45 / 69
その名もルシフェル教。
しおりを挟む
大規模な人間洗脳計画は、実行に移す前に頓挫した。
しかし信仰心集めを諦める訳にはいかない。
ルシフェルは新たな方策を模索する。
「うーん。どうしたものかなぁ」
先の奴隷での結果から、霊子力の効率的な回復には自発的な信仰集めが肝要だと判明している。
その為には――
「……俺、新興宗教でも興してみようかなぁ。なんちゃって」
宗教団体を作って信者を募る。
そして集まった信者に、自発的に信仰してもらうのだ。
ルシフェルの呟きに、グウェンドリエルが賛同する。
「まぁまぁ! それは素晴らしいお考えですわ! さすがはルシフェル様。さしずめ新しく興す宗教は『ルシフェル教』という所でしょうか。私、もちろん入信致します。信者第一号ですわ!」
「ジズも! ジズも入信するの! ジズも信者第一号なの!」
ジズは両手を上げてピョンピョン飛び跳ねている。
そのそばでは、アダムとイヴも控えめに手を上げて入信の意を示している。
「……ふむ。ルシフェル教か」
命名がなんとも気恥ずかしい。
ルシフェルは苦笑した。
「あはは。なんか照れるけど、信仰対象は俺なんだし、まぁそうなるよね。……あ、でもグウェンドリエルやジズに入信してもらっても仕方ないでしょ。これは人間から信仰心を集めるための方便なんだからさ」
「そうですか。残念ですわ」
「むー。信者第一号になりたかったの……」
グウェンドリエルとジズがしょんぼりした。
逆にアダムとイヴはホッとしている。
このふたりは人間なので、ルシフェル教が興った暁には問題なく入信が叶うからである。
ルシフェルはシェバトに尋ねる。
「ねえ、シェバト。いまの新しい宗教を作る案、シェバトはどう思う?」
「素晴らしきお考えかと存じます。しかし一から宗教を興されるのは骨が折れましょう」
「うーん、まぁそうだね。大変かもしれない。俺は宗教を興すノウハウなんてのもさっぱり知らない訳だし……」
「でしたらルシフェル様。私に良い考えがございます。具申お許し頂けますでしょうか」
「うん、もちろん」
「ありがとうございます。一から作るとなると時間も労力も掛かります。そこでルシフェル様におかれましては、この地で今現在、もっとも広まっている宗教を乗っ取られては如何でしょうか」
「はぇ? 乗っ取り?」
またシェバトが物騒なことを言い出した。
さっきから洗脳案といい、シェバトは合理的ではあるものの発案にかなり容赦がない。
ルシフェルはちょっと警戒する。
シェバトが続ける。
「はい。乗っ取りに御座います。私どもが事前に調べましたところ、この地ではマスティマ教なる邪教が広まっている様子。ですのでまずその邪教の教主を排除します。然るのちにルシフェル様はその地位を奪い取り、信者から信仰を集めるので御座います」
「排除ってまた乱暴だなぁ。確かにそうしたら、宗教団体の創立やら布教の手間なんかは全部省けるけど……」
◇
ルシフェルは思案する。
シェバトは邪教というが、よくよく聞いてみるとそれはバーレティン王国の国教らしい。
であるなら、それなりにまともな宗教なのだろう。
それを乗っ取る。
「う、うーん……」
何かこう、ちょっとおかしい気がする。
でもシェバトは乗っ取りくらい当然という態度だ。
ルシフェルは悩んだ。
俺が変なのか?
シェバトがまともで、この世界では宗教の乗っ取りくらい普通なのか?
じゃあ別にいいのかなぁ。
ルシフェルは流されかけた。
この辺り、他人の意見に染まりやすい日本人的感覚と言えなくもない。
けれどもこの提案には、意外な所から待ったが掛かった。
グウェンドリエルが難色を示したのである。
「シェバト、お待ちなさい。今の案はよろしくありませんわよ」
シェバトが応じる。
「これはグウェンドリエル様。御意見ありがとう存じます。して、何故よろしくないのでしょうか」
「それは簡単ですわ。教えて差し上げます。いま貴女の提案した乗っ取りとは、つまり『使い古しの団体をルシフェル様に献上する』と、そういう意味ですわね? つまり中古ですわ。しかも元は邪教でしょう? それは正しいことですの? 私にはとてもそうは思えません」
シェバトはハッとした。
端正な眉を珍しく歪め、苦々しい表情で頭を下げる。
「ああ、グウェンドリエル様! 仰られます通りに御座います。不肖このシェバト。効率を求めるあまり、天使メイドの身にあるまじき不敬を働いてしまう所にございました。使い古された邪悪な団体など、尊きルシフェル様に相応しい筈が御座いません!」
「ふふふ。分かれば良いのですわ」
「御助言、まことに感謝致します」
礼を述べてから、シェバトは考えを改めた。
「それではルシフェル様。ルシフェル教は一から興すことと致しましょう。教義や儀式行事などは私ども七座天使メイド隊の方で用意させて頂きます。残る問題は……布教に御座いますね。さて、如何致しましょう」
これにはジズが応じた。
「はいはい、はーい! ジズ、いい事思い付いたの!」
話し合いは続く。
しかし信仰心集めを諦める訳にはいかない。
ルシフェルは新たな方策を模索する。
「うーん。どうしたものかなぁ」
先の奴隷での結果から、霊子力の効率的な回復には自発的な信仰集めが肝要だと判明している。
その為には――
「……俺、新興宗教でも興してみようかなぁ。なんちゃって」
宗教団体を作って信者を募る。
そして集まった信者に、自発的に信仰してもらうのだ。
ルシフェルの呟きに、グウェンドリエルが賛同する。
「まぁまぁ! それは素晴らしいお考えですわ! さすがはルシフェル様。さしずめ新しく興す宗教は『ルシフェル教』という所でしょうか。私、もちろん入信致します。信者第一号ですわ!」
