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6 謎の事件と聖人候補
1016 出撃の前に
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1016
私は美味しそうに俵形のご飯を頬張り、白身魚の西京焼きやみりんで甘味を出した卵焼きに目を細める博士に、野菜たっぷりの味噌汁を差し出す。それから、あの〝聖なる壁〟に向かってからこれまでに起こったこと、そしてエピゾフォールの末路について手短に語った。
「そうか、あの魔王が永遠に孤独な世界に幽閉されるとは……それは奴にとってもこの世の地獄であろうな。他者のない世界では奴のスキルはなんの意味もなさない。そのことに気づいたところでもう取り返しはつかんのだから、哀れなものだ」
ひとりぼっちの支配者の世界は悲しいだけの場所だろうと私も思う。自分の権能に溺れ他者を顧みなかったことの代償を、エピゾフォールはこれから永遠に近い時間の中で悔やみ続けながら苦しむのだろう。
(《王への供物》の飢えに抗えなくなっていたことを考えると、もしかしたら、もうそんな思考力すら魔王には残されていないのかもしれない。それはそれで、悲しいことね……)
「強すぎるスキルの怖さを、今回は思い知りましたよ。《王への供物》のもたらす全能感とさらなる力への渇望……あれはもう麻薬のようなものでした。でも、それがエピゾフォールの思考力まで鈍らせたおかげで、私はかろうじて抑え込めた……ということな気がします」
実際、エピゾフォールが正常な判断力をまだ保持していて、冷静な状況判断ができ一時的な撤退を図っていたら、私の戦いはもっと長引くことになっただろう。
そしてもし彼に優秀な参謀が寄り添っていたら、状況はまったく違ったものに変わっていたと思う。だが、すべてを喰らい尽くした哀れな魔王にはもうどちらもなかった。それが彼の敗因だ。
「……というわけで、もうエピゾフォールによる追撃や邪魔はもう入りません。最後の魔獣たちを片付ければ私たちの完全勝利です」
空にもうあの赤い〝糸〟はなく、エピゾフォールに与していたエスライ・タガローサもすでにこの世にいない。あのダンジョンに供給されていた邪悪な魔力はもうないのだ。
「うむ、それが聞けて憂いは消えた。すべての者が安心して戦いに赴けるじゃろう。わしも全力で討伐に望むとしよう」
グッケンス博士の表情はとても晴れやかで、食後のお茶を飲む様子には、まるで軽い散歩に出かける前のような落ち着きがあった。
「ありがとうございます、博士。〝特級魔術師〟のみなさんもご活躍ですか?」
「ああ、最初は少し〝国家魔術師〟たちとギクシャクしておったがな。戦場でのあの者たちはやはり圧倒的じゃからな。その技にすぐに見惚れておったよ」
私が思ったより〝国家魔術師〟たちは〝特級魔術師〟部隊への理解が速かったようだ。やはり〝百聞は一見にしかず〟ということなのだろう。
参戦した〝特級魔術師〟たちは、それぞれ強力な独自の魔法で魔獣たちを蹴散らしていった。その圧倒的な〝魔法力〟と魔法技術は、同じ〝特級魔術師〟レベルの〝国家魔術師〟たちはもちろん、そのほかの魔術師たちにも認めざるを得ない実力を見せつけた。
「おい、あんな魔法見たことないぞ。独自魔法を構築したのか?」
「それより、見ろよ。あの魔法をあんな広域に展開できるなんて信じられん〝魔法力〟だ」
「あの部隊は次元が違う。彼らがいれば、この戦い勝てるぞ!」
そのあらゆる強力な魔法が飛び交う派手な戦いぶりは、疲弊し始めていた前線の者たちの士気をいやがうえにも高めていったという。
(なるほどね。〝特級魔術師〟部隊のおかげで、戦況は上向き。士気も高い。これなら撃退できそう)
私は出撃するグッケンス博士に聞いた。
「この戦い、勝てますよね」
博士はうなずいた。
「ああ、この布陣であれば勝てるじゃろう。とはいえ最後に出てくる魔獣が一番厄介だろうからの。まだ、油断はできぬ」
「大丈夫ですよ。きっと、天もみなさんを助けてくれます。でも、どうかお気をつけて!」
私の言葉に、博士は苦笑しながらこう言って天幕を出て行った。
