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6 謎の事件と聖人候補
989 〝パレス・フロレンシア〟の従業員
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989
私をなるべく危険から遠ざけようとしてくれるありがたい保護者の皆さんに心配をかけないようまずは根回しと考えた私は《念話》を始めた。
〔セイリュウ、私明日は〝パレス近郊新ダンジョン〟を見に行ってみようと思うの〕
〔ええ! どうして? まさか闘いに……〕
〔ああ、心配しないで、そうじゃないの。ただ、上空に現れたっていう赤黒い球体がどうしても気になるのよ〕
〔……確かにね。まだ正体不明だけど、あれは禍々しいものみたいだ〕
〔でも、いまは悪さをしているってわけじゃないから、見に行っても危険はないでしょ?〕
〔そうだね。でも気をつけて!〕
〔大丈夫よ。さっきグッケンス博士に《伝令》を送って明日行くと知らせたら、一緒に現場に来てくれることになったから〕
〔それならひとまず安心かな。でも、何かあったらすぐ知らせてね〕
〔わかってる。セイリュウも気をつけて〕
今回は戦場に赴くことになるので、セーヤとソーヤもボディーガードについてきてくれる。
(隠れて見てくるだけだし、グッケンス博士も一緒だし、ひとりでいいよって言ったんだけど、ふたりで猛反対されちゃって、その圧に負けちゃった。ホントに心配性なんだから……)
そして翌日、私たちは《無限回廊の扉》を抜け、開店休業中の〝パレス・フロレンシア〟へとまず向かった。パレスに行くといっても身ひとつで気軽に移動でくるのだから《無限回廊の扉》さまさまだ。
ドアから出てきた私たちを見つけたセララが、いきなりすべてを放り出して細工用の作業机から立ち上がり、前掛けを外そうとするので、私はそれを制した。
「そんなにあわてないで。キリのいいところまで作業を続けていいのよ」
セララは〝パレス・フロレンシア〟の店員としてしっかり仕事をしてくれているが、同時に彫金師としての修行も頑張っている。仕事がないときはこうして寸暇を惜しんで細工物に打ち込んでいて、私もそれを奨励していた。
「ああ、セララ。本当に気にしないでちょうだい。お茶も自分たちで淹れるし、空き時間はいくらでも練習していていいんだからね」
「ありがとうございます、メイロードさま」
いまのパレスは宝飾品を買い求めるような状況ではないため、私の高級宝飾店も御多分に洩れず閑古鳥が鳴いている。こういうときこそ、時間があるのだから修行に集中できるいい機会だろう。
どうやらセララが取り組んでいるのはカメオのような彫刻だ。
色の違う層になった素材を削り出して形を作るもので、植物や人の横顔などがよくモチーフになっている。
私は机に並べられていたセララが作ったらしい、いくつかの大きめの硬貨ぐらいの作品を見て〝おやっ?〟と思った。
「もしかして、これって全部……」
「はい! メイロードさまでございます」
セララは満面の笑みだ。
「これ以上神々しく、優しげでお美しい横顔をお持ちの方を私は知りません。ですから、人を彫ろうとするとどうしてもメイロードさまになってしまうのでございます」
「あ……そうなんだ」
私の横からセーヤが顔を出す。
「おお、実に素晴らしい彫刻でございますね。この髪の彫り方が素晴らしい! ああ、こちらにメイロードさまの髪型を記録した資料がございますので、ぜひこれも参考になさってくださいませ」
そういうと、セーヤは机に何冊ものノートを積み上げた。
それをみてセララは一瞬驚いていたが、すぐに目を輝かせ、ふたりで髪型談義を始める。
「ああ、この細かな花を散らした髪型は実に愛らしいですね」
「ええ、これは私が高山へ理想の花を探しに行って完成させた髪型です」
「このリボンを編み込んだ髪型も、上手に彫り込めば面白い効果が出そうです」
「このリボンは、メイロードさましか製法を知らない特別なものでして……」
なんだかやけに楽しそうなので、しばらく放っておくことにして、私はソーヤと話す。
「グッケンス博士がここへきてくれるから、それから出かけましょうか。見つからないようにするために〝アタタガ・フライ〟に《迷彩魔法》をかけてから乗り込んで現場に近づこうと思うの」
「そうでございますね。例の気味の悪い球体は空のかなり高い場所にあるといいますから、アタタガに乗って近づければ、かなり近くで観察できると思います」
私のことを心配しながらも、やりたいことには反対しないソーヤの少し心配げな顔に、私は微笑みながらこう返す。
「大丈夫、見るだけよ。それに……十分距離は取るし、気をつけるわ。グッケンス博士も一緒だもの、危ないことはないでしょう」
「そうでございますね。我々も全力でお守りいたします」
「ふふ、ありがとうね」
しばらくすると《無限回廊の扉》からのっそりとグッケンス博士が現れた。少しお疲れの様子だ。
(きっとまた無理してるんだろうなぁ)
