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第三章 居たい場所
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「で。話はわかったが、それで何でオレの所にくる?」
「はっは~ん、お困りですね? そんなときこそ、アンちゃんにおまかせ!」
両極端な反応を示した二人は、いつものごちゃごちゃとした研究所で二人仲良くお茶をすすりながらオレを迎え入れてくれた。
「子供って、理不尽だよな。なんでも大人の言いなりにならなきゃいけない。損だよ。子供に人権なんかないんだ」
「子供にも人権はあるぞ。ちゃあんと法律で定まっておってだな――」
「そういう話じゃなくて!」
「わかっとるわ。だがな。子供だからそうやってイジけて嘆くことしかできないのか? それで諦められるなら、それでいいだろ」
「よくない!」
「じゃあどうする?」
いつもの飄々とした調子でそう聞かれて、オレは思わず眉毛をぎゅっと寄せた。
「どうするって……、そんなの考えてもわかんないから理不尽だって言ったんだよ」
転校しないで済む方法なんて、これまで考え尽くしてきた。
だけど、何を言ったって最後は「家族は一緒に暮らすものよ」って話を締めくくられてしまう。
「ではでは、そんなお困りのタイガさんには、こちらを進呈しましょう!」
じゃっじゃーん! とアンちゃんが両腕で抱えて持って来たのは、博士の発明品。
「アンちゃん……、気持ちは嬉しいけど、これ、失敗作ばかりじゃんか。前に見せてもらったから知ってるよ」
ため息を吐いてそう言ったオレに、博士はずずっとお茶を啜った。
「タイガ。オレが前に言ったこと、覚えてるか?」
思わず首を傾げる。
迷言ならたくさん聞いた気がする。情けない泣き言なら何度も聞いた気がする。
まあ、確かにいろいろと心に突き刺さる言葉もあったけど……どれだ?
「あれ? っていうか、博士。今、オレのこと――」
「機械をどう使うかは人間次第。オレの発明品を失敗作にするのも役立てるのも、お前次第ってことだ」
謎なことを言って博士は、段ボールに発明品を詰め込み始めた。
「ほれ。諦めたくないなら、最後まで考えろ。そしてもがけ」
オレは段ボールを抱えて途方に暮れた顔をしていたのかもしれない。
博士はオレの顔を見て、面白そうに笑った。
「それはやるんじゃない。貸すだけだ。まあ、いわばモニターだな。実際に使って改善点や要望をレポートにまとめて出せ。楽しみにしてるからな」
「ファイトですー」
フレ、フレ、とチアリーダーのようにぴょんぴょん跳ねて踊るアンちゃんの声援を背に受けながら、オレは研究所を後にした。
そして。
家へと帰る道、ずっと考えていた。
オレに何ができるのかを。
□
「お父さん。お母さん。夕飯を食べ終わったら、お話があります」
「なんだ、改まって」
「まさか、またあの話?」
お母さんは察したようだ。ため息を吐いて、困った顔でオレを見る。
「この間はごめん。あの時はカッとなっちゃって、言っちゃいけないこと言った。だけど今度はちゃんと考えてきたんだ。改めて聞いて欲しい」
「ランもきくー! にいに、カメさんが旅に出るお話がいい!」
それ、何の昔話だろう。
「ごめん、ラン。大事な話なんだ」
「カメさんだって太陽さんのために旅に出るんだから大事な話だよっ!」
「まあまあラン、まずはお兄ちゃんの話を聞こうじゃないか」
ぶすぅ、と頬をふくらませたランを、お父さんが膝にのせてとりなしてくれた。
「いいぞ、今話して。というか、気になって仕方ない、話してくれ」
お母さんが『またあの話』とか言うから気になってしまったらしい。
でもこの機は逃せない。
「ありがとう。準備するからちょっと待ってて」
そう言ってオレは急いで二階に上がり、部屋に置いておいた段ボールを持ってきた。
「父さん、母さん、聞いてほしい。オレ、転校したくないんだ。みんなと一緒に卒業したい。みんながいるこの町で暮らしたいんだ」
お父さんは、「ああ、そういう話か……」って思ってるのがありありとわかる顔をした。
