上 下
69 / 69

新たな千年王国

しおりを挟む
大神殿の建築が始まった。

大神殿は信仰の象徴であるとともに、聖ルシフェル教国がなった暁には、行政の中心となる場所。
立派な建物にしたい。

ルシフェルは建設現場の視察にやってきた。
辺りを見回せば、そこかしこで色んな人々が忙しなく行き交っている。
元辺境伯領の人間やバザック傭兵団なんかも混ざっているものの、これらの大部分はルシフェルが天から呼び寄せた天使たちだ。

ルシフェルの登場に気付いた天使たちが、作業の手を止めた。
直立して拝礼する。

現場を指揮していた一般天使メイドが言う。

「こ、これはルシフェル様! このような場所にお越しになられますなんて……! どのようなご用向きにございましょうか」
「いや、俺やる事なくてさぁ。何か手伝えることない?」
「そ、そんな畏れ多い。ここは大丈夫に御座いますので、ルシフェル様におかれましては、ごゆるりとお寛ぎになられながら神殿の完成をお待ち下さいませ」

また手伝わせてもらえなかった。
暇潰し失敗だ。
ルシフェルは少し残念に思う。

ルシフェルは当初、神の権能タブレット端末を用いて一晩で神殿を作り上げるつもりだった。
しかしそれは、呼び寄せた一般天使メイドたちに却下された。

彼女ら曰く、

「大神殿は私どもの方で建立いたします。私ども天使メイドはルシフェル様に尽くせますことが至上の悦びに御座いますれば、どうぞお任せ下さい」

とのこと。

事実、ルシフェルの為に奔走するメイドたちは、みな凄く幸せそうだった。
こうなると文句も付けにくい。

だが如何な天使と言えど、人力で大規模建築を行うとなれば、相応の時間が掛かる。
この間、ルシフェルは手持ち無沙汰だ。

座天使メイドたちはルシフェル教の教義や新国の法を制定するのに忙しい。
グウェンドリエルは自らの管理する第二天ラキアの様子を見るため、いったんアイラリンド超天空城に戻った。
ヒースクリフも組織再編で飛び回っている。

なのでルシフェルは誰にも相手をしてもらえず、退屈になってしまったのだった。

「うーん、仕方ない。その辺に温泉施設でも作ってのんびり過ごすとするか……」

そうだ。
ジズやアダムとイヴも湯治に誘おう。
それが良い。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

――いくらかの刻が過ぎた。
秋頃から始められた大神殿の建築は、まだ続いている。
季節はもうすっかり冬だ。

この間、何度もバーレティン国王から辺境伯宛に使者が遣わされてきた。
国王はまだヒースクリフを王国貴族と思っている。
建設中の大神殿について真意を問いたいのだろう。

だがそれらの使者はすべてヒースクリフが追い返した。
ヒースクリフと王国との仲は順調に悪化している。



湯治に飽きたルシフェルは、ジズを連れて第七天アラボトに戻ってきていた。
アイラリンドの様子を見にきたのだ。

アラボトは荒廃したままだ。
アイラリンドは眠り続けている。

眠り姫となった彼女は、ベッドに寝かせられ微かな寝息を立てている。
ジズがベッドに這い上がった。
小さな手のひらで、アイラリンドの柔らかな頬をぺちぺち叩く。

「リンドー、はやく起きるの。リンドが寝たままだと、ジズは寂しいの」

しかしアイラリンドは目覚めない。
ジズはルシフェルを振り返った。

「ルシフェル様ぁ。リンド、いつまで寝てるの?」
「……ごめんね、ジズ。ちょっと待ってて。アイラリンドは、きっと俺が起こしてみせるから」

ルシフェルは決意を新たにした。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

――またいくらかの刻が過ぎた。
季節は巡り、春となった。
そしてこの春、ようやく大神殿が完成した。

完成したばかりの神殿は『アイラリンド大神聖宮だいしんせいきゅう』と名付けられた。
この名付けはルシフェルの決意の表れだった。



アイラリンド大神聖宮は天使たちの手により建立されたものだけあって、大規模で、地上のどんな城や宮殿にも負けない威容を誇っていた。
荘厳で、訪れた者に畏敬の念を抱かせる。

その神聖宮の最奥に、教主の間が設けられていた。
そこはルシフェルが座す神聖な場所。
玉座に腰掛けたルシフェルは、配下の者らを睥睨する。

玉座に最も近い地位。
そこに横一列に並んで傅いているのは、七元徳を司る熾天使たちセラフィムだ。

第一天ヴィロンが守護天使、セアネレイア。
第二天ラキアが守護天使、グウェンドリエル。
第三天シャハクィムが守護天使、ギルセリフォン。
第四天ゼブルが守護天使、ララノア。
第五天マオンが守護天使、ヤズト・ヤズタ。
第六天マコンが守護天使、ヴェルレマリー。

超常の天使たちが膝をついている。
その後列でこうべを垂れているのは、曜日を司りし七座天使メイドたち。

さらに後ろには辺境伯に変わり枢機卿を拝命したヒースクリフと、その一人娘フレデリカ。
他にも多くの天使や人が、玉座におわすルシフェルに向かって平伏している。

皆は口を閉じ、ルシフェルの宣言を待っているのだ。

さすがにここに至ってはもう、ルシフェルも覚悟を決めていた。
初めは国を作るなんてぶっ飛んだ話に尻込みをしていたものの、真にルシフェル教を広めたいのであれば、国を建てて国教として推していくのは理に適っている。
ルシフェルが言う。

