四十九日のモラトリアム

笹木柑那

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11.待ち望んだ時

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 先に予約されていた新刊が返却されていないかと、図書館へ行く度に受付で訊ねてもらった。
 そんなにすぐに返されるわけがないとは思っていたが、それでも何もせずにはいられなかった。
 そんな心待ちにしていた本を彼が受け取ったのはそれから間もなくのことだった。
 予約は三人目だったのに、たった五日で順番が巡り、その本を手にすることができたのだ。

「すごい、こんなことってあるんだね」

 私は深い感動を覚えながら、その本をじっと眺めた。既に涙はないのだが、わずかに視界がぼやけた。涙のせいではなく、集中力が切れたのだ。
 最近、集中してその物事を見ようとしないとすぐに視界がぼやけて、物事をきちんと捉えるのが難しくなっていた。

 彼は手続きを済ませその本を手にすると、いつものテーブルへとやってきてそこへそっと置いた。
 まず装丁をじっくり眺め、彼にお願いして中を開いてもらう。彼は、中表紙、目次と一枚一枚ゆっくり捲った。
 ついに本編が開かれた。そこから私は怒涛の読書時間を過ごした。
 しかし最後の頃になると、何故か彼のページを捲る速度が遅くなり、催促してもなかなか先に進まないことが増えた。新品だからページ同士がくっつきあっていて、捲りづらいのかもしれない。先に借りた二人も、急に忙しくなってしまったとか、趣味に合わなかったとか間違って借りてしまったとかでそこまで読んでなかったのかもしれない。

 彼が左手で押さえている本のページが残り少なくなっていた。物語は怒涛のクライマックスを迎え、私はじりじりとはやる心を抑えながら、じっくりと読みこんだ。
 しかし、ちらりちらりと何度も時計を確認する彼の視線が気になった。今日は何か予定でもあるのだろう。その時間までに読み終わるだろうか。そう心配していたら、唐突に「今日はここまで」と本を閉じられてしまった。
 時計を見上げると既にお昼に近い。

「今日は予定があるからさ。悪い」

 こちらの都合で付き合ってもらっているのだから、文句は言えない。彼にだって予定もあるだろうし、こうして私の読むスピードに合わせてページを捲るのも疲れることだろう。
 私は大人しく諦めて彼と連れだって図書館を出た。
 すると彼は、いつもなら「じゃあな」とあっさり帰っていくのに、今日はいつまでもそこに立ちつくしていて、じっと何かを考え込んでいた。

「どうしたの?」
「うん。ちょっとさ、歩かないか? 付き合ってほしいところがあるんだ」
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