上 下
15 / 16
第三章 居たい場所

15

しおりを挟む
「で。話はわかったが、それで何でオレの所にくる?」
「はっは~ん、お困りですね? そんなときこそ、アンちゃんにおまかせ!」

 両極端な反応を示した二人は、いつものごちゃごちゃとした研究所で二人仲良くお茶をすすりながらオレを迎え入れてくれた。

「子供って、理不尽だよな。なんでも大人の言いなりにならなきゃいけない。損だよ。子供に人権なんかないんだ」
「子供にも人権はあるぞ。ちゃあんと法律で定まっておってだな――」
「そういう話じゃなくて!」
「わかっとるわ。だがな。子供だからそうやってイジけて嘆くことしかできないのか? それで諦められるなら、それでいいだろ」
「よくない!」
「じゃあどうする?」

 いつもの飄々とした調子でそう聞かれて、オレは思わず眉毛をぎゅっと寄せた。

「どうするって……、そんなの考えてもわかんないから理不尽だって言ったんだよ」

 転校しないで済む方法なんて、これまで考え尽くしてきた。
 だけど、何を言ったって最後は「家族は一緒に暮らすものよ」って話を締めくくられてしまう。

「ではでは、そんなお困りのタイガさんには、こちらを進呈しましょう!」

 じゃっじゃーん! とアンちゃんが両腕で抱えて持って来たのは、博士の発明品。

「アンちゃん……、気持ちは嬉しいけど、これ、失敗作ばかりじゃんか。前に見せてもらったから知ってるよ」

 ため息を吐いてそう言ったオレに、博士はずずっとお茶を啜った。

「タイガ。オレが前に言ったこと、覚えてるか?」

 思わず首を傾げる。
 迷言ならたくさん聞いた気がする。情けない泣き言なら何度も聞いた気がする。
 まあ、確かにいろいろと心に突き刺さる言葉もあったけど……どれだ?

「あれ? っていうか、博士。今、オレのこと――」
「機械をどう使うかは人間次第。オレの発明品を失敗作にするのも役立てるのも、お前次第ってことだ」

 謎なことを言って博士は、段ボールに発明品を詰め込み始めた。

「ほれ。諦めたくないなら、最後まで考えろ。そしてもがけ」

 オレは段ボールを抱えて途方に暮れた顔をしていたのかもしれない。
 博士はオレの顔を見て、面白そうに笑った。

「それはやるんじゃない。貸すだけだ。まあ、いわばモニターだな。実際に使って改善点や要望をレポートにまとめて出せ。楽しみにしてるからな」
「ファイトですー」

 フレ、フレ、とチアリーダーのようにぴょんぴょん跳ねて踊るアンちゃんの声援を背に受けながら、オレは研究所を後にした。
 そして。
 家へと帰る道、ずっと考えていた。
 オレに何ができるのかを。

     □

「お父さん。お母さん。夕飯を食べ終わったら、お話があります」
「なんだ、改まって」
「まさか、またあの話?」

 お母さんは察したようだ。ため息を吐いて、困った顔でオレを見る。

「この間はごめん。あの時はカッとなっちゃって、言っちゃいけないこと言った。だけど今度はちゃんと考えてきたんだ。改めて聞いて欲しい」
「ランもきくー! にいに、カメさんが旅に出るお話がいい!」

 それ、何の昔話だろう。

「ごめん、ラン。大事な話なんだ」
「カメさんだって太陽さんのために旅に出るんだから大事な話だよっ!」
「まあまあラン、まずはお兄ちゃんの話を聞こうじゃないか」

 ぶすぅ、と頬をふくらませたランを、お父さんが膝にのせてとりなしてくれた。

「いいぞ、今話して。というか、気になって仕方ない、話してくれ」

 お母さんが『またあの話』とか言うから気になってしまったらしい。
 でもこの機は逃せない。

「ありがとう。準備するからちょっと待ってて」

 そう言ってオレは急いで二階に上がり、部屋に置いておいた段ボールを持ってきた。

「父さん、母さん、聞いてほしい。オレ、転校したくないんだ。みんなと一緒に卒業したい。みんながいるこの町で暮らしたいんだ」

 お父さんは、「ああ、そういう話か……」って思ってるのがありありとわかる顔をした。
 だけどめげない。

「それにあたって、提案があります」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒーラーガール!