「ジズも! ジズも入信するの! ジズも信者第一号なの!」
ジズは両手を上げてピョンピョン飛び跳ねている。
そのそばでは、アダムとイヴも控えめに手を上げて入信の意を示している。
「……ふむ。ルシフェル教か」
命名がなんとも気恥ずかしい。
ルシフェルは苦笑した。
「あはは。なんか照れるけど、信仰対象は俺なんだし、まぁそうなるよね。……あ、でもグウェンドリエルやジズに入信してもらっても仕方ないでしょ。これは人間から信仰心を集めるための方便なんだからさ」
「そうですか。残念ですわ」
「むー。信者第一号になりたかったの……」
グウェンドリエルとジズがしょんぼりした。
逆にアダムとイヴはホッとしている。
このふたりは人間なので、ルシフェル教が興った暁には問題なく入信が叶うからである。
ルシフェルはシェバトに尋ねる。
「ねえ、シェバト。いまの新しい宗教を作る案、シェバトはどう思う?」
「素晴らしきお考えかと存じます。しかし一から宗教を興されるのは骨が折れましょう」
「うーん、まぁそうだね。大変かもしれない。俺は宗教を興すノウハウなんてのもさっぱり知らない訳だし……」
「でしたらルシフェル様。私に良い考えがございます。具申お許し頂けますでしょうか」
「うん、もちろん」
「ありがとうございます。一から作るとなると時間も労力も掛かります。そこでルシフェル様におかれましては、この地で今現在、もっとも広まっている宗教を乗っ取られては如何でしょうか」
「はぇ? 乗っ取り?」
またシェバトが物騒なことを言い出した。
さっきから洗脳案といい、シェバトは合理的ではあるものの発案にかなり容赦がない。
ルシフェルはちょっと警戒する。
シェバトが続ける。
「はい。乗っ取りに御座います。私どもが事前に調べましたところ、この地ではマスティマ教なる邪教が広まっている様子。ですのでまずその邪教の教主を排除します。然るのちにルシフェル様はその地位を奪い取り、信者から信仰を集めるので御座います」
「排除ってまた乱暴だなぁ。確かにそうしたら、宗教団体の創立やら布教の手間なんかは全部省けるけど……」
◇
ルシフェルは思案する。
シェバトは邪教というが、よくよく聞いてみるとそれはバーレティン王国の国教らしい。
であるなら、それなりにまともな宗教なのだろう。
それを乗っ取る。
「う、うーん……」
何かこう、ちょっとおかしい気がする。
でもシェバトは乗っ取りくらい当然という態度だ。
ルシフェルは悩んだ。
俺が変なのか?
シェバトがまともで、この世界では宗教の乗っ取りくらい普通なのか?
じゃあ別にいいのかなぁ。
ルシフェルは流されかけた。
この辺り、他人の意見に染まりやすい日本人的感覚と言えなくもない。
けれどもこの提案には、意外な所から待ったが掛かった。
グウェンドリエルが難色を示したのである。
「シェバト、お待ちなさい。今の案はよろしくありませんわよ」
シェバトが応じる。
「これはグウェンドリエル様。御意見ありがとう存じます。して、何故よろしくないのでしょうか」
「それは簡単ですわ。教えて差し上げます。いま貴女の提案した乗っ取りとは、つまり『使い古しの団体をルシフェル様に献上する』と、そういう意味ですわね? つまり中古ですわ。しかも元は邪教でしょう? それは正しいことですの? 私にはとてもそうは思えません」
シェバトはハッとした。
端正な眉を珍しく歪め、苦々しい表情で頭を下げる。
「ああ、グウェンドリエル様! 仰られます通りに御座います。不肖このシェバト。効率を求めるあまり、天使メイドの身にあるまじき不敬を働いてしまう所にございました。使い古された邪悪な団体など、尊きルシフェル様に相応しい筈が御座いません!」
「ふふふ。分かれば良いのですわ」
「御助言、まことに感謝致します」
礼を述べてから、シェバトは考えを改めた。
「それではルシフェル様。ルシフェル教は一から興すことと致しましょう。教義や儀式行事などは私ども七座天使メイド隊の方で用意させて頂きます。残る問題は……布教に御座いますね。さて、如何致しましょう」
これにはジズが応じた。
「はいはい、はーい! ジズ、いい事思い付いたの!」
話し合いは続く。
0
お気に入りに追加
1,767
あなたにおすすめの小説
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
ザ・タワー 〜俺にしかできない魔石を鑑定する能力!魔石を使っての魔法&スキル付与!この力で最強を目指す〜
KeyBow
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRMMOゲームにダイブしたはずが、リアルの異世界に飛ばされた。
いきなり戦闘になるハードモードを選んでおり、襲われている商隊を助ける事に。
その世界はタワーがあり、そこは迷宮となっている。
富や名誉等を得る為に多くの冒険者がタワーに挑み散っていく。
そんなタワーに挑む主人公は、記憶を対価にチート能力をチョイスしていた。
その中の強化と鑑定がヤバかった。
鑑定で一部の魔石にはスキルや魔法を付与出来ると気が付くも、この世界の人は誰も知らないし、出来る者がいないが、俺にはそれが出来る!
強化でパラメータを上げ、多くのスキルを得る事によりこの世界での生きる道筋と、俺TUEEEを目指す。
タワーで裏切りに遭い、奴隷しか信じられなくなるのだが・・・
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる