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第四章(終章) 王都決戦
sideコロナ02 災厄の黒き竜
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トントンと腰を叩きながら、体を起こす。
「……ん、……んんー」
伸びをしながら、あたしは空を見上げた。
今日はどんよりとした曇り空だ。
天気が悪いと気持ちがあがらない。
ここ最近は、晴れの日が続いていたから尚更である。
「はぁ……。もうひと踏ん張りね……」
来る日も来る日も農作業。
仕方がないこととはいえ、代わり映えのしない毎日に、さすがに飽き飽きしてしまう。
とはいえ最近は、前と比べると随分と楽しい。
あの子と話していると、盛り上がっちゃって時間を忘れてしまうこともある。
今頃あの子は、なにをしてるのかなぁ……。
約束したこけし人形は、もう出来た頃だろうか。
「……なんだぁ、あれ?」
物思いに耽っていたあたしは、村人のその言葉で意識を引き戻された。
彼は不思議そうな表情で遠くを眺めている。
魔国の方角だ。
あたしもつられて、そちらに視線をやった。
「……え? あれ、……なに?」
遠くに黒いなにかが見える。
ゆっくりと空を飛びながら、こちらへ向かってくる。
「お、おい……。村にくるぞ……」
誰かが呟いた。
それは徐々に近づいてきている。
しばらくすると、全容がはっきりと見えてきた。
「な、なんだぁ!? ありゃあ、竜じゃねえか!?」
「しかも、ただの竜じゃない!?」
「あんなのは、初めてみるぞ!?」
村人たちが仕事の手を止めた。
集まってきて、ガヤガヤと騒ぎ出す。
「あ、あの竜は……? そんな……。あの子みたいじゃない!?」
見えてきた竜のシルエットは、まるで白竜のアサヒみたいだった。
でも色がまるで違う。
アサヒは陽光にキラキラ輝く白竜なのに対して、こっちのは全身に漆黒の闇を溶かし込んだみたいな黒竜だ。
「お、おい……こいつぁ……」
「な、なんか……やべえんじゃねえか?」
黒竜は周囲に、破壊を撒き散らしていた。
荒れ狂う暴風。
踊り狂う業火。
竜が通ったあとの大地は、激しく捲れ上がって隆起し、所々が凍り付いていた。
目を凝らせば、黒竜の周りに6色の球が浮かんでいるのが分かる。
「に、逃げろ! 逃げろぉおおおお!!」
村人たちが泡を食って逃げ始めた。
「あ、あたしも、逃げなきゃ……!」
この竜はやばい。
あの子と違って、危険極まりないものだ。
そう判断したあたしは、みんなに混じってその場から逃げ出した。
少し離れた小高い丘から、みんなと一緒に村を見下ろす。
ちょうど今、黒竜の進路が村と重なった。
「そ、そんな……俺の家が……」
「俺の……畑だって……」
竜はただゆっくりと飛んでいるだけである。
なんら暴れてはいない。
だというのに纏う暴風で家は吹き飛ばされ、ひび割れた大地が畑を飲み込んでいく。
ただそこにあるだけで破滅を振りまく。
その黒竜はまさしく、破壊の権化であった。
――憎い……!――
いま、なにか聞こえてきた。
「お、おい? いま話したのは誰だ?」
「俺じゃねえぞ……!」
みんなにも聞こえたみたいだ。
いまのは、黒竜の声……?
――憎い……。余は、王国を許さぬ……!――
声はどんどん大きくなる。
離れていてもはっきりと聞こえてくる。
まるで脳に直接流し込まれるような声。
耳を塞いでも、頭のなかで声が響き続ける。
――王国へ、滅びを……――
黒竜の進行方向には、王国の城塞都市がある。
さらに進めば王都だ。
「この竜……。王都に向かっているの?」
きっとそうだ。
こいつは王都に、……王国に、滅亡をもたらそうとしている。
大丈夫だろうか?
こんな怪物を相手にしたら、さしもの騎士様たちもタダでは済まないんじゃ……。
「……あっ!?」
そのときふと気付いた。
王竜騎士団団長のシメイ・ウェストマール様。
あの子の想いびとのあのお方は、いま王都に戻っているはず……!
