30 / 52
体育祭・中編2
しおりを挟む
体育祭午前の部のプログラムが、つつがなく終了した。
これから昼休憩を挟んでから午後の部になるのだが、昼からはうちの家族も参観にくるらしい。
俺はアリスと雑談を交わしながら、校門までみんなを迎えるべく歩いて向かっているところだ。
「はぁ……。
恥ずかしかったです」
借り物競争で、『大切なひと』に俺を選んだことである。
「そうか?
俺は楽しかったけどなぁ」
「わたしも楽しかったですけど、あのあとクラスの女子のみなさんに、散々に揶揄われてしまいました」
アリスは赤くなった頬に両手を当てている。
仕草がなんとも可愛らしい。
「……ん?
あいつは……」
進行方向から、男が俺たちのほうに向かって歩いてきた。
人相の悪いその顔には見覚えがあった。
こいつはたしか、野球部の田中だ。
1回500円でアリスがなんでもするなんて、下らない噂を流しやがった張本人である。
たしか噂を流した理由は、1年の頃にアリスに振られた腹いせだったか。
まったく、性根の腐ったやつだ。
田中は明らかに敵意を剥き出しにして、遠くからアリスと俺を睨んでいる。
それに気がついたアリスが、怯えて俺の背中に隠れた。
「……この嫌われ者の不良が」
田中は接近するなり、忌々しげに表情を歪めた。
小声で悪態をつく。
「はぁ?
聞こえねぇよ。
ちゃんと腹から声をだして喋りやがれ」
態度からして、こいつは明らかに喧嘩を売ってきてやがる。
なら俺も丁寧に応対してやるつもりはない。
「……ちっ。
クズが。
調子に乗りやがって……」
田中が舌打ちをしつつ顔を逸らした。
「んだぁ?
文句があんなら、俺の目ぇ見てはっきり言ってみろ。
んな女の腐ったような態度取ってねぇでよぉ。
てめぇにだって、いちおう金玉ついてんだろうが」
「き、金た――⁉︎
はぅっ……」
アリスが背後であわあわしている。
彼女は小さく縮こまりながら、俺の服をちょいちょいと引っ張ってきた。
「大輔くん。
もう、行きましょう」
アリスは居心地悪そうにしている。
どうにも一触即発のこの雰囲気に、ストレスを感じているようだ。
「……そうだな。
こんなやつに構っていても仕方がねぇ。
んじゃ行くか」
見せつけるみたいにして、アリスの手のひらを握った。
アリスも握り返してくる。
田中がまた不快げに舌打ちをしたが、もう俺はそれには取り合わず、彼女の手をしっかりと引いてその場を後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
正門は待ち合わせをする生徒と父兄で、ごった返していた。
「えっと……。
うちのやつらは……」
「あ、大輔くん。
みなさん向こうにいます」
「あ、ほんとだ。
おーい。
お前らこっちだぜー!」
大きく手を振ると、みんなも俺を見つけた。
「ようっ。
アリスねえちゃん!」
「やっほー。
遊びに来たわよ、大輔にぃ」
拓海と明希が手を振りかえしながら歩いてきた。
その後ろには雫の姿もある。
でも親父とじいちゃんは来ていないようだ。
「なぁ雫。
親父とじいちゃんは?」
「お父さんは急な仕事が入ったって、会社に行っちゃったよ。
おじいちゃんはちょっと体調を崩してるみたいだから、うちで留守番してるって」
「そっか。
親父も大変だな。
ってかじいちゃん、このところ調子が悪りぃなぁ」
つい先日も風邪をひいて寝込んでいた。
少し心配である。
「とにかくまぁ、合流もしたし昼めしにすっか」
「うんっ。
お弁当、たくさん作ってきたよ。
えへへ」
雫が自慢げに風呂敷包みを掲げてみせた。
◇
みんなで校庭に移動してきた。
たくさんの家族がわいわいと昼食を摂っている。
空いてるスペースを見つけ、俺たちも大きめのレジャーシートを敷いて、その上に座る。
「じゃじゃーん!
今日は奮発して、豪勢なお弁当にしてみましたぁ」
雫が重箱の蓋をパカっと開けた。
ずずいっと前に差し出してくる。
「おお!
なぁなぁ、アッキー見てみろよ!
海老フライだぞ!
しかもあんなにっ。
海老フライだぞ、海老フライ!
海老フリァ――」
「ちょ、ちょっと拓海うるさい!
