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第2章 俺と幼馴染と異世界

16.

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「お、早速きたな!来ねーと思ってたよ(笑)」

フォースは俺の背中を叩く。
まぁ、あの時間に出て、10分の遅刻で済んだのは
我ながらすごいと思った。

正直クエストに出る前から俺の体力は削られていた。

「フォース、なんでそんな大荷物なんだ?」
「だって、お前が狩った動物を解体しなきゃだからな!
解体道具とかは大きくなっちまうから荷物が多くなるんだよ!」
「え、俺動物狩るの!?」
「おうよ!もうクエストの申請もしておいたからよ!出発だ!」

嘘だろーーーー!!!!!
フォースは俺の服装の首元を掴んで引っ張っていく。

俺は受付にいるエルミンさんを見る。
というか助けを求める。
エルミンさんなら、これが初クエストなのを知っているから止めてくれると思った。

あれ、エルミンさん、すごくにこやかだ。

違う、あれは…
(シルミンさんだーーーー……)

シルミンさんは俺が今日初クエストだと知らない。
優しく手を振ってる感じが
完全に弟を見守る姉スタイルになっている。

(やばい、俺死ぬかも…)


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「あれ、まだシンジくんは来てないのですか?」
エルミンがシルミンに問う。
シンジがギルドに来るとフォースから聞いていたエルミンは
クエストを始める前に、召喚士としての勉強と仮契約の動物を渡す予定をしていたのだ。

「ううん、1時間くらい前に来て
フォースくんとクエスト行っちゃったよ?」
シルミンがそれが?という顔をする。
同じ顔だからなのか憎たらしく感じるエルミン。

「なんのクエストですか!?」

「うーん、と、、ねぇ。」
シルミンは自分が受け付けたであろうクエスト依頼書を見る。
「あ、モルウサギ15体の討伐だ!」
シルミンはこれ!っといったようなお顔してクエスト依頼書をエルミンに見せる。

エルミンは顔を真っ青にした。
「フォースはまだ良いとして、シンジは今日が初クエスト日なのよ!?
それに彼は召喚士なの。しかもまだ契約動物はいなかったはず。」

「うそーーーーー」
あれま、という顔をするシルミン。
あなた絶対そうは思ってないわね。

「あなたも行きなさい、シルミン」
「え、私も!?」
「シンジとフォースが死んだら、あなたの責任よ!」
「うひゃーーー」

エルミンはシルミンを2人の見守り係として
後をつけさせることにした。

(我ながらバカな妹だわ。ほんと…。
しかも魔王復活の噂が森中に響いたのか魔物達がざわついているこんな時に…)

最近他国のギルドとの会議が多いのはその会議だった。

シルミンが2人を追いかけた後、受付のエルミンは頭を抱えた。

------------

シンジとフォースが歩くこと1時間ほど、
大した距離ではないのだが、足取りは重い。

「----だから、俺は----」

フォースはずっと喋っている。
正直そんなに何話してるんだよって思うじゃん?
俺もそう思っているところだ。

まぁ、あらかたリュウザンの師匠の話だろうから
俺が聞いたところで……感はあった。

「まぁ、ここら辺かな」

フォースは荷物を置く。

「よし、シンジたくさん狩ってくれよな!」

……………。

「えぇーーー!」

こんなあからさまにどうぞ的な感じなの?
正直こんな森の中じゃ、どうしたら良いのかも分からねぇ。

「おれはどうすればいい?」 
俺はフォースに聞く。

「うーん、と。来た魔物たちを殺す!」

こりゃ、ダメだ。あてにならない。
エルミンさん、来てーーー。

「おうおう、そんなざっくりとじゃ
シンジくんには伝わらないよ、フォースくん」

木の枝を伝って来たのはシンシアさんだった。

「シンシア…さん」

「いや、ごめんね。シンジくん今日が初クエストなんだね!
知らなかったからモルウサギの討伐依頼受付しちゃったよーあはは。」

「え、お前が今日が初!?
ってことは魔物倒したことねぇの??」

「俺初心者って、何度も言った。。。」

「ご、ごめん」

「まぁ、おねーちゃんからあんたらの面倒見ろって言われてあたしもここまで来たから、
基本的な戦い方は教えてあげるよ。こういう経験も冒険者にはきっと役立つ!」
ピースサインをこちらに向けてにっこり笑うシンシアさん。

