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第ニ章 竜と竜騎士
13 たまにはイタズラも楽しい
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「ふぅ……。これで完了っと」
脇腹に残る生々しい傷跡に、薬を塗って包帯を巻く。
どちらもコロナがくれたものだ。
なんだかまた必ず会いにこいと言っていたし、今度お礼がてら、川魚でも持って行ってあげよう。
「これで、治るといいんだけど……」
荒かった呼吸こそ落ち着いてきたものの、依然として熱は高いままだ。
ワイバーンも開け放った窓から、心配そうに彼をみている。
「……しっかし、いい男だなぁ」
ベッドの縁にぽすんと腰を掛けて、繁々と男のひとを眺める。
力強く整った眉。
真っ直ぐに通った鼻筋に、キュッと結ばれた唇。
きっと瞳だって、開けば意思の強さを感じさせてくれるに違いない。
もろにわたしの、好みのタイプだ。
経理のお局様が夢中だった、田中……た、たっくんだっけ?
そんななんとかいう優男とは、雲泥の差である。
額に掛かった彼の短い青髪を、すっと指で払う。
「……どんな声をしてるんだろう」
想像を膨らませる。
きっとこの唇が紡ぎ出す音は、魅惑的なバリトンボイスだぞ。
響きが、胸にまで届いてきそうなやつ。
そんな勝手な想像をして楽しむ。
「はぁ。お話してみたいなぁ……」
でもそれは無理だ。
わたしの容姿は黒髪黒瞳。
このひとだって見たら驚いて、わたしのことを魔女だって罵るかもしれない。
「でも、熱が収まって、目を覚ましたあとはどうしよう……」
考えてみても、良い対応の仕方は思い浮かばない。
わたしはそのことを、一旦棚上げすることにした。
ブレスを吐いて温めたお湯で、今日も彼の体を拭う。
手拭いをギュッと絞って、丹念に。
ようやく熱も引いてきた気がする。
眉間に皺を寄せていた眉も、心なしか穏やかだ。
「ふんふんふーん。……さ、脇を拭きましょうねー」
筋肉質な腕をぐっと持ち上げて、脇から脇腹を拭いていく。
反対サイドに回って、こっち側も丁寧に。
「おっとー! 指が滑っちゃったー!」
ツンっと胸をついてみる。
彼が反応してピクッと動いた。
なんか難しげに眉を歪めている。
ちょっと可愛い。
「おおっと、また指が滑っちゃったー!」
楽しくてつい調子に乗ってしまう。
わたしがツンツンする度に、彼はこそばゆそうに顔をしかめた。
静かにドラゴンイヤーを澄ませて、川魚を捕る。
もう20匹近くも捕まえただろうか。
鮎にニジマスにヤマメにイワナ。
全部後ろに(?)がつくけれども、どれも美味しい魚である。
「さ、こんなものかしらねー」
たくさん捕っているのには、理由がある。
ワイバーンのあの子が、とっても大食らいなのだ。
魚籠(さかなかご)にとれた獲物をいれた。
お家に帰ると、ワイバーンが「ギャアギャア」と鳴いてわたしを迎える。
賢いこの子は、わたしがたったいま、ご飯を持って帰ってきたことを理解しているのだ。
「はいはい、ただいまー。そんなに騒がなくても、ご飯はちゃんとあげますからねー」
籠からイワナを一匹、取り出して与える。
それを丸のみしたワイバーンは、次から次へとご飯を催促してくる。
「ふふ。そんな慌てないの」
苦笑しながら魚を与えていると、うろの家の扉が、ガタッと鳴った。
「はぅわぁ!?」
な、なんだ!?
とっさにワイバーンの背中に隠れる。
それと同時に扉が完全に開かれた。
「……ハービストン。良かった。お前も無事か……」
彼だ!?
お家から彼が出てきた!
想像したものよりも少し低い声。
でもよく響いて通りが良い。
ぶっちゃけてしまうと、なんか男性的なエロさを感じる声だ。
眼差しだって、思った通り凛としている。
でも捉えようによっては、少し気難しく見えるかも……。
「ここはどこなんだ……」
彼は辺りを見回している。
まだ目が覚めたばかりなんだろう。
ぼうっとした感じが伝わってくる。
「森のなか……。だが、ひとが住んでいるようだな。……俺は、誰かに助けられたのか?」
考え込む仕草を見せていた彼が、こちらを向いた。
まぁ『こちら』と言ってもわたしではなく、このワイバーンを見ているんだろうけど。
「……なぁハービストン。一体どうなっているんだろうな?」
「ギュア!」
そうか。
この子の名前はハービストンって言うのか。
悠長に構えていると、彼がこちらに向けて歩きだした。
力が入らないのか。
少し頼りなさげな足取りである。
(や、やばい! こここ、こっちこないで……!)
彼が近づいてくる。
心臓がドキドキしてきた。
でもこの鼓動は、わたしがイケメン慣れしていないとか、そんなのが理由じゃない。
(見られちゃう! 黒髪と黒瞳を、見られちゃう!)
不安が脳裏を掠めた。
彼に魔女と罵られる、一瞬先のそんな未来。
(いや、いや、いや! そんなのいやよ!)