海老フライ海老フライって、そんなに海老フライばっかり連呼したら恥ずかしいでしょ!」
重箱を眺める。
海老フライ、卵焼き、アスパラベーコンに、色とりどりの旬菜。
そこには手の込んだおかずが、これでもかと詰め込まれていた。
「そして、はい。
こっちの重箱はおにぎりだよ。
端から順に、塩むすび、おかか、梅干し、明太子」
「おほー!
こいつぁ、美味そうだ。
作るのも手間ぁかかっただろう?
ありがとな、雫」
「えへへ。
たくさん食べてね、お兄ちゃん。
アリスさんもどうぞ」
アリスが無言でこくりと頷く。
「んじゃ、さっそく。
いただきます!」
俺が手を合わせるのと同時に、みんなの箸が一斉に伸びる。
賑やかな食事が始まった。
「へへぇん!
海老フライいっただきー!」
拓海のやつが狙いすましたような箸さばきで、明希が取ろうとしていた海老フライを数尾まとめて掻っ攫っていった。
「あ、こら拓海!
行儀悪いことしないのっ。
海老フライ返しなさいよ!」
「へっへぇん!
アッキーがのろまなのが悪りぃんだぜー!」
「ぐぬぬ……。
弟の分際で生意気よ!
あたしの海老フライ返しなさい!」
下の妹と末の弟が、いつものように騒ぎ出す。
俺は仲がいいんだか悪いんだか分からないふたりを横目で見ながら、塩むすびをひとつ摘まみ上げて、卵焼きと一緒にパクリと頬張った。
「んぐ、んぐ……」
咀嚼する。
ちょうど良い塩梅の塩気や白米の甘みが、卵焼きから染み出してきた出汁と舌のうえで混ざり合って、なんとも言えない美味さだ。
「くぁぁ……。
うめぇ!」
隣ではアリスが、海老フライを一口かじった姿勢で止まっていた。
「……さすが雫さんです。
冷めても損なわれないこのサクサクとした衣。
程よく火が通り、ぷりぷりになった海老の身の弾力。
これは下処理に、特別な手間を割いているのかもしれません。
付け合わせのタルタルソースもお手製で、随所に工夫が凝らされています」
無表情なまま、食レポ芸人みたいなことを言い出した。
「……ふふ。
短い期間の料理修業で、そこまで分かるようになりましたか。
アリスさんこそさすがですね。
ぷりぷりなのは、剥いた海老の身に少量の塩水を吸わせているからです。
ほかにもコツがありますよ。
また今度、教えてあげますね」
雫がアリスに語りかける。
アリスも雫を見つめてこくりと頷く。
なんかいつの間にか、このふたりの間に奇妙な師弟関係が出来上がっていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
昼食を食べ終わり、午後のプログラム開始までをのんびりと過ごす。
明希はついさっき、イケメン眼鏡の時宗を見つけて黄色い声をあげながら飛び出していった。
拓海はそれを見て、不満げにしながらも明希のあとを追っていった。
残されたのは俺とアリスと雫だ。
「ふわぁ……。
満腹になったら少し眠くなってきた。
ちっと横になるかぁ」
ゴロンと身体を倒す。
するとアリスが横座りのままずりずりと近寄ってきて、俺の頭を持ち上げたかと思うと、ぽすっと膝に乗せた。
「ア、アリスさん⁉︎
なにをしているんですか?」
「膝枕です。
こうすると大輔くんが喜びます」
「なっ⁉︎
お、お兄ちゃん!」
「いやちょっと待て!
さすがに妹のまえで、これはまずい!」
起き上がろうとすると、肩を押さえられた。
そこにタイミング悪く、A組の女子が通りかかる。
以前屋上で一緒に弁当を食べたことめある、3人組のあの女子たちだ。
「あ、みてみて!
西澄さんってばぁ」
「きゃー!
北川くんを膝枕なんかしちゃってるぅ」
「さっすが、大切なひとに選んだだけあるよねっ」
やたらと嬉しそうな顔をした彼女たちは、通り際にきゃーきゃーと囃し立ててきた。
「え?
このひとたちは、アリスさんのお友だちですか?
それに、大切なひと?
いったいなんの話なんですか?」
「なに、なに?
この子も可愛いわねぇ。
中学生かしら?」
「へぇー。
北川くんの妹さんなんだぁ?」
「えっとぉ。
大切なひとってのはねー」
3人から借り物競争での出来事を聞き出した雫が、ぷくーっと頬を膨らませた。
「わ、私だって!