西出あや
児童書・童話
 ドンッ!  わたし篠崎若葉が信号待ちをしていたら、誰かに背中を押され、大通りに飛び出してしまったの。  車に轢かれそうになったところを命がけで助けてくれた男の子は、両親が雇ったわたしのボディガード、佐治斗真くんだった。  わたしには、ケガや病気を治すことのできる治癒能力がある。  そのせいで、今まで何度も命を狙われたり、誘拐されそうになってきた。  そのたびに引っ越しを繰り返してきたんだけど、これからは佐治くんのおかげで、転校せずに済むみたい。  学校からの帰り道、悪い人にあとをつけられ二人で逃げたとき、佐治くんにもヒミツがあるんじゃないかってわかったんだけど、どうしても教えてくれようとしなくて……。

養子の妹が、私の許嫁を横取りしようとしてきます

ヘロディア
恋愛
養子である妹と折り合いが悪い貴族の娘。 彼女には許嫁がいた。彼とは何度かデートし、次第に、でも確実に惹かれていった彼女だったが、妹の野心はそれを許さない。 着実に彼に近づいていく妹に、圧倒される彼女はとうとう行き過ぎた二人の関係を見てしまう。 そこで、自分の全てをかけた挑戦をするのだった。

転生司祭は逃げだしたい!!

児童書・童話
大好きな王道RPGの世界に転生した。配役は「始まりの村」的な村で勇者たちを守って死ぬ司祭。勇者と聖女が魔王討伐の旅に出る切っ掛けとなる言うならば“導き手”。だが、死にたくない……と、いうことで未来を変えた。魔王討伐にも同行した。司祭って便利!「神託が~」とか「託宣が!」ってゲーム知識も何でも誤魔化せるしね!ある意味、詐欺だけど誰も傷つかないし世界を救うための詐欺だから許してほしい。 これはお人好しで胃痛持ちの司祭さまが役目を終えて勇者パーティから逃げ出そうとし、その結果「司祭さま大好き!」な勇者や聖女が闇堕ちしかけたりするお話。主人公は穏やかな聖人風で、だけど内面はわりとあわあわしてる普通の兄ちゃん(そこそこチート)。勇者と聖女はわんことにゃんこ。他勇者パーティは獣人、僧侶、ハイエルフ、魔導師などです。 【本編完結済】今後は【その後】を更新していきます。

高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!

ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。 しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。

へいこう日誌

神山小夜
児童書・童話
超ド田舎にある姫乃森中学校。 たった三人の同級生、夏希と千秋、冬美は、中学三年生の春を迎えた。 始業式の日、担任から告げられたのは、まさかの閉校!? ドタバタ三人組の、最後の一年間が始まる。

見える彼 と 見えない彼女

神﨑なおはる
ライト文芸
柵木秀生(まさきしゅうせい)には昔から常人には見えないものが見えた。 幽霊、悪霊、妖し。 だけど見えるだけで、祓ったりできるわけがない。 見えるだけで自分ではどうしようもない理不尽な存在に見て見ぬ振りをして生きていた。 だけどそんなある日、彼は、見えていないはずの才明寺希(さいみょうじまれ)が彼女の意図せず悪霊を祓う場面を目撃してしまう。 くっそ何番煎じのよくあるオカルト設定のよくある男女の話です。 最後までお付き合いくださると嬉しいです。 多分そんなに長くならないはず。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。

takemot
児童書・童話
 薬草を採りに入った森で、魔獣に襲われた僕。そんな僕を助けてくれたのは、一人の女性。胸のあたりまである長い白銀色の髪。ルビーのように綺麗な赤い瞳。身にまとうのは、真っ黒なローブ。彼女は、僕にいきなりこう尋ねました。 「シチュー作れる?」  …………へ?  彼女の正体は、『森の魔女』。  誰もが崇拝したくなるような魔女。とんでもない力を持っている魔女。魔獣がわんさか生息する森を牛耳っている魔女。  そんな噂を聞いて、目を輝かせていた時代が僕にもありました。  どういうわけか、僕は彼女の弟子になったのですが……。 「うう。早くして。お腹がすいて死にそうなんだよ」 「あ、さっきよりミルク多めで!」 「今日はダラダラするって決めてたから!」  はあ……。師匠、もっとしっかりしてくださいよ。  子供っぽい師匠。そんな師匠に、今日も僕は振り回されっぱなし。  でも時折、大人っぽい師匠がそこにいて……。  師匠と弟子がおりなす不思議な物語。師匠が子供っぽい理由とは。そして、大人っぽい師匠の壮絶な過去とは。  表紙のイラストは大崎あむさん(https://twitter.com/oosakiamu)からいただきました。

処理中です...