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6 謎の事件と聖人候補
986 セイリュウ調査する
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986
私はこうして遠距離の《念話》で簡単に連絡ができることに感謝しつつ、通信を始める。
通常の《念話》だけでも本当に便利なのだが、以前に試してわかった通り〝天舟〟で移動するような距離では使えない。ところが神の眷属であるセイリュウと女神ソフィーラ様のお気に入りらしい私の間の《念話》はほぼ距離が関係ないのだ。
(最初はびっくりしたなぁ。セイリュウも驚いてたもん)
だから呼びかけさえすれば、セイリュウが世界のどこを飛び回っていても話すことができる。
〔セイリュウ、セイリュウ! いまどこにいるの?〕
〔聞こえているよ、メイロード。どうやらパレスの〝巨大暴走〟は始まったようだね。僕はいま、少し気になることがあって、沿海州に来てる〕
〔沿海州? いったいなぜセイリュウはそんな場所にいるの?〕
セイリュウはグッケンス博士から〝巨大暴走〟に対抗する帝国軍の布陣について詳しく聞き、しばらくはその対応を彼らだけに任せても大丈夫そうだと判断したという。それで、別のアプローチを試してみようと考えたそうだ。
〔今回の事件の実行犯は〝ストーム商会〟そして、その資金を出し、商会を操っていたのは元帝国の代理人のエスライ・タガローサだったよね。でもさ、本当の黒幕は〝聖なる壁〟の向こうにいる魔王エピゾフォールだ〕
〔そうですね。どうしてタガローサとエピゾフォールがつながったのかは謎ですが、ふたりの共犯関係はこれまでの調査からして、ほぼ間違いない気がします〕
〔そうだよね。だとすれば、彼らを止めなきゃ、本当の意味でのこの騒動の終わりは来ないと僕も思う〕
セイリュウは、今回の一連の事件の解決にはエピゾフォールの所在をはっきりさせることが必須だと考えていた。それで、魔王の場所を特定しようと、いままででもっともエピゾフォールの影が濃く表れていた沿海州で、これまでも情報を集めていたそうだ。
〔シド帝国じゃ、やたらと遠回りな嫌がらせのような〝呪い〟をかけたりするぐらいだったエピゾフォールが、沿海州でやらかしてくれたときには短い間だけど言葉を交わすことができるほど実体化していたでしょ? そう考えると、おそらく沿海州付近の〝聖なる壁〟に近い場所でその破壊工作をしているんじゃないかと思うんだよ〕
〝天地教〟の巫女であったセイカが呪われることになった過去の事件で、たしかに私も禍々しい謎の声を聞いた。あれがエピゾフォールだとすれば、確かにその実態を感じられた唯一の事象は沿海州だったといえる。
(シド帝国でのいくつかの時間をかけた間接的な攻撃と比べて、沿海州でのやり方のほうがだいぶ強力で直接的といえるかもしれない。それだけの影響が与えられるということは魔王の本体に近いってことなのかしら)
セイリュウは今回の事件の元凶であるエピゾフォールを封じることができなければ、この〝巨大災厄〟の終息も不可能だと考え、単独でその調査を続け位置を特定しつつあるらしい。
だがセイリュウは、まだ執念深いこの魔王の意図を掴みかねていた。
〔エピゾフォールがなぜこんなことをしたのか、それがもうひとつわからない。〝聖なる壁〟は強力だ。魔王といえど〝エイガン大陸〟から戦争を仕掛けるようなことはできないはずだ。
それでも少しでも壁を壊し続けるのは、人間に対する怒りなのか、嫌がらせでしかないのか……とてつもない悪意は確かに感じるけど、奴は何をしようとしているんだろうね〕
エピゾフォールの目的、それはただ人間の世界へ干渉したいということだけではないだろう。
〔エピゾフォールは本格的に〝聖なる壁〟を壊そうとしているのではないですか?〕
〔それは……まずいよね。まだごくごく小さな影響を与えられる程度だけど、奴の破壊は成功しているしなぁ。これは由々しき事態だよ。なんとか、エピゾフォールが破壊しようとしている壁の場所を突き止めて、壁を修復する方法を見つけないとね〕
私は頬に手を当てため息をつくしかなかった。
〔……それしかないですね。お願いします。私にできることがあれば、いつでも飛んでいきますよ〕
〔ありがとう、そうならないことを祈るけどね。ところで、僕に用事があったんじゃないの、メイロード?〕
私ははっとして、あわててセイリュウにこちらで起こっている不識な状況について説明した。
〔ヒスイが教えてくれたんですが、とても不気味な赤黒い球体が魔物たちの上方にあるんです。ちいさなものですが、薄気味悪くて、なんなのかセイリュウならわかるかな、と〕