「一同よく働いてくれた。感謝する。俺は皆の働きに応え、この地上に天使と人の楽園、新たなる千年王国を築くことを約束しよう」

配下を代表してヴェルレマリーが応える。

「勿体なき御言葉に御座います。御身に比して矮小すぎる我々ながら、偉大なる貴方様が築かれます楽園の礎となるべく、身を粉にして尽力いたしましょう」

ルシフェルは頷いて見せた。
玉座から立ちあがる。
三対六翼の光り輝く翼を大きく広げ、高らかに宣言する。

「我はルシフェル! 我が名において、今ここに聖ルシフェル教国の建国を宣言する!」



◆ ◇ 作者より ◇ ◆

ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
これにて一章完結になります。

二章は多分、聖ルシフェル教国の誕生を許さないバーレティン王国や、ルシフェル教を邪教扱いするマスティマ教(悪魔勢)との争いが主題になると思います。

ですがその前に、ちょっと単巻読み切りの新作を書いて12月スタートのカクヨムコンに投げてみたいと思ってまして……。

二章開始は気長にお待ち頂けますと幸いです。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(72件)

花鳥風月(元オーちゃん)

1章お疲れ様でした2章楽しみにしています

猫正宗
2022.12.05 猫正宗

ありがとうございます!

解除
やとぎ
2022.11.30 やとぎ

第一章お疲れさまでした

第二章の開始を待っておりますヽ(=´▽`=)ノ

猫正宗
2022.11.30 猫正宗

あざます!
もしここまでを楽しんで貰えたなら、とても嬉しいです。

解除
やとぎ
2022.11.29 やとぎ

シェバトさん!!シェバトさん!
ルシフェルさんを見てあげて、めっちゃ戸惑ってますよww

主をきちんと見てあげてヽ(=´▽`=)ノ

この辺りのことは意識のズレはコメディチックですなぁ

さあ、国ができて悪魔達との本格的な戦いの予感で第一章が終わりかな?

第二章は本格的な戦いということかな?

楽しみですヽ(=´▽`=)ノ

猫正宗
2022.11.29 猫正宗

辺境伯領が独立しての建国とか絶対バーレティン王国は認めないでしょうねー
肥沃な土地を狙うセルマン帝国あたりも活発になるでしょうし、マスティマ教(悪魔陣営)も黙ってはいない……
どうなるのか私も知りたいですw

解除

あなたにおすすめの小説

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

異世界ハンターライフ

新川キナ
ファンタジー
日本のハンターが異世界で狩りをする物語。 地方公務員の加瀬(40才、バツイチ。ベテランハンター)と大学四年生の立花遥(通称ハル21才。新人ハンター)が、北海道で銃猟の最中に青銅製の扉を発見。潜ってみると未知なる存在に異世界に拉致されてしまった。 最初は元の世界に戻るために活動していた二人だったが、しかし地球とは違う世界で、スキルを駆使して、魔物という未知なる生物を狩る魅力に取りつかれてしまう。 そんな二人の物語。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?

リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。 誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生! まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か! ──なんて思っていたのも今は昔。 40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。 このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。 その子が俺のことを「パパ」と呼んで!? ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。 頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな! これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。 その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか? そして本当に勇者の子供なのだろうか?

【R18】異世界に転移して創造魔法チートを手に入れた男が女体化してエッチな日常をおくる話

第三世界
ファンタジー
社畜のアラサーであるおっさんはある日、異世界召喚に巻き込まれてしまう。自分の授かったチート能力が創造魔法であることをいち早く理解したおっさんは、ステータス隠蔽により無能を演じて様子見を試みるが、勇者としてチート召喚された10代の若者の中に、なぜかスキル無しのおっさんが混じっているという場違い感も合わさり、その場で追放を宣言される。追放をされ早速、自分が授かったチートである創造魔法を使って女体化を果たした元おっさんこと、美少女ハルナが、同じく勇者召喚に巻き込まれた元アラサー、現美魔女アキナと共に好き勝手に生きていく話 ※ノクターンノベルズ、pixivにも投稿しています

神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜

きのこのこ
ファンタジー
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…? え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの?? 俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ! ____________________________________________ 突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった! 那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。 しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」 そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?) 呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!) 謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。 ※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。 ※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。 ※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎ ⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。

【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール
恋愛
「リリア、お前は要らない子だ」 「リリア、可愛いミリスの為に死んでくれ」 「リリア、お前が死んでも誰も悲しまないさ」  リリア  リリア  リリア  何度も名前を呼ばれた。  何度呼ばれても、けして目が合うことは無かった。  何度話しかけられても、彼らが見つめる視線の先はただ一人。  血の繋がらない、義理の妹ミリス。  父も母も兄も弟も。  誰も彼もが彼女を愛した。  実の娘である、妹である私ではなく。  真っ赤な他人のミリスを。  そして私は彼女の身代わりに死ぬのだ。  何度も何度も何度だって。苦しめられて殺されて。  そして、何度死んでも過去に戻る。繰り返される苦しみ、死の恐怖。私はけしてそこから逃れられない。  だけど、もういい、と思うの。  どうせ繰り返すならば、同じように生きなくて良いと思うの。  どうして貴方達だけ好き勝手生きてるの? どうして幸せになることが許されるの?  そんなこと、許さない。私が許さない。  もう何度目か数える事もしなかった時間の戻りを経て──私はようやく家族に告げる事が出来た。  最初で最後の贈り物。私から贈る、大切な言葉。 「お父様、お母様、兄弟にミリス」  みんなみんな 「死んでください」  どうぞ受け取ってくださいませ。 ※ダークシリアス基本に途中明るかったりもします ※他サイトにも掲載してます

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。