異世界で竜になりまして

猫正宗

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第一章 異世界で竜になりまして

06 高慢な村娘あらわる

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 村人たちに捕らえられたわたしは、なんとか誤解を解くことに成功していた。

 そしていまは農作業にいそしんでいる。
 着替えもゲットしてようやく痴女スタイルを卒業。
 見事わたしは、村人へと進化していた。

 ……ごめんなさい。
 自分に嘘つきました。
 村人というよりは奴隷に近いです……。



 彼らに捕まったわたしは、王国(?)に突き出されそうになった。
 なんでも村から半日ほど歩いたところに、その王国とやらに属する城塞都市があるのだそうだ。

 そこに突き出されたら最後、魔女は殺されてしまうだろう。
 彼らはそう言ってわたしを脅かしてきた。

『そ、そんなのあんまりだ……!』

 間違いで殺されては堪らない。
 わたしは必死で彼らに訴えた。

『ちょ、ちょっと待ってください! わたしは魔女なんかじゃないですってば! 話を聞いてください!』

 彼らも最初は取り合ってくれなかった。
 けれども、何度も何度も繰り返し訴えているうちに、わたしの話に耳を傾けてくれるようになった。

『魔女じゃない……わたしは魔女なんかじゃないんですよぉ……。うぅぅ……信じてくださいよぉ……。あぁんまぁりだぁぁぁ……』
『……なぁ村長。こんなのが魔国の魔女なのか?』
『……う、うむ……』

 実際のところは、まぁこんな感じである。



 一応ながら魔女疑惑が晴れたとはいえ、わたしは彼らにとって相当怪しく見えたようだ。
 監視役がおかれることになった。

 いまはその子の指導の下で、わたしは過酷な農作業に従事させられている。

「ほら、あんた! 休んでないできりきり働く!」

 言葉の鞭でわたしを急かすこの子は、コロナ。
 村長の娘である。
 歳は見た感じわたしと同じか、少し上くらい。

 でも村人たちは西欧風の顔立ちだし、地球で西欧人が少し老けて見えるのと同じなら、コロナはわたしより年下なのかもしれない。

「手を止めないの! こっちの刈り入れが済んでないわよ!」
「ひぇぇ……。ちょっと休ませてよぉ」
「さっき休んだばかりでしょ! さぁさぁ、働く働く!」

 とは言っても、さっきから働いているのはわたしだけだ。
 この娘はなんにもしていない。
 きっと体良く自分の仕事を、わたしに押し付けているんだろう。

(おのれ……。わたしは奴隷じゃないんだぞ!)

 思っても口に出す勇気はない。
 わたしは心のなかで毒づいた。



 日が傾いてきた。
 ようやく今日の農作業は終了だ。

「はぁ……。疲れたー」

 ぺたりと座り込む。
 これは肉体的な疲れというよりも、どちらかといえば精神的な疲れだ。

 こき使われたはずなのに、なぜか体はあまり疲れていない。
 もしや竜になったことが、なにか関係しているのだろうか。

「情けないわねぇ、あんた」

 コロナがため息を吐いた。
 というか、なんだその態度は。
 自分は仕事を全部わたしに押し付けて、楽をしていたくせに!

「あんた、そんな見た目じゃ行くあてなんてないでしょ? 村に置いてもらえることに感謝して、がんばって働きなさいよ?」

 そう、それだ。
 その見た目の話が気になっていたのだ。
 彼女に尋ねてみようか。

「見た目って、この髪のことですよね? そんなに珍しいんですか、黒髪?」

 彼女がきょとんとする。

「……そんなことも知らないの? あんた魔国から逃げてきた、逃亡奴隷かなにかなんでしょう? ここは王国と魔国の、ちょうど国境くにざかいあたりの村だし」

 村人たちの間では、わたしはそういう存在と思われてたんだ。
 というか魔国ってなんだろ?
 よくわからないけど、口裏を合わせることにする。

「黒髪黒瞳(くろかみくろめ)なんて、魔女くらいしか聞いたことないわよ。有名じゃない。王国の宿敵、魔国オイネを統べる呪われし『黒の魔女』」

 そんな怖そうなのがいるのか。

「……あんた、ほんとに違うんでしょうね」

 コロナが疑ぐりの目を向けてきた。

「ち、違うわよ! わたしはただの……」
「ただの……なに?」
「ただの……OLです……」
「はぁ? わけわかんないこと言わないでよね」

 彼女は怪訝(けげん)そうに眉をひそめた。
 立ち上がってお尻をはたく。

「まぁ、こんなのが魔女なわけないわよね。……とにかくあんた。魔国に追い返すか、王国に突き出すかされたくなければ、これからもしっかり働くのよ!」

 コロナが立ち去っていく。

 彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送ったあとで、わたしは盛大にため息を吐き出した。
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