私だってお兄ちゃん、大切なんだもん!」
雫はこちらに寄ってきて、アリスの膝から俺の頭を奪い取り、そのまま自分の太ももに乗せた。
「あっ。
大輔くん……」
「お、お兄ちゃんどう?
私の膝枕だってなかなか――」
「いやいや、ちょっと待て雫!
なんかお前いま、変になってんぞっ」
見れば雫は顔を耳まで真っ赤に染めていた。
なんだかテンパってるっぽい。
「ほら、雫。
落ち着いて、深呼吸しろ!
な?」
おかしくなった雫は、聞く耳を持たない。
起き上がろうとする俺の頭を押さえつけ、太ももに押し付けてきた。
その感触は妹のくせしてふにっとして柔らかく、不覚にも心地よい。
「……大輔くん。
大輔くんが、取られてしまいました」
「西澄さんファイト!」
「まだまだ勝負はこれからだわ!」
「取られたら、取り返すんだよー!」
面白がったA組女子が、無責任にアリスを煽る。
それを真に受けて、無表情のままアリスがこくりと頷いた。
「だ、だめですよ!
いくらアリスさんでも、お兄ちゃんは渡しませんから!」
アリスが迫る。
俺たちはおかしくなった雫が正気を取り戻すまで、変なテンションで騒ぎ続けた。
これから昼休憩を挟んでから午後の部になるのだが、昼からはうちの家族も参観にくるらしい。
俺はアリスと雑談を交わしながら、校門までみんなを迎えるべく歩いて向かっているところだ。
「はぁ……。
恥ずかしかったです」
借り物競争で、『大切なひと』に俺を選んだことである。
「そうか?
俺は楽しかったけどなぁ」
「わたしも楽しかったですけど、あのあとクラスの女子のみなさんに、散々に揶揄われてしまいました」
アリスは赤くなった頬に両手を当てている。
仕草がなんとも可愛らしい。
「……ん?
あいつは……」
進行方向から、男が俺たちのほうに向かって歩いてきた。
人相の悪いその顔には見覚えがあった。
こいつはたしか、野球部の田中だ。
1回500円でアリスがなんでもするなんて、下らない噂を流しやがった張本人である。
たしか噂を流した理由は、1年の頃にアリスに振られた腹いせだったか。
まったく、性根の腐ったやつだ。
田中は明らかに敵意を剥き出しにして、遠くからアリスと俺を睨んでいる。
それに気がついたアリスが、怯えて俺の背中に隠れた。
「……この嫌われ者の不良が」
田中は接近するなり、忌々しげに表情を歪めた。
小声で悪態をつく。
「はぁ?
聞こえねぇよ。
ちゃんと腹から声をだして喋りやがれ」
態度からして、こいつは明らかに喧嘩を売ってきてやがる。
なら俺も丁寧に応対してやるつもりはない。
「……ちっ。
クズが。
調子に乗りやがって……」
田中が舌打ちをしつつ顔を逸らした。
「んだぁ?
文句があんなら、俺の目ぇ見てはっきり言ってみろ。
んな女の腐ったような態度取ってねぇでよぉ。
てめぇにだって、いちおう金玉ついてんだろうが」
「き、金た――⁉︎
はぅっ……」
アリスが背後であわあわしている。
彼女は小さく縮こまりながら、俺の服をちょいちょいと引っ張ってきた。
「大輔くん。
もう、行きましょう」
アリスは居心地悪そうにしている。
どうにも一触即発のこの雰囲気に、ストレスを感じているようだ。
「……そうだな。
こんなやつに構っていても仕方がねぇ。
んじゃ行くか」
見せつけるみたいにして、アリスの手のひらを握った。
アリスも握り返してくる。
田中がまた不快げに舌打ちをしたが、もう俺はそれには取り合わず、彼女の手をしっかりと引いてその場を後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
正門は待ち合わせをする生徒と父兄で、ごった返していた。
「えっと……。
うちのやつらは……」
「あ、大輔くん。
みなさん向こうにいます」
「あ、ほんとだ。
おーい。
お前らこっちだぜー!」
大きく手を振ると、みんなも俺を見つけた。
「ようっ。
アリスねえちゃん!」
「やっほー。
遊びに来たわよ、大輔にぃ」
拓海と明希が手を振りかえしながら歩いてきた。
その後ろには雫の姿もある。
でも親父とじいちゃんは来ていないようだ。
「なぁ雫。
親父とじいちゃんは?」
「お父さんは急な仕事が入ったって、会社に行っちゃったよ。
おじいちゃんはちょっと体調を崩してるみたいだから、うちで留守番してるって」
「そっか。
親父も大変だな。
ってかじいちゃん、このところ調子が悪りぃなぁ」
つい先日も風邪をひいて寝込んでいた。
少し心配である。
「とにかくまぁ、合流もしたし昼めしにすっか」
「うんっ。
お弁当、たくさん作ってきたよ。
えへへ」
雫が自慢げに風呂敷包みを掲げてみせた。
◇
みんなで校庭に移動してきた。
たくさんの家族がわいわいと昼食を摂っている。
空いてるスペースを見つけ、俺たちも大きめのレジャーシートを敷いて、その上に座る。
「じゃじゃーん!
