31 / 69
天使をお供に連れていこう。
しおりを挟む
人界に降りることを決意したルシフェルは、手始めに天使たちを集めた。
呼んだのは七元徳の守護天使たちと、七座天使メイド隊だ。
あとジズもいる。
集めた場所は屋敷のルシフェル専用の執務室である。
神罰の影響で壁面に無数のひびが走っていたりするものの、元は広くて豪奢だった部屋だ。
執務椅子に腰掛けたルシフェルは、一堂に会した天使たちを見回した。
みな膝をつき、ルシフェルの言葉を待っている。
「……えっと、呼びつけてごめんね? 頭を上げて欲しいんだけど」
「はっ」
天使たちが顔をあげた。
ルシフェルを見つめる。
ルシフェルは軽くキョドった。
しかしいつまでもキョドってばかりはいられない。
腹を決めて話し始める。
「あのさ、俺、この世界の人間に会いに行こうと思うんだ」
天使を代表してヴェルレマリーが応える。
「はっ。その件でしたら既にシェバトより聞き及んでおります」
「そうなんだ? だったら話は早いね」
「なんでも人の信仰をお集めになるべく、人界に降りられるのだとか」
「うん、そうなんだ。それでさ、お願いしたいんだけど……出来れば何人か、ついて来てくれないかな?」
ルシフェルは一人で人界に行くのが心細いのである。
天使たちの目の色が変わった。
互いにチラチラと視線を投げ合い、牽制し始める。
口火を切ったのはグウェンドリエルだ。
「ルシフェル様! ルシフェル様! でしたらこの私を供にお付け下さいまし! きっときっと、お役に立って見せますわ!」
「はいはいはぁい! ジズもいくの! ジズ、絶対、絶対、絶ぇっ対、ルシフェル様についていくのー!」
ギルセリフォンが続く。
「待ちなさいキミたち。早い者勝ちでもあるまいに、少し落ち着いたらどうかね。あとルシフェル様にお供するのは私だ」
「……あら? あらあらあら? みんな仲良くしないといけませんよぉ? 喧嘩はめっ! あとルシフェルちゃんに付いていくのは、私じゃないかしらー?」
「――って、お前たちは諌めるフリして何をサラッと主張してるんだ! ボクだってルシフェル様にお供したいのに!」
天使たちは誰も譲らない。
ヤズト・ヤズタにしても、無言の視線でルシフェルにアピールしている。
かと思うと部屋の隅に控えていたシェバトが嘆願してきた。
「恐れながら申し上げます。人界にてルシフェル様のお世話する者が必要かと思われます。また偉大なる御身の世話役が一人二人では不足でございましょう。どうぞ、私ども七座天使メイド隊の全員をお連れ下さいませ」
座天使メイドたちはシェバトの言葉にうんうんと頷いている。
そのうち何人かは、胸の前で小さくパチパチと手を叩いて賛同していた。
◆
天使たちは、私が、いや私が、いやいやボクこそが、と主張し合う。
みな我こそがルシフェルの供に相応しいと言って引かない。
主張はエスカレートする。
収集がつかなくなってきた。
ここに来てようやく、これまで黙って成り行きを見守っていたヴェルレマリーが口を開く。
「……お前たち、少し騒ぎ過ぎだ。ルシフェル様の御前だぞ。鎮まれ」
天使たちがハッとした。
主人たるルシフェルを前に、我を忘れて声を荒げていた痴態に恥入り、口を噤む。
改めて膝をつき、姿勢を正した。
「ルシフェル様、御身を前に騒ぎ立てるなど天使にあるまじき醜態。この者どもは後ほど私がきつく叱責しておきます。……して、人界にお供致しますは、この私、ヴェルレマリーでよろしゅう御座いましょうか」
守護天使たちが一斉に抗議する。
「――はぁ⁉︎ ふざけるな!」
「ちょ⁉︎ 待ちやがれですわ」
「ふぅ……キミねぇ。それはないんじゃないか?」
「あらぁ? うふふ(笑顔の圧力)」
「……………………(無言の圧力)」
ヴェルレマリーがたじろいだ。
「ふ、ふざけてなどいない! お前たちこそ少しは遠慮しろ! 私はお前たちのリーダー、守護天使統括の立場にあるのだぞ!」
この台詞が火に油を注いだ。
守護天使たちは激しく罵り合う。
そうしていると、誰かが机の下からルシフェルの袖を引いた。
「……ルシフェル様、ルシフェル様……」
見れば執務机の下に、ジズがいた。
いつの間に潜り込んだのだろう。
ジズは小声で囁く。
「ふふん、みんなバカなの。ルシフェル様のお供は最初からジズに決まってるのに。ねー?」
無邪気な笑みだ。
たまらずジズから目を逸らすと、守護天使たちはまだ言い争っている。
ルシフェルは頭を抱えた。
呼んだのは七元徳の守護天使たちと、七座天使メイド隊だ。
あとジズもいる。
集めた場所は屋敷のルシフェル専用の執務室である。
神罰の影響で壁面に無数のひびが走っていたりするものの、元は広くて豪奢だった部屋だ。
執務椅子に腰掛けたルシフェルは、一堂に会した天使たちを見回した。
みな膝をつき、ルシフェルの言葉を待っている。
「……えっと、呼びつけてごめんね? 頭を上げて欲しいんだけど」
「はっ」
天使たちが顔をあげた。
ルシフェルを見つめる。