「それはありがたいことじゃが、その〝天〟とやらに、くれぐれも無茶はせんように言っておいておくれ」
私は美味しそうに俵形のご飯を頬張り、白身魚の西京焼きやみりんで甘味を出した卵焼きに目を細める博士に、野菜たっぷりの味噌汁を差し出す。それから、あの〝聖なる壁〟に向かってからこれまでに起こったこと、そしてエピゾフォールの末路について手短に語った。
「そうか、あの魔王が永遠に孤独な世界に幽閉されるとは……それは奴にとってもこの世の地獄であろうな。他者のない世界では奴のスキルはなんの意味もなさない。そのことに気づいたところでもう取り返しはつかんのだから、哀れなものだ」
ひとりぼっちの支配者の世界は悲しいだけの場所だろうと私も思う。自分の権能に溺れ他者を顧みなかったことの代償を、エピゾフォールはこれから永遠に近い時間の中で悔やみ続けながら苦しむのだろう。
(《王への供物》の飢えに抗えなくなっていたことを考えると、もしかしたら、もうそんな思考力すら魔王には残されていないのかもしれない。それはそれで、悲しいことね……)
「強すぎるスキルの怖さを、今回は思い知りましたよ。《王への供物》のもたらす全能感とさらなる力への渇望……あれはもう麻薬のようなものでした。でも、それがエピゾフォールの思考力まで鈍らせたおかげで、私はかろうじて抑え込めた……ということな気がします」
実際、エピゾフォールが正常な判断力をまだ保持していて、冷静な状況判断ができ一時的な撤退を図っていたら、私の戦いはもっと長引くことになっただろう。
そしてもし彼に優秀な参謀が寄り添っていたら、状況はまったく違ったものに変わっていたと思う。だが、すべてを喰らい尽くした哀れな魔王にはもうどちらもなかった。それが彼の敗因だ。
「……というわけで、もうエピゾフォールによる追撃や邪魔はもう入りません。最後の魔獣たちを片付ければ私たちの完全勝利です」
空にもうあの赤い〝糸〟はなく、エピゾフォールに与していたエスライ・タガローサもすでにこの世にいない。あのダンジョンに供給されていた邪悪な魔力はもうないのだ。
「うむ、それが聞けて憂いは消えた。すべての者が安心して戦いに赴けるじゃろう。わしも全力で討伐に望むとしよう」
グッケンス博士の表情はとても晴れやかで、食後のお茶を飲む様子には、まるで軽い散歩に出かける前のような落ち着きがあった。
「ありがとうございます、博士。〝特級魔術師〟のみなさんもご活躍ですか?」
「ああ、最初は少し〝国家魔術師〟たちとギクシャクしておったがな。戦場でのあの者たちはやはり圧倒的じゃからな。その技にすぐに見惚れておったよ」
私が思ったより〝国家魔術師〟たちは〝特級魔術師〟部隊への理解が速かったようだ。やはり〝百聞は一見にしかず〟ということなのだろう。
参戦した〝特級魔術師〟たちは、それぞれ強力な独自の魔法で魔獣たちを蹴散らしていった。その圧倒的な〝魔法力〟と魔法技術は、同じ〝特級魔術師〟レベルの〝国家魔術師〟たちはもちろん、そのほかの魔術師たちにも認めざるを得ない実力を見せつけた。
「おい、あんな魔法見たことないぞ。独自魔法を構築したのか?」
「それより、見ろよ。あの魔法をあんな広域に展開できるなんて信じられん〝魔法力〟だ」
「あの部隊は次元が違う。彼らがいれば、この戦い勝てるぞ!」
そのあらゆる強力な魔法が飛び交う派手な戦いぶりは、疲弊し始めていた前線の者たちの士気をいやがうえにも高めていったという。
(なるほどね。〝特級魔術師〟部隊のおかげで、戦況は上向き。士気も高い。これなら撃退できそう)
私は出撃するグッケンス博士に聞いた。
「この戦い、勝てますよね」
博士はうなずいた。
「ああ、この布陣であれば勝てるじゃろう。とはいえ最後に出てくる魔獣が一番厄介だろうからの。まだ、油断はできぬ」
「大丈夫ですよ。きっと、天もみなさんを助けてくれます。でも、どうかお気をつけて!」
私の言葉に、博士は苦笑しながらこう言って天幕を出て行った。
「それはありがたいことじゃが、その〝天〟とやらに、くれぐれも無茶はせんように言っておいておくれ」
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