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捨てられたと思ったら拾われた日
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「……え?ど、……どういう、……こと?誰?そのひと……」
目の前の光景に辛うじて出た声は喉に張り付いて掠れている。
手に持った荷物を落とさなかっただけ、まだましだろう。
「なあに?貴女こそ、だれ?」
恋人と見知らぬ女が、仲良く裸で抱き合っている。
女の声は甘ったるく、ありありとこちらを馬鹿にしているのが分かる。
そして、猫撫で声なのが更に私の神経を逆撫でる。
「お前、この間もう来るなって言ったよな」
「……別れてって、言われなかったから……解らなかった」
「わざわざ言わなきゃ解らないのか。……もうお前には付き合いきれない。その手に握ってる合鍵置いて、さっさと出てってくれ。そして、二度と来るな」
刺すような鋭い目で淡々と伝える恋人だった男。
情すら欠片も残っていないようだ。
「っ……!」
私は手に握り締めていた鍵を相手に投げつけて、走り去ることしかできなかった。
後々振り返って考えると、平手が握った手で一発叩いてもよかったかなと思っている。
こうして、この日。
突然に別れを切り出された。
厳密に言うと心を砕かれ、捨てられた。
* * * * *
どれくらい走ったのだろうか。
いつの間にか噴水の綺麗な広場に出た。
時間も遅いので人気はなく、薄らと街灯に照らされている。噴水の水に光が反射して、キラキラと輝いている。
噴水の見える位置にあったベンチへ腰かけた。
座ったことで初めて実感したが、足から血が出ている。膝の怪我なので、夢中で走っている間にどこかで引っ掛けたのだろう。
と言っても薄く切っただけのようで痛みはない。
彼のために着たふわりと広がる、白い花柄が可愛らしいデザインの真っ赤なスカート。今日初めて袖を通したオフショルダーの白いニット。まだ秋頃なので上着は着てない。
この服も、ピアスもネックレスも全て無駄。
そして、彼の為に作ったこのバッグの中身も無駄になった。
好物だと言っていたこの、鳥の唐揚げも。
これら全てが、何もかもが!!
私ただ一人の空回りで、無駄だったのだ。
声を上げるなんてこんな夜に迷惑なうえ、彼奴のために喚くなんてみっともない真似したくない。
だが、虚しさと哀しさと自分の馬鹿さ加減に勝手に涙が溢れる。
ぼろぼろと、次から次へと溢れる涙に止めるすべもない。
今更泣き顔を隠すのも馬鹿馬鹿しい。
どうせ誰も見てないだろう。
「ねえお嬢さん、夜中に独りでこんな所にいて、どうしたの?危ないよ?」
「……っ!」
声をかけてきた親切な人は、首を傾げて心配そうにこちらを見ているやたらと綺麗な顔をした騎士様だった?
誰もいないと思って泣いていたのに、何故今人が現れるのか!
「……っ、もしかして、泣いてた?脚、怪我してるの?歩ける?……病院やってるかなあ」
視線が合うと眉を顰め、矢継ぎ早に喋るこの男。
実際は薄く切っただけなので、怪我が分かるわけはないので勝手に足を怪我して泣いてると判断したのだろう。
夜なのでハッキリとした容姿は分からないが、薄暗くても解るほどキリッとした真面目そうな見た目。
冷静そうに判断できるような見た目なのだが、どうやら勢いだけで突っ走る部分があるようだ。
「あ、あの!大丈夫、です。ご親切に、ありがとうございます。……脚はたしいた怪我はしてないので、大丈夫です。しばらくしたらすぐ、帰りますから。……あの、お仕事中ですよね?なので、お気になさらないでください」
「でも、女性が独りでこの時間に街を歩くのは宜しくないよ。……それともここで迎えを待ってるの?」
「い、いえ。迎えは無いんですけども、ほ、ほんとに大丈夫ですので……!家も近いですし!あの、もう、放っておいてください……!」
「あ、もしかしてワケあり?家出とか?」
話が全く通じない!!