ルシフェルは軽くキョドった。
しかしいつまでもキョドってばかりはいられない。
腹を決めて話し始める。
「あのさ、俺、この世界の人間に会いに行こうと思うんだ」
天使を代表してヴェルレマリーが応える。
「はっ。その件でしたら既にシェバトより聞き及んでおります」
「そうなんだ? だったら話は早いね」
「なんでも人の信仰をお集めになるべく、人界に降りられるのだとか」
「うん、そうなんだ。それでさ、お願いしたいんだけど……出来れば何人か、ついて来てくれないかな?」
ルシフェルは一人で人界に行くのが心細いのである。
天使たちの目の色が変わった。
互いにチラチラと視線を投げ合い、牽制し始める。
口火を切ったのはグウェンドリエルだ。
「ルシフェル様! ルシフェル様! でしたらこの私を供にお付け下さいまし! きっときっと、お役に立って見せますわ!」
「はいはいはぁい! ジズもいくの! ジズ、絶対、絶対、絶ぇっ対、ルシフェル様についていくのー!」
ギルセリフォンが続く。
「待ちなさいキミたち。早い者勝ちでもあるまいに、少し落ち着いたらどうかね。あとルシフェル様にお供するのは私だ」
「……あら? あらあらあら? みんな仲良くしないといけませんよぉ? 喧嘩はめっ! あとルシフェルちゃんに付いていくのは、私じゃないかしらー?」
「――って、お前たちは諌めるフリして何をサラッと主張してるんだ! ボクだってルシフェル様にお供したいのに!」
天使たちは誰も譲らない。
ヤズト・ヤズタにしても、無言の視線でルシフェルにアピールしている。
かと思うと部屋の隅に控えていたシェバトが嘆願してきた。
「恐れながら申し上げます。人界にてルシフェル様のお世話する者が必要かと思われます。また偉大なる御身の世話役が一人二人では不足でございましょう。どうぞ、私ども七座天使メイド隊の全員をお連れ下さいませ」
座天使メイドたちはシェバトの言葉にうんうんと頷いている。
そのうち何人かは、胸の前で小さくパチパチと手を叩いて賛同していた。
◆
天使たちは、私が、いや私が、いやいやボクこそが、と主張し合う。
みな我こそがルシフェルの供に相応しいと言って引かない。
主張はエスカレートする。
収集がつかなくなってきた。
ここに来てようやく、これまで黙って成り行きを見守っていたヴェルレマリーが口を開く。
「……お前たち、少し騒ぎ過ぎだ。ルシフェル様の御前だぞ。鎮まれ」
天使たちがハッとした。
主人たるルシフェルを前に、我を忘れて声を荒げていた痴態に恥入り、口を噤む。
改めて膝をつき、姿勢を正した。
「ルシフェル様、御身を前に騒ぎ立てるなど天使にあるまじき醜態。この者どもは後ほど私がきつく叱責しておきます。……して、人界にお供致しますは、この私、ヴェルレマリーでよろしゅう御座いましょうか」
守護天使たちが一斉に抗議する。
「――はぁ⁉︎ ふざけるな!」
「ちょ⁉︎ 待ちやがれですわ」
「ふぅ……キミねぇ。それはないんじゃないか?」
「あらぁ? うふふ(笑顔の圧力)」
「……………………(無言の圧力)」
ヴェルレマリーがたじろいだ。
「ふ、ふざけてなどいない! お前たちこそ少しは遠慮しろ! 私はお前たちのリーダー、守護天使統括の立場にあるのだぞ!」
この台詞が火に油を注いだ。
守護天使たちは激しく罵り合う。
そうしていると、誰かが机の下からルシフェルの袖を引いた。
「……ルシフェル様、ルシフェル様……」
見れば執務机の下に、ジズがいた。
いつの間に潜り込んだのだろう。
ジズは小声で囁く。
「ふふん、みんなバカなの。ルシフェル様のお供は最初からジズに決まってるのに。ねー?」
無邪気な笑みだ。
たまらずジズから目を逸らすと、守護天使たちはまだ言い争っている。
ルシフェルは頭を抱えた。
0
お気に入りに追加
1,767
あなたにおすすめの小説
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界をスキルブックと共に生きていく
大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。
このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~
夢幻の翼
ファンタジー
典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。
男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。
それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。
一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。
持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる