からないからお城のパティシエさんに教えてもらった。

 生地を作って寝かせてる間に中のフィリングを作る。
 俺はカスタードクリームが入ってるやつが好きだから、カスタードクリームとリンゴのコンポートを作った。
 一緒にバターも入れて煮込むのが俺のオススメ。
アーモンドクリームも美味しいけど、これは作り方分からないし追々パティシエさんに教えて貰うつもり。
コンポートの横で一緒にリンゴジャムも煮ちゃう。
 ジャムにはレモン汁とシナモンを入れて良い香りのものが出来た。
 用意してもらった瓶を煮沸消毒して、ジャムが熱いうちに入れる。
 しっかり蓋をしてから逆さまにして冷ましておいたら、中がいい感じに真空みたくなるから長期保存が出来るようになるんだ。
 無添加だから、そこまで長い期間置くつもりはないけどね。
 結構たくさん出来たから、今度夕食に王様たちが来たらおすそ分けしようかな。

「ケイト兄様ごきげんよう」

 アップルパイが焼けたナイスなタイミングでキャサリンちゃんが来たから、温かいうちに一緒に食べることにした。
 横にバニラアイスでも添えたら完璧なんだけど、さすがにそこまではないから焼き立てのアップルパイと紅茶でティータイムだ。

「このアップルパイを兄様が作ったのですか?」

「そうだよ。ポワソンがリンゴいっぱい持ってきてくれたからね」

 キャサリンちゃんはナイフで一口サイズにしたアップルパイを上品に口に入れた。
 まず他の人の感想を聞きたいから、俺はた食べずにキャサリンちゃんの様子を窺う。
 自信はあるんだけどどうだろ?

「兄様っ!」

「なっ、なんだよキャサリンちゃん」

 もしかして美味くなかったのか?
 目を見開いて急に大声で名前を呼ばれたら吃驚するだろ……。

「このアップルパイ……。物凄く美味しいですわ!」

「口にあったみたいで良かったわ」

 美味しいと言ってもらえてホッと胸を撫でおろす。

「パイ生地がサクサクしていて、芳香なバターの風味と中のカスタードクリームと煮リンゴの相性が最高過ぎて……」

 キャサリンちゃんは感極まったのか目頭を押さえだした……。
 ちょっと大袈裟なきもするけど、喜んでもらえたみたいで良かったよ。

 ポワソン少年にもせっかくだからと一緒に食べてもらった。
 侍従が同じテーブルに着くわけにはいきませんとか言うから、それなら俺も立って食べるよって言ったら、渋々席に座ってくれた。
 まぁお茶を入れるのはポワソン少年なんだけど。
 ポワソン少年も目をキラキラさせて食べてくれたから、一般受けするくらいには美味しく出来たらしい。

 二人の様子に満足して俺もアップルパイに口を付ける。
 ――うん、確かに美味いな。
 パイ生地もパティシエさんに教わった配合の通りにやったから、サクサクで風味が良くて、自画自賛になっちゃうけど、美味しく出来てほんと最高な気分だ。

 毎日来ていた王子たちに来るなと言った手前、食べに来いなど言えないから、焼き立てではなくなるけど、後でポワソン少年に持っていってもらおう……。
 久しぶりのお菓子作りにはしゃいで調子にのっていっぱい作ったからな。
 ジャムは来たときに渡せばいいけど、パイは日持ちがしないから当日に渡したいしね。
 それにジャムはまだ冷ましてる最中だから、明日王様たちが夕食の時に来るらしいし、その時に渡そうと思う。
 
 キャサリンちゃんはアップルパイをおかわりまでしてくれた!
 たくさん食べてくれると作り甲斐があるって嬉しくなる。
 このくらいの年頃の女子って無理して少食なイメージだから、キャサリンちゃんのこういうところにすごく好感が持てる。

 ポワソン少年が少しでも温かいうちに王子たちにも食べさせたいと言って、自分の分をさっと食べ終えて席を立った。

「会えなくしてごめんって伝えといて~」

「はい。またルシアン殿下があまり食事を摂ってくださらないようなのですが、姫様のお作りになったアップルパイであれば召し上がっていただけると思うのです」

「は?  あいつまたご飯たべてないのか?」

「ロイ様からその様に聞いております」

「マジかよ。あいつ俺に会えないだけでそうなるのか? 俺がこの世界に来る前は普通だったんだろ?」 

「そうですね。お食事も普通になさっていました」

「それが何で食べられなくなるかね?」

「兄様、ルシアン殿下が心配ですか?」

「そりゃ弱ってたら普通に心配にするだろ」

「兄様は何だかんだと言って甘いですからね」

「キャサリンちゃんが何言いたいのかは分かんないけど、ポワソン、早くルシアンにアップルパイ食べさせてきてあげて!」

「承知致しました! では失礼致します!」

「あ、マリオン殿下には私が渡しに行きますから、ポワソンはルシアン殿下が食べ終わるまで側で見守ってきてくださいな」

 どうやらキャサリンちゃんがマリオンに届けてくれるらしい。
 マリオンは元気だから気軽に行ってきてもらえばいい。

 問題はルシアンだな。
 またご飯が食べられなくなっているってどういうことだよ……。
 細かく聞けば、昼にお粥みたいなスープは飲んでいるらしいんだけど、あとは飲み物位しか摂っていないみたいだ。
 アイツ、この間ぶっ倒れたこと忘れたのか?

 俺に会えないくらいでどうしてそんなにメンタルやられるんだよ。
 被害者は俺のはずだろ?

 最初の強引さはどこへ行ったってくらい最近は大人しかったし、俺も手を握られても嫌な気持ちにはならなかった。
 無断で夜中に変態なことをされていたのは許せないけど、離れてみたらちゃんと俺の気持ちを優先してくれる様になったし、そろそろ戻ってもいいかなとか思ってみたり……。

 塔は住み心地も良いし気楽なんだけど、やっぱりちょっと閉塞感があって息苦しいというか……。

 もとの世界の俺の住んでた家よりはデカイんだけど、網戸とかないからずっと窓を開けっ放しには出来ないし、ちょっと息が詰まるかも?

 ――それにアイツがこれ以上ご飯を食べられないままなのも困るしな?
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