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4.舞加と幼馴染
しおりを挟む今日は、家にお客さんが来るので、準備をしていた。
その間、時々ノアが足元にすり寄って邪魔して来たりしたが、
かわいいので許す。
すっかり準備を終えて、相手が来るのをノアを撫でながら待っていると
ピンポーンと家のチャイムが鳴った。
インターホンを見れば、そこには私の大切な幼馴染の姿があった。
「久しぶりだね、舞加。元気にしてた?」
家に入りソファに座った幼馴染・世都香が言った。
「うん、久しぶり。元気にしてたよ」
私が入れた紅茶を差し出しながら言うと、世都香はにやっと笑った。
「舞加、全然会いに来てくれないからどうしているかと思ったけど、
元気そうで安心したわ」
「うっ、ごめん」
「どうせ、私が子育て中で大変だと思って遠慮してたんでしょ?」
「うん」
「そういう遠慮はいいっていつも言ってるのに……ほんと変わらないんだから」
しょうがないやつだなぁと言って、世都香は紅茶を一口飲んだ。
入れたのは世都香の好きなニルギル。
最近紅茶を入れることがなかったので、おいしく入れられたか不安だったが、
やっぱ舞加の入れたニルギルおいしーわぁと言ってくれたので、
大丈夫のようだった。よかった。
世都香はいつも私の気持ちを理解してくれるし、私を受け入れてくれる。
小学校からの付き合いだが、いつも私は彼女に助けられている。
すぐ凹む私を毎度毎度励まし引っ張ってくれたのは、彼女だった。
私は、これまで落ち込むことがあると彼女を頼っていたが、
彼女が出産した4年前からは、あんまり頼らないように気を付けていた。
世都香は水臭いってよく怒るけど、子育てをがんばっている彼女の負担になりたくなかった。
だから、連絡もあまりしていなかったし、2年前に2番目の子の出産祝いをしてからは、会うのも控えるようにしていた。
会えなかった期間にあった出来事をお互い報告しあった。
私の話は、主に会社のことなので、あんまり内容がなかったが、
世都香の子どもたちー今4歳になる女の子と2歳になる男の子の話はおもしろかった。写真も見せてもらった。どちらも世都香に似ているように思う。旦那さんの遺伝子どこ行った?そう呟くと、世都香は笑って「夫に似ている部分もちゃんとあるわよ」と返してきた。
そんな風に2時間ほど話した後、世都香がしみじみと言う。
「それにしても、舞加がネコを飼うなんてね~。連絡来た時は何事かと思ったわ」
「まぁ縁があったからね。いろいろ教えてくれてありがとね」
「そしてこの子がそのノアか~」
世都香がノアに手を伸ばした。
ノアは、じっと世都香を見ていたけど、逃げずに彼女に撫でられた。
「おぉ、すっごい毛並みが良いね」
「そうでしょ!だからノアを撫でると気持ちいいの」
ノアのことを褒められてちょっと嬉しくて笑いながら私が言うと、
世都香は目を細めて私を見た。
「ん?な、何?」
「いやー、舞加が笑顔でよかったと思って」
「……」
「あんたが本当に大丈夫そうでよかった」
きっと世都香は、私があの家を出てからも、思い出しては凹んでいたことを言っているのだろう。
彼女には、本当に心配のかけどおしだ。
「にゃー」
ノアが鳴いて世都香の手から逃げ出し、私の方にすり寄ってきた。
私が撫でるとノアが気持ちよさそうに喉をゴロゴロ鳴らしてくれる。
うん、私は大丈夫だ。
「世都香、ありがとね」
「んー?」
「いつも世都香が、私を見て私を評価してくれていたから私は大丈夫になった」
「そんなの当り前じゃない。舞加は舞加なんだもの。嘘でもおべっかでもなく、私は舞加の良いところを言っていたに過ぎない。何度でも言うけどあんたの親がおかしいのよ。双子だからって同一視するなんて」
「……うん」
たぶん、そうなんだろう。でも、あの家の中で、そんなことを言ってくれる人なんていなかった。
「今だってあんたは、自立して生活してる、立派な大人だよ。会社でだって、あんたのそのゆっくりだけど丁寧で気配りが行き届いている仕事ぶりを評価してもらえてるでしょ?」
「……うん」
上司や教育係だった戸波先輩、仕事で関わる営業の方にも、
そう言って褒めてもらったことがある。
最初は、早くないのに褒められたことに驚いたな。
「あんたはあんたの良さを活かして生きていればいいのよ。あの性悪女になんて成らなくていいの」
「性悪って」
世都香の昔からの言い方に笑うと、彼女はさも当然のように言う。
「あれが性悪じゃなくて何が性悪なのよ」
ふんっと音がしそうなほど鼻息荒く言う世都香がちょっとおかしかった。
それから30分ほど話した後、世都香はそろそろ帰ると言ってソファから立ち上がった。
その時「今度実家に行くんだけど、その時一緒に行かない?両親も久しぶりに会いたがっていたし」と言ってくれた。
そういえば、世都香のご両親にも久しく会っていない。
あんなにお世話になったのにと、自分の不義理さにちょっと申し訳なくなったので、了承の意を伝えた。
「じゃあ、またね」
そう言って笑顔を残して、私の大切な幼馴染は帰っていった。
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