「た、大変よッ!」
いくらシメイ様がお強くても、こんな竜に敵うはずがない。
「ア、アサヒに……知らせなきゃ……!」
事は一刻を争う。
早く知らせなければならない。
あの子が村へと顔を出すのを悠長に待っていては、手遅れになり兼ねないのだ。
あたしは焦って走り出した。
けれどもすぐに、はたと気付いて足を止めた。
あの子が暮らしているのは魔の森。
ここからあのうろの家まで、おおよそ半日を要するだろう。
しかし無事にたどり着けるとは限らない。
途中で魔獣に遭遇すれば、あたしみたいな小娘ひとり、どうなることか……。
「や、やめておこうかしら……」
弱気が頭をよぎる。
(でも……、それでも……)
知らないうちに、全部が手遅れになってしまっていたら……。
そのときアサヒは、どんな悲しい顔をするんだろう。
想像したら胸が締め付けられた。
「い、行ってやろうじゃない……。上等よ!」
パンと頬を叩く。
気合いを入れ直したあたしは、覚悟を決めてあの子のもとへと、駆け出していった。
「……ん、……んんー」
伸びをしながら、あたしは空を見上げた。
今日はどんよりとした曇り空だ。
天気が悪いと気持ちがあがらない。
ここ最近は、晴れの日が続いていたから尚更である。
「はぁ……。もうひと踏ん張りね……」
来る日も来る日も農作業。
仕方がないこととはいえ、代わり映えのしない毎日に、さすがに飽き飽きしてしまう。
とはいえ最近は、前と比べると随分と楽しい。
あの子と話していると、盛り上がっちゃって時間を忘れてしまうこともある。
今頃あの子は、なにをしてるのかなぁ……。
約束したこけし人形は、もう出来た頃だろうか。
「……なんだぁ、あれ?」
物思いに耽っていたあたしは、村人のその言葉で意識を引き戻された。
彼は不思議そうな表情で遠くを眺めている。
魔国の方角だ。
あたしもつられて、そちらに視線をやった。
「……え? あれ、……なに?」
遠くに黒いなにかが見える。
ゆっくりと空を飛びながら、こちらへ向かってくる。
「お、おい……。村にくるぞ……」
誰かが呟いた。
それは徐々に近づいてきている。
しばらくすると、全容がはっきりと見えてきた。
「な、なんだぁ!? ありゃあ、竜じゃねえか!?」
「しかも、ただの竜じゃない!?」
「あんなのは、初めてみるぞ!?」
村人たちが仕事の手を止めた。
集まってきて、ガヤガヤと騒ぎ出す。
「あ、あの竜は……? そんな……。あの子みたいじゃない!?」
見えてきた竜のシルエットは、まるで白竜のアサヒみたいだった。
でも色がまるで違う。
アサヒは陽光にキラキラ輝く白竜なのに対して、こっちのは全身に漆黒の闇を溶かし込んだみたいな黒竜だ。
「お、おい……こいつぁ……」
「な、なんか……やべえんじゃねえか?」
黒竜は周囲に、破壊を撒き散らしていた。
荒れ狂う暴風。
踊り狂う業火。
竜が通ったあとの大地は、激しく捲れ上がって隆起し、所々が凍り付いていた。
目を凝らせば、黒竜の周りに6色の球が浮かんでいるのが分かる。
「に、逃げろ! 逃げろぉおおおお!!」
村人たちが泡を食って逃げ始めた。
「あ、あたしも、逃げなきゃ……!」
この竜はやばい。
あの子と違って、危険極まりないものだ。
そう判断したあたしは、みんなに混じってその場から逃げ出した。
少し離れた小高い丘から、みんなと一緒に村を見下ろす。
ちょうど今、黒竜の進路が村と重なった。
「そ、そんな……俺の家が……」
「俺の……畑だって……」
竜はただゆっくりと飛んでいるだけである。
なんら暴れてはいない。
だというのに纏う暴風で家は吹き飛ばされ、ひび割れた大地が畑を飲み込んでいく。
ただそこにあるだけで破滅を振りまく。
その黒竜はまさしく、破壊の権化であった。
――憎い……!――
いま、なにか聞こえてきた。
「お、おい? いま話したのは誰だ?」
「俺じゃねえぞ……!」
みんなにも聞こえたみたいだ。
いまのは、黒竜の声……?
――憎い……。余は、王国を許さぬ……!――
声はどんどん大きくなる。
離れていてもはっきりと聞こえてくる。
まるで脳に直接流し込まれるような声。
耳を塞いでも、頭のなかで声が響き続ける。
――王国へ、滅びを……――
黒竜の進行方向には、王国の城塞都市がある。
さらに進めば王都だ。
「この竜……。王都に向かっているの?」
きっとそうだ。
こいつは王都に、……王国に、滅亡をもたらそうとしている。
大丈夫だろうか?
こんな怪物を相手にしたら、さしもの騎士様たちもタダでは済まないんじゃ……。
「……あっ!?」
そのときふと気付いた。
王竜騎士団団長のシメイ・ウェストマール様。
あの子の想いびとのあのお方は、いま王都に戻っているはず……!
「た、大変よッ!」
いくらシメイ様がお強くても、こんな竜に敵うはずがない。
「ア、アサヒに……知らせなきゃ……!」
事は一刻を争う。
早く知らせなければならない。
あの子が村へと顔を出すのを悠長に待っていては、手遅れになり兼ねないのだ。
あたしは焦って走り出した。
けれどもすぐに、はたと気付いて足を止めた。
あの子が暮らしているのは魔の森。
ここからあのうろの家まで、おおよそ半日を要するだろう。
しかし無事にたどり着けるとは限らない。
途中で魔獣に遭遇すれば、あたしみたいな小娘ひとり、どうなることか……。
「や、やめておこうかしら……」
弱気が頭をよぎる。
(でも……、それでも……)
知らないうちに、全部が手遅れになってしまっていたら……。
そのときアサヒは、どんな悲しい顔をするんだろう。
想像したら胸が締め付けられた。
「い、行ってやろうじゃない……。上等よ!」
パンと頬を叩く。
気合いを入れ直したあたしは、覚悟を決めてあの子のもとへと、駆け出していった。
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