だけどめげない。
「それにあたって、提案があります」
「はっは~ん、お困りですね? そんなときこそ、アンちゃんにおまかせ!」
両極端な反応を示した二人は、いつものごちゃごちゃとした研究所で二人仲良くお茶をすすりながらオレを迎え入れてくれた。
「子供って、理不尽だよな。なんでも大人の言いなりにならなきゃいけない。損だよ。子供に人権なんかないんだ」
「子供にも人権はあるぞ。ちゃあんと法律で定まっておってだな――」
「そういう話じゃなくて!」
「わかっとるわ。だがな。子供だからそうやってイジけて嘆くことしかできないのか? それで諦められるなら、それでいいだろ」
「よくない!」
「じゃあどうする?」
いつもの飄々とした調子でそう聞かれて、オレは思わず眉毛をぎゅっと寄せた。
「どうするって……、そんなの考えてもわかんないから理不尽だって言ったんだよ」
転校しないで済む方法なんて、これまで考え尽くしてきた。
だけど、何を言ったって最後は「家族は一緒に暮らすものよ」って話を締めくくられてしまう。
「ではでは、そんなお困りのタイガさんには、こちらを進呈しましょう!」
じゃっじゃーん! とアンちゃんが両腕で抱えて持って来たのは、博士の発明品。
「アンちゃん……、気持ちは嬉しいけど、これ、失敗作ばかりじゃんか。前に見せてもらったから知ってるよ」
ため息を吐いてそう言ったオレに、博士はずずっとお茶を啜った。
「タイガ。オレが前に言ったこと、覚えてるか?」
思わず首を傾げる。
迷言ならたくさん聞いた気がする。情けない泣き言なら何度も聞いた気がする。
まあ、確かにいろいろと心に突き刺さる言葉もあったけど……どれだ?
「あれ? っていうか、博士。今、オレのこと――」
「機械をどう使うかは人間次第。オレの発明品を失敗作にするのも役立てるのも、お前次第ってことだ」
謎なことを言って博士は、段ボールに発明品を詰め込み始めた。
「ほれ。諦めたくないなら、最後まで考えろ。そしてもがけ」
オレは段ボールを抱えて途方に暮れた顔をしていたのかもしれない。
博士はオレの顔を見て、面白そうに笑った。
「それはやるんじゃない。貸すだけだ。まあ、いわばモニターだな。実際に使って改善点や要望をレポートにまとめて出せ。楽しみにしてるからな」
「ファイトですー」
フレ、フレ、とチアリーダーのようにぴょんぴょん跳ねて踊るアンちゃんの声援を背に受けながら、オレは研究所を後にした。
そして。
家へと帰る道、ずっと考えていた。
オレに何ができるのかを。
□
「お父さん。お母さん。夕飯を食べ終わったら、お話があります」
「なんだ、改まって」
「まさか、またあの話?」
お母さんは察したようだ。ため息を吐いて、困った顔でオレを見る。
「この間はごめん。あの時はカッとなっちゃって、言っちゃいけないこと言った。だけど今度はちゃんと考えてきたんだ。改めて聞いて欲しい」
「ランもきくー! にいに、カメさんが旅に出るお話がいい!」
それ、何の昔話だろう。
「ごめん、ラン。大事な話なんだ」
「カメさんだって太陽さんのために旅に出るんだから大事な話だよっ!」
「まあまあラン、まずはお兄ちゃんの話を聞こうじゃないか」
ぶすぅ、と頬をふくらませたランを、お父さんが膝にのせてとりなしてくれた。
「いいぞ、今話して。というか、気になって仕方ない、話してくれ」
お母さんが『またあの話』とか言うから気になってしまったらしい。
でもこの機は逃せない。
「ありがとう。準備するからちょっと待ってて」
そう言ってオレは急いで二階に上がり、部屋に置いておいた段ボールを持ってきた。
「父さん、母さん、聞いてほしい。オレ、転校したくないんだ。みんなと一緒に卒業したい。みんながいるこの町で暮らしたいんだ」
お父さんは、「ああ、そういう話か……」って思ってるのがありありとわかる顔をした。
だけどめげない。
「それにあたって、提案があります」
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