7 / 39
第一章 異世界で竜になりまして
06 高慢な村娘あらわる
しおりを挟む
村人たちに捕らえられたわたしは、なんとか誤解を解くことに成功していた。
そしていまは農作業に勤しんでいる。
着替えもゲットしてようやく痴女スタイルを卒業。
見事わたしは、村人へと進化していた。
……ごめんなさい。
自分に嘘つきました。
村人というよりは奴隷に近いです……。
彼らに捕まったわたしは、王国(?)に突き出されそうになった。
なんでも村から半日ほど歩いたところに、その王国とやらに属する城塞都市があるのだそうだ。
そこに突き出されたら最後、魔女は殺されてしまうだろう。
彼らはそう言ってわたしを脅かしてきた。
『そ、そんなのあんまりだ……!』
間違いで殺されては堪らない。
わたしは必死で彼らに訴えた。
『ちょ、ちょっと待ってください! わたしは魔女なんかじゃないですってば! 話を聞いてください!』
彼らも最初は取り合ってくれなかった。
けれども、何度も何度も繰り返し訴えているうちに、わたしの話に耳を傾けてくれるようになった。
『魔女じゃない……わたしは魔女なんかじゃないんですよぉ……。うぅぅ……信じてくださいよぉ……。あぁんまぁりだぁぁぁ……』
『……なぁ村長。こんなのが魔国の魔女なのか?』
『……う、うむ……』
実際のところは、まぁこんな感じである。
一応ながら魔女疑惑が晴れたとはいえ、わたしは彼らにとって相当怪しく見えたようだ。
監視役がおかれることになった。
いまはその子の指導の下で、わたしは過酷な農作業に従事させられている。
「ほら、あんた! 休んでないできりきり働く!」
言葉の鞭でわたしを急かすこの子は、コロナ。
村長の娘である。
歳は見た感じわたしと同じか、少し上くらい。
でも村人たちは西欧風の顔立ちだし、地球で西欧人が少し老けて見えるのと同じなら、コロナはわたしより年下なのかもしれない。
「手を止めないの! こっちの刈り入れが済んでないわよ!」
「ひぇぇ……。ちょっと休ませてよぉ」
「さっき休んだばかりでしょ! さぁさぁ、働く働く!」
とは言っても、さっきから働いているのはわたしだけだ。
この娘はなんにもしていない。
きっと体良く自分の仕事を、わたしに押し付けているんだろう。
(おのれ……。わたしは奴隷じゃないんだぞ!)
思っても口に出す勇気はない。
わたしは心のなかで毒づいた。
日が傾いてきた。
ようやく今日の農作業は終了だ。
「はぁ……。疲れたー」
ぺたりと座り込む。
これは肉体的な疲れというよりも、どちらかといえば精神的な疲れだ。
こき使われたはずなのに、なぜか体はあまり疲れていない。
もしや竜になったことが、なにか関係しているのだろうか。
「情けないわねぇ、あんた」
コロナがため息を吐いた。
というか、なんだその態度は。
自分は仕事を全部わたしに押し付けて、楽をしていたくせに!
「あんた、そんな見た目じゃ行くあてなんてないでしょ? 村に置いてもらえることに感謝して、がんばって働きなさいよ?」
そう、それだ。
その見た目の話が気になっていたのだ。
彼女に尋ねてみようか。
「見た目って、この髪のことですよね? そんなに珍しいんですか、黒髪?」
彼女がきょとんとする。
「……そんなことも知らないの? あんた魔国から逃げてきた、逃亡奴隷かなにかなんでしょう? ここは王国と魔国の、ちょうど国境あたりの村だし」
村人たちの間では、わたしはそういう存在と思われてたんだ。
というか魔国ってなんだろ?
よくわからないけど、口裏を合わせることにする。
「黒髪黒瞳(くろかみくろめ)なんて、魔女くらいしか聞いたことないわよ。有名じゃない。王国の宿敵、魔国オイネを統べる呪われし『黒の魔女』」
そんな怖そうなのがいるのか。
「……あんた、ほんとに違うんでしょうね」
コロナが疑ぐりの目を向けてきた。
「ち、違うわよ! わたしはただの……」
「ただの……なに?」
「ただの……OLです……」
「はぁ? わけわかんないこと言わないでよね」
彼女は怪訝(けげん)そうに眉をひそめた。
立ち上がってお尻をはたく。
「まぁ、こんなのが魔女なわけないわよね。……とにかくあんた。魔国に追い返すか、王国に突き出すかされたくなければ、これからもしっかり働くのよ!」
コロナが立ち去っていく。
彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送ったあとで、わたしは盛大にため息を吐き出した。
そしていまは農作業に勤しんでいる。
着替えもゲットしてようやく痴女スタイルを卒業。
見事わたしは、村人へと進化していた。
……ごめんなさい。
自分に嘘つきました。
村人というよりは奴隷に近いです……。
彼らに捕まったわたしは、王国(?)に突き出されそうになった。
なんでも村から半日ほど歩いたところに、その王国とやらに属する城塞都市があるのだそうだ。
そこに突き出されたら最後、魔女は殺されてしまうだろう。
彼らはそう言ってわたしを脅かしてきた。
『そ、そんなのあんまりだ……!』
間違いで殺されては堪らない。
わたしは必死で彼らに訴えた。
『ちょ、ちょっと待ってください! わたしは魔女なんかじゃないですってば! 話を聞いてください!』
彼らも最初は取り合ってくれなかった。
けれども、何度も何度も繰り返し訴えているうちに、わたしの話に耳を傾けてくれるようになった。
『魔女じゃない……わたしは魔女なんかじゃないんですよぉ……。うぅぅ……信じてくださいよぉ……。あぁんまぁりだぁぁぁ……』
『……なぁ村長。こんなのが魔国の魔女なのか?』
『……う、うむ……』
実際のところは、まぁこんな感じである。
一応ながら魔女疑惑が晴れたとはいえ、わたしは彼らにとって相当怪しく見えたようだ。
監視役がおかれることになった。
いまはその子の指導の下で、わたしは過酷な農作業に従事させられている。
「ほら、あんた! 休んでないできりきり働く!」
言葉の鞭でわたしを急かすこの子は、コロナ。
村長の娘である。
歳は見た感じわたしと同じか、少し上くらい。
でも村人たちは西欧風の顔立ちだし、地球で西欧人が少し老けて見えるのと同じなら、コロナはわたしより年下なのかもしれない。
「手を止めないの! こっちの刈り入れが済んでないわよ!」
「ひぇぇ……。ちょっと休ませてよぉ」
「さっき休んだばかりでしょ! さぁさぁ、働く働く!」
とは言っても、さっきから働いているのはわたしだけだ。
この娘はなんにもしていない。
きっと体良く自分の仕事を、わたしに押し付けているんだろう。
(おのれ……。わたしは奴隷じゃないんだぞ!)