今日は奮発して、豪勢なお弁当にしてみましたぁ」
雫が重箱の蓋をパカっと開けた。
ずずいっと前に差し出してくる。
「おお!
なぁなぁ、アッキー見てみろよ!
海老フライだぞ!
しかもあんなにっ。
海老フライだぞ、海老フライ!
海老フリァ――」
「ちょ、ちょっと拓海うるさい!
海老フライ海老フライって、そんなに海老フライばっかり連呼したら恥ずかしいでしょ!」
重箱を眺める。
海老フライ、卵焼き、アスパラベーコンに、色とりどりの旬菜。
そこには手の込んだおかずが、これでもかと詰め込まれていた。
「そして、はい。
こっちの重箱はおにぎりだよ。
端から順に、塩むすび、おかか、梅干し、明太子」
「おほー!
こいつぁ、美味そうだ。
作るのも手間ぁかかっただろう?
ありがとな、雫」
「えへへ。
たくさん食べてね、お兄ちゃん。
アリスさんもどうぞ」
アリスが無言でこくりと頷く。
「んじゃ、さっそく。
いただきます!」
俺が手を合わせるのと同時に、みんなの箸が一斉に伸びる。
賑やかな食事が始まった。
「へへぇん!
海老フライいっただきー!」
拓海のやつが狙いすましたような箸さばきで、明希が取ろうとしていた海老フライを数尾まとめて掻っ攫っていった。
「あ、こら拓海!
行儀悪いことしないのっ。
海老フライ返しなさいよ!」
「へっへぇん!
アッキーがのろまなのが悪りぃんだぜー!」
「ぐぬぬ……。
弟の分際で生意気よ!
あたしの海老フライ返しなさい!」
下の妹と末の弟が、いつものように騒ぎ出す。
俺は仲がいいんだか悪いんだか分からないふたりを横目で見ながら、塩むすびをひとつ摘まみ上げて、卵焼きと一緒にパクリと頬張った。
「んぐ、んぐ……」
咀嚼する。
ちょうど良い塩梅の塩気や白米の甘みが、卵焼きから染み出してきた出汁と舌のうえで混ざり合って、なんとも言えない美味さだ。
「くぁぁ……。
うめぇ!」
隣ではアリスが、海老フライを一口かじった姿勢で止まっていた。
「……さすが雫さんです。
冷めても損なわれないこのサクサクとした衣。
程よく火が通り、ぷりぷりになった海老の身の弾力。
これは下処理に、特別な手間を割いているのかもしれません。
付け合わせのタルタルソースもお手製で、随所に工夫が凝らされています」
無表情なまま、食レポ芸人みたいなことを言い出した。
「……ふふ。
短い期間の料理修業で、そこまで分かるようになりましたか。
アリスさんこそさすがですね。
ぷりぷりなのは、剥いた海老の身に少量の塩水を吸わせているからです。
ほかにもコツがありますよ。
また今度、教えてあげますね」
雫がアリスに語りかける。
アリスも雫を見つめてこくりと頷く。
なんかいつの間にか、このふたりの間に奇妙な師弟関係が出来上がっていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
昼食を食べ終わり、午後のプログラム開始までをのんびりと過ごす。
明希はついさっき、イケメン眼鏡の時宗を見つけて黄色い声をあげながら飛び出していった。
拓海はそれを見て、不満げにしながらも明希のあとを追っていった。
残されたのは俺とアリスと雫だ。
「ふわぁ……。
満腹になったら少し眠くなってきた。
ちっと横になるかぁ」
ゴロンと身体を倒す。
するとアリスが横座りのままずりずりと近寄ってきて、俺の頭を持ち上げたかと思うと、ぽすっと膝に乗せた。
「ア、アリスさん⁉︎
なにをしているんですか?」
「膝枕です。
こうすると大輔くんが喜びます」
「なっ⁉︎
お、お兄ちゃん!」
「いやちょっと待て!