ワイバーンに隠れながら、激しくかぶりを振る。
それと同時にわたしの体が、白く、大きく膨れ上がっていく。
気付けばわたしは竜化してしまっていた。
眼下に見下ろした彼は、驚きの表情でわたしを見上げていた。
脇腹に残る生々しい傷跡に、薬を塗って包帯を巻く。
どちらもコロナがくれたものだ。
なんだかまた必ず会いにこいと言っていたし、今度お礼がてら、川魚でも持って行ってあげよう。
「これで、治るといいんだけど……」
荒かった呼吸こそ落ち着いてきたものの、依然として熱は高いままだ。
ワイバーンも開け放った窓から、心配そうに彼をみている。
「……しっかし、いい男だなぁ」
ベッドの縁にぽすんと腰を掛けて、繁々と男のひとを眺める。
力強く整った眉。
真っ直ぐに通った鼻筋に、キュッと結ばれた唇。
きっと瞳だって、開けば意思の強さを感じさせてくれるに違いない。
もろにわたしの、好みのタイプだ。
経理のお局様が夢中だった、田中……た、たっくんだっけ?
そんななんとかいう優男とは、雲泥の差である。
額に掛かった彼の短い青髪を、すっと指で払う。
「……どんな声をしてるんだろう」
想像を膨らませる。
きっとこの唇が紡ぎ出す音は、魅惑的なバリトンボイスだぞ。
響きが、胸にまで届いてきそうなやつ。
そんな勝手な想像をして楽しむ。
「はぁ。お話してみたいなぁ……」
でもそれは無理だ。
わたしの容姿は黒髪黒瞳。
このひとだって見たら驚いて、わたしのことを魔女だって罵るかもしれない。
「でも、熱が収まって、目を覚ましたあとはどうしよう……」
考えてみても、良い対応の仕方は思い浮かばない。
わたしはそのことを、一旦棚上げすることにした。
ブレスを吐いて温めたお湯で、今日も彼の体を拭う。
手拭いをギュッと絞って、丹念に。
ようやく熱も引いてきた気がする。
眉間に皺を寄せていた眉も、心なしか穏やかだ。
「ふんふんふーん。……さ、脇を拭きましょうねー」
筋肉質な腕をぐっと持ち上げて、脇から脇腹を拭いていく。
反対サイドに回って、こっち側も丁寧に。
「おっとー! 指が滑っちゃったー!」
ツンっと胸をついてみる。
彼が反応してピクッと動いた。
なんか難しげに眉を歪めている。
ちょっと可愛い。
「おおっと、また指が滑っちゃったー!」
楽しくてつい調子に乗ってしまう。
わたしがツンツンする度に、彼はこそばゆそうに顔をしかめた。
静かにドラゴンイヤーを澄ませて、川魚を捕る。
もう20匹近くも捕まえただろうか。
鮎にニジマスにヤマメにイワナ。
全部後ろに(?)がつくけれども、どれも美味しい魚である。
「さ、こんなものかしらねー」
たくさん捕っているのには、理由がある。
ワイバーンのあの子が、とっても大食らいなのだ。
魚籠(さかなかご)にとれた獲物をいれた。
お家に帰ると、ワイバーンが「ギャアギャア」と鳴いてわたしを迎える。
賢いこの子は、わたしがたったいま、ご飯を持って帰ってきたことを理解しているのだ。
「はいはい、ただいまー。そんなに騒がなくても、ご飯はちゃんとあげますからねー」
籠からイワナを一匹、取り出して与える。
それを丸のみしたワイバーンは、次から次へとご飯を催促してくる。
「ふふ。そんな慌てないの」
苦笑しながら魚を与えていると、うろの家の扉が、ガタッと鳴った。
「はぅわぁ!?」
な、なんだ!?
とっさにワイバーンの背中に隠れる。
それと同時に扉が完全に開かれた。
「……ハービストン。良かった。お前も無事か……」
彼だ!?
お家から彼が出てきた!
想像したものよりも少し低い声。
でもよく響いて通りが良い。
ぶっちゃけてしまうと、なんか男性的なエロさを感じる声だ。
眼差しだって、思った通り凛としている。
でも捉えようによっては、少し気難しく見えるかも……。
「ここはどこなんだ……」
彼は辺りを見回している。
まだ目が覚めたばかりなんだろう。
ぼうっとした感じが伝わってくる。
「森のなか……。だが、ひとが住んでいるようだな。……俺は、誰かに助けられたのか?」
考え込む仕草を見せていた彼が、こちらを向いた。
まぁ『こちら』と言ってもわたしではなく、このワイバーンを見ているんだろうけど。
「……なぁハービストン。一体どうなっているんだろうな?」
「ギュア!」
そうか。
この子の名前はハービストンって言うのか。
悠長に構えていると、彼がこちらに向けて歩きだした。
力が入らないのか。
少し頼りなさげな足取りである。
(や、やばい! こここ、こっちこないで……!)
彼が近づいてくる。
心臓がドキドキしてきた。
でもこの鼓動は、わたしがイケメン慣れしていないとか、そんなのが理由じゃない。
(見られちゃう! 黒髪と黒瞳を、見られちゃう!)
不安が脳裏を掠めた。
彼に魔女と罵られる、一瞬先のそんな未来。
(いや、いや、いや! そんなのいやよ!)
ワイバーンに隠れながら、激しくかぶりを振る。
それと同時にわたしの体が、白く、大きく膨れ上がっていく。
気付けばわたしは竜化してしまっていた。
眼下に見下ろした彼は、驚きの表情でわたしを見上げていた。
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