そうだよな、誰だって始めは初心者だ。
ここから学んでいけば良い。

「改めてシンシアさんよろしくお願いします」



どうやら召喚士とは、強い動物と契約を結び
戦う時には動物らを召喚させて戦うらしい。
基本的には後方広域エリアで戦うことが多いそうだ。
正直人口としても召喚士の人口は少ないから、
解明されてないところもあるらしい。

(そうなの?俺契約してる動物とかいないんだけど)

「おねーちゃんが、仮契約できる動物持って来てたんだけど、タイミング悪くてさーあはは」

(絶対タイミングだけの問題じゃないはず…)

だとしてもいつでも前衛として戦えるように
ナイフの使い方や、ちょっとした合間に薬草なんかも教えてもらった。
薬草の中には治癒効果も動物にとっての毒効果も持つものがあり、見分け方などは大変勉強になった。
毒に関しては小刀に葉面を擦り付けるだけで小型動物であれば倒せるくらいの毒をつけられる。


「あ、ちょうどあっちの方にモルウサギがいる!
早速実戦で試そうか!」
シンシアさんが気配でモルウサギの大群を見つけたようだ。

俺は早速毒をつけた小刀でモルウサギに立ち向かう。
モルウサギの大群はおよそ50体。
まとめての攻撃なんてできないから、とりあえず一匹ずつ倒していく。
モルウサギは大群で動いてはいるが、一匹ずつでの単独での動きをすることもある。
そこを狙って仕留めていくようだ。

正直始めの1匹は躊躇した。
後ろでシルミンさんが見守っているから何も問題はないのだが、
ウサギを殺すという感覚が俺を躊躇させた。
(こんなウサギを殺すなんて…)
見た目からすればウサギを2回りくらい大きくしたような外観だ。
この子らがなにしたっていうのか。
でも、彼らが増えすぎると草も薬草も満遍なく食べられてしまう。
結果として殺さなければならないのだ。

俺はとある一匹の後ろに立ち、静かに小刀を振り下ろす。
シルミンさんが、食用でもいけるものに関しては脚を狙って毒で射止めると教えてくれた。
その方が食べるところも多く残せて、
解体屋は足元の毒部分を中心に取り除けば良いからお互い楽なのだ。
毒といっても人間にとっては微々たる毒であり、
加熱すれば無効化されてしまう毒草の毒を使用している。

グザッ

俺は静かに殺した。
(弱肉強食とはこういうことか…)
社会の授業じゃ絶対習わないな。
シルミンが「よくやった!」と褒めてくれたが、
俺はこの感覚になれるまでまだまだかかりそうだ。

俺は倒したウサギを四次元ポケットという名のポーチに入れていく。
シルミンさんが「初級冒険者じゃ普段持てない品物だよー」って教えてくれたが、
村から出る時に村長からもらったんです、と適当な理由をつけた。

その後シルミンさんから倒した魔物の一部を切り取って残しておくことを教わる。
これが、ギルドに提出する分であり、自分が倒した証拠となるのだ。

「それって別の人が倒したものも自分が倒したって言い張れるんじゃないですか?」
「うーん。できなくはないけど、、、受付の横にさいつも水晶が置かれているでしょ?
あれって、《真実の石(意思)》っていうんだよ。近くにいる人が嘘をついたりすると光るんだ。
ある意味それが嘘発見器になってるし、そんなこのとしたらうちのおねーちゃんが黙ってないもん。」

そんな仕掛けがあったのかあの石。
単に飾りかと思ってたよ。

俺はこの調子で5体ほど倒していく。
中には俺に気づいて攻撃してくる個体もいたが、
刃でかわすと同時に口から毒を仕込ませる。これも立派な攻撃となる。

俺は3時間かけてモルウサギ15体の討伐を終えた。 
クエスト達成である。

「よくやった!シンジくん!その調子で私たちの食事の分3匹追加で殺そうか」
いけいけどんどんでシンシアさんは言うが
俺の体力は(シンジのHPはゼロよー)って声が頭で再生されるくらいにはヘトヘトだった。

「ちょっと休んでから…」
俺は芝生のところに倒れこむ。

《案外キズが深いな……手当しないと…》
《いたいよー、いたいよー》

ん??この声は??
怪我してる人がいるのか?

