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城から王を追い出そう。
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人界に降りたルシフェル一行は、人間の多く集まる場所を目指す。
向かう先はバーレティン王国、王都ファーレンだ。
行き先に王都を選んだことに、そこまで深い意味はない。
まず人口が多いこと。
ルシフェルたちは人の信仰を集めるべく地上に降りたのだから、これは必須条件。
あとは強いて言えば、王都には天空城を抜け出したグウェンドリエルがよく買い食いを楽しみに来ているらしく、地理に明るいことが理由に挙がるくらいか。
◇
ところで地上へとやってきたルシフェルは、手始めにタブレット端末の『情報』アイコンから、近年の人界の趨勢や、国家の位置、勢力図なんかを調べようとした。
しかし知りたい情報は何も得られなかった。
というのも情報アイコンから得られる人間の情報は、かつて神代に築かれた千年王国のものばかり。
最新の情報にアップデートされていなかったのである。
アップデートされていない利用は、至極明確だ。
遥か昔に神は死んだし、当時、神から権能を委ねられていたルシフェルだって異界に堕ちた。
つまり神もルシフェルも、自分が不在だった期間の情報なんて知り得ませんよ、とまぁそういうことである。
神の権能はあらゆる奇跡を可能とする凄まじい力だが、全知の力ではないのだった。
◆
王都に辿り着いた一行は、さっそく宿を取ると腰を落ち着けた。
ルシフェルはベッドに寝転がる。
「ふぅ、到着ー」
ベッドはふかふかだった。
ここは座天使メイドたちが手配してきた王都で一番の宿、そのスイートルーム。
王城のほど近くにあり、他国から王都へやってきた要人や豪商なんかも好んで利用する高級宿泊施設なのだ。
調度品も当然一級品揃い。
しかしながら、グウェンドリエルは豪奢な室内を見回してため息をつく。
「随分と粗末な宿ですわね。これではルシフェル様にお泊まり頂くには役不足ではなくて?」
天使メイド長シェバトが頭を下げる。
「この程度の宿しか手配出来ず、大変申し訳ございません。グウェンドリエル様の仰られます通り、ルシフェル様には相応しくない宿かと存じます。しかし調べましたところ、ここが王都でもっとも格式高く高級な宿であることは確か。これ以外となりますと……」
シェバトが思案に耽りだす。
そこにジズが割り込んだ。
「ないなら作っちゃえばいいの! それかあのお城から人間をぜんぶ追い出して、ルシフェル様のお城にしちゃうとか!」
ジズは窓から見える王城を指差している。
座天使メイドたちは「おー」とか「その手がありましたか」とか口々に言いながら、ポンと手を打った。
代表してシェバトが言う。
「なるほど、それは良き案にございますね。さすがはジズ様。私、目から鱗にございます」
シェバトは心底感心しているようだ。
ジズがえへんと薄い胸を張る。
「私ども天使メイド一同も、人間ごときが王を僭称し、城を構えて城下におわすルシフェル様を見下ろすなど、言語道断と考えておりましたところ。追い出せばさぞスッキリ致しましょう。それでは早速――」
「わー! 待って、待って! 俺はこの宿で十分だから! 十分すぎるくらいだから!」
ルシフェルが慌てて止めに入る。
「というか城から王様を追い出すって何⁉︎ 着いて早々、戦争でも始めるつもり⁉︎ 物騒すぎるわ! そういうの、絶対にしちゃダメだから!」
「左様にございますか。畏まりました……」
人間をいじめる機会をなくしたメイドたちは、すこし残念そうである。
だがルシフェルが言うなら仕方があるまい。
天使メイドたちは、そのように己を納得させた。
向かう先はバーレティン王国、王都ファーレンだ。
行き先に王都を選んだことに、そこまで深い意味はない。
まず人口が多いこと。
ルシフェルたちは人の信仰を集めるべく地上に降りたのだから、これは必須条件。
あとは強いて言えば、王都には天空城を抜け出したグウェンドリエルがよく買い食いを楽しみに来ているらしく、地理に明るいことが理由に挙がるくらいか。
◇
ところで地上へとやってきたルシフェルは、手始めにタブレット端末の『情報』アイコンから、近年の人界の趨勢や、国家の位置、勢力図なんかを調べようとした。
しかし知りたい情報は何も得られなかった。
というのも情報アイコンから得られる人間の情報は、かつて神代に築かれた千年王国のものばかり。
最新の情報にアップデートされていなかったのである。
アップデートされていない利用は、至極明確だ。
遥か昔に神は死んだし、当時、神から権能を委ねられていたルシフェルだって異界に堕ちた。
つまり神もルシフェルも、自分が不在だった期間の情報なんて知り得ませんよ、とまぁそういうことである。
神の権能はあらゆる奇跡を可能とする凄まじい力だが、全知の力ではないのだった。
◆
王都に辿り着いた一行は、さっそく宿を取ると腰を落ち着けた。
ルシフェルはベッドに寝転がる。
「ふぅ、到着ー」
ベッドはふかふかだった。
ここは座天使メイドたちが手配してきた王都で一番の宿、そのスイートルーム。
王城のほど近くにあり、他国から王都へやってきた要人や豪商なんかも好んで利用する高級宿泊施設なのだ。
調度品も当然一級品揃い。
しかしながら、グウェンドリエルは豪奢な室内を見回してため息をつく。
「随分と粗末な宿ですわね。これではルシフェル様にお泊まり頂くには役不足ではなくて?」
天使メイド長シェバトが頭を下げる。
「この程度の宿しか手配出来ず、大変申し訳ございません。グウェンドリエル様の仰られます通り、ルシフェル様には相応しくない宿かと存じます。しかし調べましたところ、ここが王都でもっとも格式高く高級な宿であることは確か。これ以外となりますと……」
シェバトが思案に耽りだす。
そこにジズが割り込んだ。
「ないなら作っちゃえばいいの! それかあのお城から人間をぜんぶ追い出して、ルシフェル様のお城にしちゃうとか!」
ジズは窓から見える王城を指差している。
座天使メイドたちは「おー」とか「その手がありましたか」とか口々に言いながら、ポンと手を打った。
代表してシェバトが言う。
「なるほど、それは良き案にございますね。さすがはジズ様。私、目から鱗にございます」
シェバトは心底感心しているようだ。
ジズがえへんと薄い胸を張る。
「私ども天使メイド一同も、人間ごときが王を僭称し、城を構えて城下におわすルシフェル様を見下ろすなど、言語道断と考えておりましたところ。追い出せばさぞスッキリ致しましょう。それでは早速――」
「わー! 待って、待って! 俺はこの宿で十分だから! 十分すぎるくらいだから!」
ルシフェルが慌てて止めに入る。
「というか城から王様を追い出すって何⁉︎ 着いて早々、戦争でも始めるつもり⁉︎ 物騒すぎるわ! そういうの、絶対にしちゃダメだから!」
「左様にございますか。畏まりました……」
人間をいじめる機会をなくしたメイドたちは、すこし残念そうである。
だがルシフェルが言うなら仕方があるまい。
天使メイドたちは、そのように己を納得させた。
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