こちらの声を聞いてるのか聞いてないのか、定かではないが会話が成立してない気がする。
「……よし、ワケありならさ、家においでよ。なんだったら、手は出さないって誓うし。ほら、立って。早く早く」
「え、あの……ちょ」
「脚怪我してないんでしょ?さっさと歩く歩く」
手首をぐいぐいと引っ張られ、『家出じゃない』と言っても聞きいれて貰えずに結局そのまま家に招かれた。
そして、無駄になるはずだった料理を一緒に食べることに。
そしてどうやらその料理で彼の胃袋を掴んでしまったようだ。
「君の手料理好きだなあ。……そうだ!一緒に住もう?」
一旦保留にしたはずのこの話は翌日には決定事項になっていた。
非番なのか、彼からずっと質問されて結局帰れなかった私。
いつ注文したのか分からないが、昼には家具と洋服が。何故かサイズがぴったり。
流石にちょっと怖い。
その翌日には、家が解約されていた。
…………そう、彼はとても強引に物事を進める人だった。
そうして、最悪な一日だったのが親切な人--とは言い難いかも知れないが--のお陰で怒涛な一日となった。
「ね、結婚しよう。これ今日中に書いてね。明日一緒に出しに行こう」
「……あの、私達まだ出会って1ヶ月」
「ほら、早く早く。文字書けるでしょ?」
必要事項は全て書いてある婚姻届とペンを手渡された。
どうやら選択肢はyesしか用意されてないようだ。
「俺の事嫌いじゃないでしょ?…………え、もしかして、嫌いとか!?」
「っ好きです好きです!」
だよねと嬉しそうに笑う彼は確信犯である。
ドレスはどのタイプがいいかなー?
と、人より悩む彼に一生この強引さに振り回される予感と、一生幸せな家族になれる予感がした。
そうして電撃結婚を果たした訳である。
後日結婚式で旦那様が国1番の英雄騎士様だと気付きちょっとした騒ぎになるのだが……この時の彼女は知る由もない。
目の前の光景に辛うじて出た声は喉に張り付いて掠れている。
手に持った荷物を落とさなかっただけ、まだましだろう。
「なあに?貴女こそ、だれ?」
恋人と見知らぬ女が、仲良く裸で抱き合っている。
女の声は甘ったるく、ありありとこちらを馬鹿にしているのが分かる。
そして、猫撫で声なのが更に私の神経を逆撫でる。
「お前、この間もう来るなって言ったよな」
「……別れてって、言われなかったから……解らなかった」
「わざわざ言わなきゃ解らないのか。……もうお前には付き合いきれない。その手に握ってる合鍵置いて、さっさと出てってくれ。そして、二度と来るな」
刺すような鋭い目で淡々と伝える恋人だった男。
情すら欠片も残っていないようだ。
「っ……!」
私は手に握り締めていた鍵を相手に投げつけて、走り去ることしかできなかった。
後々振り返って考えると、平手が握った手で一発叩いてもよかったかなと思っている。
こうして、この日。
突然に別れを切り出された。
厳密に言うと心を砕かれ、捨てられた。
* * * * *
どれくらい走ったのだろうか。
いつの間にか噴水の綺麗な広場に出た。
時間も遅いので人気はなく、薄らと街灯に照らされている。噴水の水に光が反射して、キラキラと輝いている。
噴水の見える位置にあったベンチへ腰かけた。
座ったことで初めて実感したが、足から血が出ている。膝の怪我なので、夢中で走っている間にどこかで引っ掛けたのだろう。
と言っても薄く切っただけのようで痛みはない。
彼のために着たふわりと広がる、白い花柄が可愛らしいデザインの真っ赤なスカート。今日初めて袖を通したオフショルダーの白いニット。まだ秋頃なので上着は着てない。
この服も、ピアスもネックレスも全て無駄。
そして、彼の為に作ったこのバッグの中身も無駄になった。
好物だと言っていたこの、鳥の唐揚げも。
これら全てが、何もかもが!!
私ただ一人の空回りで、無駄だったのだ。
声を上げるなんてこんな夜に迷惑なうえ、彼奴のために喚くなんてみっともない真似したくない。
だが、虚しさと哀しさと自分の馬鹿さ加減に勝手に涙が溢れる。
ぼろぼろと、次から次へと溢れる涙に止めるすべもない。
今更泣き顔を隠すのも馬鹿馬鹿しい。
どうせ誰も見てないだろう。
「ねえお嬢さん、夜中に独りでこんな所にいて、どうしたの?危ないよ?」
「……っ!」
声をかけてきた親切な人は、首を傾げて心配そうにこちらを見ているやたらと綺麗な顔をした騎士様だった?
誰もいないと思って泣いていたのに、何故今人が現れるのか!
「……っ、もしかして、泣いてた?脚、怪我してるの?歩ける?……病院やってるかなあ」
視線が合うと眉を顰め、矢継ぎ早に喋るこの男。
実際は薄く切っただけなので、怪我が分かるわけはないので勝手に足を怪我して泣いてると判断したのだろう。
夜なのでハッキリとした容姿は分からないが、薄暗くても解るほどキリッとした真面目そうな見た目。
冷静そうに判断できるような見た目なのだが、どうやら勢いだけで突っ走る部分があるようだ。
「あ、あの!大丈夫、です。ご親切に、ありがとうございます。……脚はたしいた怪我はしてないので、大丈夫です。しばらくしたらすぐ、帰りますから。……あの、お仕事中ですよね?なので、お気になさらないでください」
「でも、女性が独りでこの時間に街を歩くのは宜しくないよ。……それともここで迎えを待ってるの?」
「い、いえ。迎えは無いんですけども、ほ、ほんとに大丈夫ですので……!家も近いですし!あの、もう、放っておいてください……!」
「あ、もしかしてワケあり?家出とか?」
話が全く通じない!!
こちらの声を聞いてるのか聞いてないのか、定かではないが会話が成立してない気がする。
「……よし、ワケありならさ、家においでよ。なんだったら、手は出さないって誓うし。ほら、立って。早く早く」
「え、あの……ちょ」
「脚怪我してないんでしょ?さっさと歩く歩く」
手首をぐいぐいと引っ張られ、『家出じゃない』と言っても聞きいれて貰えずに結局そのまま家に招かれた。
そして、無駄になるはずだった料理を一緒に食べることに。
そしてどうやらその料理で彼の胃袋を掴んでしまったようだ。
「君の手料理好きだなあ。……そうだ!一緒に住もう?」
一旦保留にしたはずのこの話は翌日には決定事項になっていた。
非番なのか、彼からずっと質問されて結局帰れなかった私。
いつ注文したのか分からないが、昼には家具と洋服が。何故かサイズがぴったり。
流石にちょっと怖い。
その翌日には、家が解約されていた。
…………そう、彼はとても強引に物事を進める人だった。
そうして、最悪な一日だったのが親切な人--とは言い難いかも知れないが--のお陰で怒涛な一日となった。
「ね、結婚しよう。これ今日中に書いてね。明日一緒に出しに行こう」
「……あの、私達まだ出会って1ヶ月」
「ほら、早く早く。文字書けるでしょ?」
必要事項は全て書いてある婚姻届とペンを手渡された。
どうやら選択肢はyesしか用意されてないようだ。
「俺の事嫌いじゃないでしょ?…………え、もしかして、嫌いとか!?」
「っ好きです好きです!」
だよねと嬉しそうに笑う彼は確信犯である。
ドレスはどのタイプがいいかなー?
と、人より悩む彼に一生この強引さに振り回される予感と、一生幸せな家族になれる予感がした。
そうして電撃結婚を果たした訳である。
後日結婚式で旦那様が国1番の英雄騎士様だと気付きちょっとした騒ぎになるのだが……この時の彼女は知る由もない。
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