周辺を見てもシルミンとちょっと遠くにフォースくらいしかいない。
けど確実に声が聞こえるのだ。

「ちょっと、どこいくの??」
「声がするんだ!誰かが負傷している!」
「私には聞こえないけどー?」

聞き間違いならそれでいい。
(けど本当に誰かが怪我していたなら、助け合わないと。)

俺は声のする方へ向かう
ガサッ、ガサッ

ここだーーーー!!!!



あれ?
そこには人がいると思いきや、、、、
白蛇とリスと目が合う。

《俺たちを追って来たのか!》
《こんな時に、戦えないよー》

「安心して、俺は戦いに来たんじゃないから。」

…………。



白蛇がヌルヌルとリスの前に移動する。
シャーと舌を出しているあたり
戦闘態勢に入っているのだろうか。

「俺声が聞こえて、負傷してる人がいるんだと思ってここに来たんだ。」

《信じられない…私たちの声がわかるなんて……》
《にわかに信じられないが、だが召喚士であれば俺らの声がわかる奴もいるはずだ》

「そう、俺召喚士ってやつなんだ。まだ全然弱いけど!よくわかったな!」

…………。



「と、とりあえずそのリスさんの治療を。他にはなにもしないから!」

こんなこと言って信じてもらえるのかは分からないが、
とりあえずおれは四次元ポケットから包帯などを取り出してアピールする。

「シンジくんー?どこいったんー?」
後を追いかけてきたシルミンの声がする。

「シルミンさん、ここです」
「おぉー、お!白蛇とリス、、こいつら魔物!?」
「この子怪我してて、教えてもらった治癒草つかえますかね!?」
「つ、使えるとは思うけど、、、こいつら魔物だよ?」
「それよりも怪我の治療のが先です!」
俺はあぐらをかいた状態でリスを足のところへ置く。まずは怪我の場所を確認して水で泥などを落とす。
リスはびっくりしており、なすがままの状態であった。白蛇は男に近づいた女の方を見る。

《この女、俺らを魔物と認識しておる。殺すか。》
「殺す殺さないよりもまずは怪我の治癒でしょ!」
「何言ってるんだシンジくん?」
「この蛇がシンシアさんのこと殺すって言ってるから、、、って彼の声が聞こえないんですか?」
「普通聞こえないもんだけど??」
「え、そうなの?」
俺は治癒草を細かく刻み汁気を出したらまとめた形でリスが怪我してる怪我の部位の上に置く。

《普通我ら魔獣の声など聞こえん。お前が異常なのだ》
また白蛇が俺に向かってシャーと声を出す。

「そんなん知らないよ。聞こえてきたんだもん。答えちゃうに決まってるじゃん」
「だから、シンジくん独り言みたいになってるよ」

とりあえず包帯あとは包帯を巻くだけ。
治癒草の汁がにじまないようにしっかりと巻く。

「これでなんとかなるかな?」
怪我の治療なんて保健委員でしかしたことなかったけど、
範囲の広さが変わるだけで人間も動物も一緒のようなもんだな。

《助かったぞ、お主》
《ありがとうー!だいぶ痛みが和らいできてるよ》
「よかった、よかった。この草が治癒の効果があるから今度からはこれを使うといいよ」
《この草にそんな力があるとは》
「たしかに見落としちゃうよねー」
《匂いで覚えたから今度から使うね》

(変な光景…)

シンジは普通に会話している感覚だが
側から見たら、蛇がシャーとなき、
リスがキュウキュウ声を出し、人間と会話しているのだ。
シルミンからするとなんとも変な光景である。

「んじゃ、俺らは戻りましょうか!」
 
《お主は従属契約を要求しないのか?》
《召喚士なのに変なの》
「…………え、普通要求するもんなの?」

俺はシルミンさんの方を見る。
「あんたは召喚士でしょ?普通はすると思うけど…」
呆れたようにシルミンさんが答える。

そ、そうだったのか…

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