異世界で竜になりまして

猫正宗

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第一章 異世界で竜になりまして

sideシメイ03 魔女と竜騎士

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 魔女出現の報を受けた俺は、矢も盾もたまらず飛び出した。

 竜騎士たちを引き連れて、国境の村を目指す。
 徒歩では半日かかる道のりも、ワイバーンなら直ぐだ。

「団長! あそこに魔女がいます!」
「わかっている!」

 村の上空に、魔女がいた。
 彼奴あいつはまるで、そこに地面があるかのように、空に立っている。

「……後続がくるまで待ちますか?」
「すぐに仕掛ける。それが足止めにもなろう!」

 ここまで先行してきたのは、王竜騎士団のなかでも、特に翼の速い騎竜だ。
 少しすれば遅れている竜騎士たちも到着するだろうし、聖銀騎士団からも部隊が出ている。

「では散開しろ! 前後左右上下を囲い込め!」
「はっ!」

 距離を置いてぐるりと魔女を取り囲む。
 これでもう逃げ場はない。

「魔女イネディット! 引導を渡してくれる! 覚悟せよ!」

 魔女が首を回して、俺たちを見回した。
 だが、彼女にはまったく焦った様子がない。
 強者ゆえの奢りか。
 はたまた真の実力に裏打ちされた余裕か。

 魔女の話は父からよく聞かされている。
 しかし実際に相対するのは、俺もこれが初めてだ。
 繁々と目の前に佇む女を見定める。

 黒髪黒瞳で黒のドレスを纏った彼女は、見たところ20代後半ほどに見える。
 魔女の周囲には6つの光玉が浮かんでいた。
 ぐるぐると音もなく、彼女の周りに浮かんでは、旋回している。

 俺はこれについても、父より聞かされていた。
 これこそは、魔女の恐るべき力の発露。
 各々に地・火・風・水・光・闇の異なる力を宿した、6つの魔力球なのである。
 魔女はこの魔力球を自在に操り、天変地異をすら引き起こす。

 物憂げな顔をして俺たちを睥睨していた魔女が、億劫そうに口を開いた。

「……竜騎士か。だが、たかが6騎の人竜で余を相手取ろうとは、いささか蛮勇が過ぎるのではないか?」
「ぬかせ!」

 幅広の大剣を、鞘から抜いて構える。
 配下の竜騎士たちに目配せをし、一斉に魔女に向けて攻撃を仕掛けた。



 荒れ狂う暴風が、あたり一帯に吹き荒れる。
 風を司る緑の魔力球が、妖しい光を放つ。

 このような嵐のなかでは、さしものワイバーンも思うようには飛べやしない。
 だと言うのに彼奴は、暴風などものともせずに、悠然と宙に浮いていた。

「こ、このお……!」

 業を煮やした竜騎士のひとりが、強硬に突撃を仕掛けた。
 しかし今度は赤の魔力球が光り輝き、爆炎がワイバーンを襲う。

「う、うわぁぁあ!?」

 騎士は辛くも炎の直撃を回避するも、騎竜の翼を焼かれ、錐揉み状に落下していく。

「おのれ! よくもやってくれたな!」

 俺は巧みな操竜で騎竜ハービストンを操り、魔女に攻撃を仕掛けた。
 配下の竜騎士たちは、魔女に近づくことすら難儀している。
 そんななか俺だけが、彼女に剣が届く位置まで斬り込み、激しく戦っていた。

「……貴様。ほかの竜騎士とは、どうやら少し違うようだな?」
「王竜騎士団団長、シメイ・ウェストマールだ! この名を胸に刻み込んで、墓の穴まで持っていけ!」

 魔女が薄く笑った。

「王竜騎士団団長。そしてその騎竜。……ふむ。貴様、あの男の後釜か?」
「そうだ! 父の無念、ここで晴らさせてもらう!」

 我が父たる先代騎士団長は、常勝無敗の竜騎士だった。
 ただひとつの例外。
 目の前のこの魔女との戦いを除いては。

「……そうか。……息子か」
「父はお前から負わされた手傷で、一線から退かざるを得なくなった! 俺はお前を許さない!」

 激しく剣を振るい、騎竜をけしかける。
 しかし魔女は燃え盛る炎で、氷のつぶてで、俺の攻撃を弾き、迎撃してくる。

 徐々に戦いは、一騎討ちの様相を呈してきていた。



「……どうやら、ここまでのようだ」

 戦いの手が止まった。
 遠くにワイバーンの羽ばたく姿が見えてくる。
 もう間もなくすれば、遅れていた騎士たちが到着するだろう。

「黒髪黒瞳の娘。果たして迷い人か先祖返りか……。気にはなるが仕方あるまい……」

 魔女が撤退を始める。

「待て! まだ勝負はついていないぞ!」

 去っていく彼女を呼び止めた。

「……ならば単騎でも追ってこい。その覚悟があるのならな。だがもし追い縋ってくるのであれば、そのときは余も容赦はせぬぞ?」

 再び魔女が去り始めた。
 俺はその後を追う。

「駄目です団長! 悔しいですが魔女は強い。ここは皆を待って、態勢を立て直してから追うべきです!」
「そんな悠長なことが言っていられるか! いまこそが、先代団長の恥辱をそそぐべきときなのだ!」

 部下たちはもう疲労困憊している。
 ここは俺ひとりで追いかけるしかない。

 制止する配下の声を振り切り、俺は魔女の後ろ姿を追って騎竜を羽ばたかせた。
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