さすがに妹のまえで、これはまずい!」
起き上がろうとすると、肩を押さえられた。
そこにタイミング悪く、A組の女子が通りかかる。
以前屋上で一緒に弁当を食べたことめある、3人組のあの女子たちだ。
「あ、みてみて!
西澄さんってばぁ」
「きゃー!
北川くんを膝枕なんかしちゃってるぅ」
「さっすが、大切なひとに選んだだけあるよねっ」
やたらと嬉しそうな顔をした彼女たちは、通り際にきゃーきゃーと囃し立ててきた。
「え?
このひとたちは、アリスさんのお友だちですか?
それに、大切なひと?
いったいなんの話なんですか?」
「なに、なに?
この子も可愛いわねぇ。
中学生かしら?」
「へぇー。
北川くんの妹さんなんだぁ?」
「えっとぉ。
大切なひとってのはねー」
3人から借り物競争での出来事を聞き出した雫が、ぷくーっと頬を膨らませた。
「わ、私だって!
私だってお兄ちゃん、大切なんだもん!」
雫はこちらに寄ってきて、アリスの膝から俺の頭を奪い取り、そのまま自分の太ももに乗せた。
「あっ。
大輔くん……」
「お、お兄ちゃんどう?
私の膝枕だってなかなか――」
「いやいや、ちょっと待て雫!
なんかお前いま、変になってんぞっ」
見れば雫は顔を耳まで真っ赤に染めていた。
なんだかテンパってるっぽい。
「ほら、雫。
落ち着いて、深呼吸しろ!
な?」
おかしくなった雫は、聞く耳を持たない。
起き上がろうとする俺の頭を押さえつけ、太ももに押し付けてきた。
その感触は妹のくせしてふにっとして柔らかく、不覚にも心地よい。
「……大輔くん。
大輔くんが、取られてしまいました」
「西澄さんファイト!」
「まだまだ勝負はこれからだわ!」
「取られたら、取り返すんだよー!」
面白がったA組女子が、無責任にアリスを煽る。
それを真に受けて、無表情のままアリスがこくりと頷いた。
「だ、だめですよ!
いくらアリスさんでも、お兄ちゃんは渡しませんから!」
アリスが迫る。
俺たちはおかしくなった雫が正気を取り戻すまで、変なテンションで騒ぎ続けた。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
僕(じゃない人)が幸せにします。
暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】
・第1章
彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。
そんな彼を想う二人。
席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。
所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。
そして彼は幸せにする方法を考えつく――――
「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」
本当にそんなこと上手くいくのか!?
それで本当に幸せなのか!?
そもそも幸せにするってなんだ!?
・第2章
草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。
その目的は――――
「付き合ってほしいの!!」
「付き合ってほしいんです!!」
なぜこうなったのか!?
二人の本当の想いは!?
それを叶えるにはどうすれば良いのか!?
・第3章
文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。
君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……
深町と付き合おうとする別府!
ぼーっとする深町冴羅!
心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!?
・第4章
二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。
期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する――
「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」
二人は何を思い何をするのか!?
修学旅行がそこにもたらすものとは!?
彼ら彼女らの行く先は!?
・第5章
冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。
そんな中、深町凛紗が行動を起こす――
君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!
映像部への入部!
全ては幸せのために!
――これは誰かが誰かを幸せにする物語。
ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。
作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ポンコツ気味の学園のかぐや姫が僕へのラブコールにご熱心な件
鉄人じゅす
恋愛
平凡な男子高校生【山田太陽】にとっての日常は極めて容姿端麗で女性にモテる親友の恋模様を観察することだ。
ある時、太陽はその親友の妹からこんな言葉を隠れて聞くことになる。
「私ね……太陽さんのこと好きになったかもしれない」
親友の妹【神凪月夜】は千回告白されてもYESと言わない学園のかぐや姫と噂される笑顔がとても愛らしい美少女だった。
月夜を親友の妹としか見ていなかった太陽だったがその言葉から始まる月夜の熱烈なラブコールに日常は急変化する。
恋に対して空回り気味でポンコツを露呈する月夜に苦笑いしつつも、柔和で優しい笑顔に太陽はどんどん魅せられていく。
恋に不慣れな2人が互いに最も大切な人になるまでの話。
7月14日 本編完結です。
小説化になろう、カクヨム、マグネット、ノベルアップ+で掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる