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2 海の国の聖人候補

248 宴会 at マホロ

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「メイロードさま、お刺身が……生の魚がこんなに美味しいなんて、反則です!!」

ソーヤがお刺身の盛り合わせの前から離れない。
右手に箸、左手に醤油皿を持ったまま、食べては涙し、また食べては味を褒め称えている。圧倒的に肉文化の帝国にいては、この新鮮な味には長く生きていても出会えなかったのかもしれない。

食卓の中央には気合の入った飾り切り付きの豪華な刺身盛り合わせ。ソーヤ力作の投網に見立てた飾り切りを上手に立てかけた大皿に盛られた、色とりどりの超新鮮な魚たちは、ピッカピカだ。

ちょうど準備が整ったタイミングで、エンジさん、ナギワさん、それにサイデム商会の支店の従業員の方2名が来てくれた。

私がお近づきのしるしに、夕食をご馳走したいので来れそうな方には声をかけてみてほしい、とお願いしていたのだ。

エンジさんはデザートにとマホロの果物盛り合わせを持ってきてくれた。

「ありがとうございます。これは、そのまま食べるものですか?」

あまり料理はしないらしいエンジさんが言葉に詰まっていると、ナギワさんがフォローしてくれた。

「ええ、もう熟していますので、どれもとても甘いです。これとこれは、青いうちに摘んで、酢の物に使ったりもしますよ」

わたしは《鑑定》しながら頷く。どうやら、この果物籠はこの招待へのお礼の手土産にエンジさんから渡すよう、ナギワさんが用意したもののようだ。

(気がきくいい部下をお持ちですね、エンジさん)

私達がやりとしている間に食卓を見た方達が歓声を上げるのが聞こえた。

「これ、野菜で作った網ですね。すごい演出!初めて見ました。それにこの刺身もすごく贅沢です。高級魚ばかりじゃないですか!美味しそう!」

さすが沿海州の方は刺身の美味しさを知っているようだ。

私も《鑑定》を駆使して最高の素材を集めてきたので、アキツの人からいい評価を受けて、かなりうれしい。

みんな揃ったところで乾杯。

飲み物はジュースやお茶、そしてアキツの地酒も用意した。
甘みの強い果物を発酵させ蒸留するそうで、かなり度数の強い透明なものだ。
香りは控えめだが、爽やか。

本当ならロックが美味しそうだが、今日はストレートか氷なしの水割り。

(グッケンス博士はあまりにも魔法使い然としているため、警戒される可能性があるので今日は皆が帰った後、来ることになっている)

刺身のために市場で買った魚醤数種、塩、それに異世界産の醤油も出してみた。

アキツの方々を見ていると、最初は慣れた味に手が出るもので、塩か魚醤に手が伸びる。

「これ美味しいですね。こんなに綺麗に切り揃えられた刺身はよっぽどの高級食堂でないとないと食べられませんよ。それに、こんなに色々な種類を一度に食べることも、大きな祝い事の宴会でもなければまずないですね」

大量の魚の鮮度を保つのはとても大変なので、少しずつ色々な刺身を揃えるのは個人宅では難しいらしい。

(冷蔵庫なし、マジックバッグなし、じゃそれはそうだろうな……)

刺身はご馳走で、普段食べる魚は塩をしたり乾燥させたりした保存食が多いそうだ。あれはあれで旨味が凝縮して良いものだけど、せっかく新鮮な食材があるのに、保存食メインとは、やはり保存手段が限られているせいで、豊かな海に囲まれてはいても、鮮魚は安定供給されていないと考えた方がいいようだ。

彼らを招待したのは、さりげなくこの国の食文化と生活の現状を知るためもあった。
やはり住民の声を聞くのがこの国の今を知る助けになりそうだ。
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