「ソーヤ、出かける前に食事をしましょう! 持ってきたバスケットを!」
「はい! すぐにご用意いたします」
(まずはしっかり食べてから、おでかけしましょうか)
私をなるべく危険から遠ざけようとしてくれるありがたい保護者の皆さんに心配をかけないようまずは根回しと考えた私は《念話》を始めた。
〔セイリュウ、私明日は〝パレス近郊新ダンジョン〟を見に行ってみようと思うの〕
〔ええ! どうして? まさか闘いに……〕
〔ああ、心配しないで、そうじゃないの。ただ、上空に現れたっていう赤黒い球体がどうしても気になるのよ〕
〔……確かにね。まだ正体不明だけど、あれは禍々しいものみたいだ〕
〔でも、いまは悪さをしているってわけじゃないから、見に行っても危険はないでしょ?〕
〔そうだね。でも気をつけて!〕
〔大丈夫よ。さっきグッケンス博士に《伝令》を送って明日行くと知らせたら、一緒に現場に来てくれることになったから〕
〔それならひとまず安心かな。でも、何かあったらすぐ知らせてね〕
〔わかってる。セイリュウも気をつけて〕
今回は戦場に赴くことになるので、セーヤとソーヤもボディーガードについてきてくれる。
(隠れて見てくるだけだし、グッケンス博士も一緒だし、ひとりでいいよって言ったんだけど、ふたりで猛反対されちゃって、その圧に負けちゃった。ホントに心配性なんだから……)
そして翌日、私たちは《無限回廊の扉》を抜け、開店休業中の〝パレス・フロレンシア〟へとまず向かった。パレスに行くといっても身ひとつで気軽に移動でくるのだから《無限回廊の扉》さまさまだ。
ドアから出てきた私たちを見つけたセララが、いきなりすべてを放り出して細工用の作業机から立ち上がり、前掛けを外そうとするので、私はそれを制した。
「そんなにあわてないで。キリのいいところまで作業を続けていいのよ」
セララは〝パレス・フロレンシア〟の店員としてしっかり仕事をしてくれているが、同時に彫金師としての修行も頑張っている。仕事がないときはこうして寸暇を惜しんで細工物に打ち込んでいて、私もそれを奨励していた。
「ああ、セララ。本当に気にしないでちょうだい。お茶も自分たちで淹れるし、空き時間はいくらでも練習していていいんだからね」
「ありがとうございます、メイロードさま」
いまのパレスは宝飾品を買い求めるような状況ではないため、私の高級宝飾店も御多分に洩れず閑古鳥が鳴いている。こういうときこそ、時間があるのだから修行に集中できるいい機会だろう。
どうやらセララが取り組んでいるのはカメオのような彫刻だ。
色の違う層になった素材を削り出して形を作るもので、植物や人の横顔などがよくモチーフになっている。
私は机に並べられていたセララが作ったらしい、いくつかの大きめの硬貨ぐらいの作品を見て〝おやっ?〟と思った。
「もしかして、これって全部……」
「はい! メイロードさまでございます」
セララは満面の笑みだ。
「これ以上神々しく、優しげでお美しい横顔をお持ちの方を私は知りません。ですから、人を彫ろうとするとどうしてもメイロードさまになってしまうのでございます」
「あ……そうなんだ」
私の横からセーヤが顔を出す。
「おお、実に素晴らしい彫刻でございますね。この髪の彫り方が素晴らしい! ああ、こちらにメイロードさまの髪型を記録した資料がございますので、ぜひこれも参考になさってくださいませ」
そういうと、セーヤは机に何冊ものノートを積み上げた。
それをみてセララは一瞬驚いていたが、すぐに目を輝かせ、ふたりで髪型談義を始める。
「ああ、この細かな花を散らした髪型は実に愛らしいですね」
「ええ、これは私が高山へ理想の花を探しに行って完成させた髪型です」
「このリボンを編み込んだ髪型も、上手に彫り込めば面白い効果が出そうです」
「このリボンは、メイロードさましか製法を知らない特別なものでして……」
なんだかやけに楽しそうなので、しばらく放っておくことにして、私はソーヤと話す。
「グッケンス博士がここへきてくれるから、それから出かけましょうか。見つからないようにするために〝アタタガ・フライ〟に《迷彩魔法》をかけてから乗り込んで現場に近づこうと思うの」
「そうでございますね。例の気味の悪い球体は空のかなり高い場所にあるといいますから、アタタガに乗って近づければ、かなり近くで観察できると思います」
私のことを心配しながらも、やりたいことには反対しないソーヤの少し心配げな顔に、私は微笑みながらこう返す。
「大丈夫、見るだけよ。それに……十分距離は取るし、気をつけるわ。グッケンス博士も一緒だもの、危ないことはないでしょう」
「そうでございますね。我々も全力でお守りいたします」
「ふふ、ありがとうね」
しばらくすると《無限回廊の扉》からのっそりとグッケンス博士が現れた。少しお疲れの様子だ。
(きっとまた無理してるんだろうなぁ)
「ソーヤ、出かける前に食事をしましょう! 持ってきたバスケットを!」
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