思っても口に出す勇気はない。
わたしは心のなかで毒づいた。
日が傾いてきた。
ようやく今日の農作業は終了だ。
「はぁ……。疲れたー」
ぺたりと座り込む。
これは肉体的な疲れというよりも、どちらかといえば精神的な疲れだ。
こき使われたはずなのに、なぜか体はあまり疲れていない。
もしや竜になったことが、なにか関係しているのだろうか。
「情けないわねぇ、あんた」
コロナがため息を吐いた。
というか、なんだその態度は。
自分は仕事を全部わたしに押し付けて、楽をしていたくせに!
「あんた、そんな見た目じゃ行くあてなんてないでしょ? 村に置いてもらえることに感謝して、がんばって働きなさいよ?」
そう、それだ。
その見た目の話が気になっていたのだ。
彼女に尋ねてみようか。
「見た目って、この髪のことですよね? そんなに珍しいんですか、黒髪?」
彼女がきょとんとする。
「……そんなことも知らないの? あんた魔国から逃げてきた、逃亡奴隷かなにかなんでしょう? ここは王国と魔国の、ちょうど国境あたりの村だし」
村人たちの間では、わたしはそういう存在と思われてたんだ。
というか魔国ってなんだろ?
よくわからないけど、口裏を合わせることにする。
「黒髪黒瞳(くろかみくろめ)なんて、魔女くらいしか聞いたことないわよ。有名じゃない。王国の宿敵、魔国オイネを統べる呪われし『黒の魔女』」
そんな怖そうなのがいるのか。
「……あんた、ほんとに違うんでしょうね」
コロナが疑ぐりの目を向けてきた。
「ち、違うわよ! わたしはただの……」
「ただの……なに?」
「ただの……OLです……」
「はぁ? わけわかんないこと言わないでよね」
彼女は怪訝(けげん)そうに眉をひそめた。
立ち上がってお尻をはたく。
「まぁ、こんなのが魔女なわけないわよね。……とにかくあんた。魔国に追い返すか、王国に突き出すかされたくなければ、これからもしっかり働くのよ!」
コロナが立ち去っていく。
彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送ったあとで、わたしは盛大にため息を吐き出した。
0
お気に入りに追加
1,560
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
目は口ほどに物を言うといいますが 〜筒抜け騎士様は今日も元気に業務(ストーカー)に励みます〜
新羽梅衣
恋愛
直接目が合った人の心を読めるアメリアは、危ないところを人気の騎士団員・ルーカスに助けられる。
密かに想いを寄せ始めるアメリアだったが、彼は無表情の裏にとんでもない素顔を隠していてーー…。
憧れ? それとも恐怖…?
こんな感情は初めてです…!
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
ずっと妹と比べられてきた壁顔令嬢ですが、幸せになってもいいですか?
ひるね@ピッコマノベルズ連載中
恋愛
ルミシカは聖女の血を引くと言われるシェンブルク家の長女に生まれ、幼いころから将来は王太子に嫁ぐと言われながら育てられた。
しかし彼女よりはるかに優秀な妹ムールカは美しく、社交的な性格も相まって「彼女こそ王太子妃にふさわしい」という噂が後を絶たない。
約束された将来を重荷に感じ、家族からも冷遇され、追い詰められたルミシカは次第に自分を隠すように化粧が厚くなり、おしろいの塗りすぎでのっぺりした顔を周囲から「壁顔令嬢」と呼ばれて揶揄されるようになった。
未来の夫である王太子の態度も冷たく、このまま結婚したところでよい夫婦になるとは思えない。
運命に流されるままに生きて、お飾りの王妃として一生を送ろう、と決意していたルミシカをある日、城に滞在していた雑技団の道化師が呼び止めた。
「きったないメイクねえ! 化粧品がかわいそうだとは思わないの?」
ルールーと名乗った彼は、半ば強引にルミシカに化粧の指導をするようになり、そして提案する。
「二か月後の婚約披露宴で美しく生まれ変わったあなたを見せつけて、周囲を見返してやりましょう!」
彼の指導の下、ルミシカは周囲に「美しい」と思われるためのコツを学び、変化していく。
しかし周囲では、彼女を婚約者の座から外すために画策する者もいることに、ルミシカはまだ気づいていない。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる