異世界で竜になりまして

猫正宗

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第ニ章 竜と竜騎士

11 鎧の下は、筋肉質でした。

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 意識を失った男のひとを、うろのお家まで運んできた。

 ベッドに寝かせて様子をみる。
 その男性は「はぁ、はぁ」と荒い息をしたままだ。

「ど、どうしよう……」

 額に手を当てると、凄い熱だった。
 これ、大丈夫なんだろうか。
 慣れない状況におろおろしてしまう。

「ど、どうすれば……。あっ……」

 そうだ。
 たしか、このひとの荷物があったわね。
 あのバッグのなかに、薬はないかな?

 外に出る。
 そこには彼と一緒に連れてきた、傷付いたワイバーンがいた。
 背中に装着された鞍には、彼の荷物と思わしきバッグが取り付けられている。

「うーん。薬はないなぁ……」

 ガサゴソと漁ってみるけれども、バッグには簡単な携帯食料と、手拭いくらいしか入っていなかった。

「ギュァ……」

 竜がわたしを見て、弱々しく鳴いた。
 彼のこともそうだけど、この子のことも介抱してあげないと。

「ちょっと待っててね」

 家の貯蔵庫から数匹、取り置きしていた魚を持ってくる。

「ほら。お食べ」
「ギュァア!」

 ワイバーンは凄い勢いで与えた魚を食べ始めた。
 大きな口には不釣り合いなほど小さな川魚を、パクッと咥えては丸のみにしていく。

「ギュァ、ギュァア!」

 これは『もっと頂戴』と、催促されているのかな?
 多分そうよね。

「ごめんね。もうないのよ。でもあとで、たくさん獲ってきてあげるから!」

 こっちの子も酷い怪我だけど、これだけ食欲があるならきっと大丈夫だろう。
 竜の生命力に感心してしまう。

「ともかくいまは、あの男のひとね……」

 看病のためベッドに戻った。



 青髮の男性は豪奢な鎧を着込んでいた。
 でも脇の隙間から、血の跡がみえる。

 これは怪我をしているに違いない。
 発熱はそこからくるものだろうか。

「傷口を清潔にしなきゃ」

 化膿したり、破傷風にでなったら目も当てられない。
 ちゃっちゃと体を拭いてしまおう。

「ちょーっと、失礼しますよぉー」

 大きな体をゴロンとひっくり返した。
 なんとか鎧を脱がせようと試みる。
 でもこれって、どうやって脱がせればいいんだろう。

 カチャッと音が鳴って、蝶番ちょうつがいが外れる。
 あれこれ試行錯誤しながら、ようやく鎧を脱がせることが出来た。

 血が染み込んだインナーシャツも脱がせる。
 固まった血が肌に貼りついて、ベリベリとなった。
 痛そうで、思わずわたしのほうが顔を顰めてしまう。

「…………ぅ、……ぅう」

 うぇ!?
 いまのは!?

「あ、ごご、ごめんなさい!」

 もしかして気が付いた!?
 なんとなく反射的に謝ってしまう。

「……はぁ、……はぁ」

 なんだ。
 呻き声をあげただけか。
 一瞬、目を覚ましたのかと思って焦ってしまった。

「……って、これは、これは……」

 鎧の下から出てきたのは、筋肉質な体だった。
 日に焼けた体に、玉のような汗が浮いている。

 彼のバッグから拝借した手拭いで、その汗を拭き取っていく。
 凝固した血をお湯でぬぐった。

「う、うわぁ……。な、なんだか……。なんというか……」

 柄にもなくドキドキしてしまう。
 骨太で逞しい体だ。
 ジッと見つめていると、頬が赤くなってしまう。

「ちょ、ちょっとだけ……」

 試しに胸のうえに、手のひらを置いてみた。

「ふわぁあ……ッ!?」

 熱い。
 心臓がどくどくしている。

「……こ、これは。……じゅるり」

 荒い呼吸を繰り返す彼を、もう一度眺める。
 わたしは知らぬ間に出てきた涎を、袖で拭いた。



 ひと晩が明けた。
 今日も天気のよい朝である。

「どれどれ、お熱のほうは?」

 額に手を当ててみる。
 やはりまだ発熱したままだ。

 ちなみに鎧の下に着ていた服は、ちゃんと洗って乾かしたあとに、着せ直してある。
 名残惜しい気もしたけど、いつまでも上半身裸で寝かせておく訳にもいくまい。

「うーん、これはまずいわねぇ……」

 彼はいまも荒い息をしている。
 このままだとこの男性は、体力を消耗していくばかりだ。
 なんとか熱を引かせて、ご飯を食べさせないと。

「薬、薬……。やっぱりお薬よねぇ……」

 どうにかして解熱剤なりを手に入れたい。
 ここは覚悟の決めどきかも。

「……ぃよし。村に潜入しよう」

 逃げ出してきたあの村だ。
 きっと村には薬のひとつくらいあるだろう。

 そういえばわたしは、あそこで何日も無理やり農作業に従事させられたけれど、報酬も貰っていない。
 もちろん退職金もだ。
 代わりにちょっとお薬を頂戴しても、バチは当たらないと思う。

 そうと決まれば実行あるのみ。
 表に飛び出して、翼を広げた。

「とうっ、ドラゴンウィング! いくわよ! 目指すは村長のお家!」

 わたしは大空を加速して、村へと向かった。
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