〔赤黒い小さな球体か……わかった。心当たりはあるけど、ちょっと様子が見たいかな。それについてもすぐに調べるよ〕
〔ありがとう、相手は魔王よ。気をつけてね。セイリュウ〕
戦いは始まってしまった。もう、終わるまで心静かな日は来ないような気がする。
それでも私はみんなの無事を祈りながら、豊作のさつまいも〝紅あずま〟を収穫し、どう料理するかソーヤと考えることで、なんとか日常に留まっていた。
私はこうして遠距離の《念話》で簡単に連絡ができることに感謝しつつ、通信を始める。
通常の《念話》だけでも本当に便利なのだが、以前に試してわかった通り〝天舟〟で移動するような距離では使えない。ところが神の眷属であるセイリュウと女神ソフィーラ様のお気に入りらしい私の間の《念話》はほぼ距離が関係ないのだ。
(最初はびっくりしたなぁ。セイリュウも驚いてたもん)
だから呼びかけさえすれば、セイリュウが世界のどこを飛び回っていても話すことができる。
〔セイリュウ、セイリュウ! いまどこにいるの?〕
〔聞こえているよ、メイロード。どうやらパレスの〝巨大暴走〟は始まったようだね。僕はいま、少し気になることがあって、沿海州に来てる〕
〔沿海州? いったいなぜセイリュウはそんな場所にいるの?〕
セイリュウはグッケンス博士から〝巨大暴走〟に対抗する帝国軍の布陣について詳しく聞き、しばらくはその対応を彼らだけに任せても大丈夫そうだと判断したという。それで、別のアプローチを試してみようと考えたそうだ。
〔今回の事件の実行犯は〝ストーム商会〟そして、その資金を出し、商会を操っていたのは元帝国の代理人のエスライ・タガローサだったよね。でもさ、本当の黒幕は〝聖なる壁〟の向こうにいる魔王エピゾフォールだ〕
〔そうですね。どうしてタガローサとエピゾフォールがつながったのかは謎ですが、ふたりの共犯関係はこれまでの調査からして、ほぼ間違いない気がします〕
〔そうだよね。だとすれば、彼らを止めなきゃ、本当の意味でのこの騒動の終わりは来ないと僕も思う〕
セイリュウは、今回の一連の事件の解決にはエピゾフォールの所在をはっきりさせることが必須だと考えていた。それで、魔王の場所を特定しようと、いままででもっともエピゾフォールの影が濃く表れていた沿海州で、これまでも情報を集めていたそうだ。
〔シド帝国じゃ、やたらと遠回りな嫌がらせのような〝呪い〟をかけたりするぐらいだったエピゾフォールが、沿海州でやらかしてくれたときには短い間だけど言葉を交わすことができるほど実体化していたでしょ? そう考えると、おそらく沿海州付近の〝聖なる壁〟に近い場所でその破壊工作をしているんじゃないかと思うんだよ〕
〝天地教〟の巫女であったセイカが呪われることになった過去の事件で、たしかに私も禍々しい謎の声を聞いた。あれがエピゾフォールだとすれば、確かにその実態を感じられた唯一の事象は沿海州だったといえる。
(シド帝国でのいくつかの時間をかけた間接的な攻撃と比べて、沿海州でのやり方のほうがだいぶ強力で直接的といえるかもしれない。それだけの影響が与えられるということは魔王の本体に近いってことなのかしら)
セイリュウは今回の事件の元凶であるエピゾフォールを封じることができなければ、この〝巨大災厄〟の終息も不可能だと考え、単独でその調査を続け位置を特定しつつあるらしい。
だがセイリュウは、まだ執念深いこの魔王の意図を掴みかねていた。
〔エピゾフォールがなぜこんなことをしたのか、それがもうひとつわからない。〝聖なる壁〟は強力だ。魔王といえど〝エイガン大陸〟から戦争を仕掛けるようなことはできないはずだ。
それでも少しでも壁を壊し続けるのは、人間に対する怒りなのか、嫌がらせでしかないのか……とてつもない悪意は確かに感じるけど、奴は何をしようとしているんだろうね〕
エピゾフォールの目的、それはただ人間の世界へ干渉したいということだけではないだろう。
〔エピゾフォールは本格的に〝聖なる壁〟を壊そうとしているのではないですか?〕
〔それは……まずいよね。まだごくごく小さな影響を与えられる程度だけど、奴の破壊は成功しているしなぁ。これは由々しき事態だよ。なんとか、エピゾフォールが破壊しようとしている壁の場所を突き止めて、壁を修復する方法を見つけないとね〕
私は頬に手を当てため息をつくしかなかった。
〔……それしかないですね。お願いします。私にできることがあれば、いつでも飛んでいきますよ〕
〔ありがとう、そうならないことを祈るけどね。ところで、僕に用事があったんじゃないの、メイロード?〕
私ははっとして、あわててセイリュウにこちらで起こっている不識な状況について説明した。
〔ヒスイが教えてくれたんですが、とても不気味な赤黒い球体が魔物たちの上方にあるんです。ちいさなものですが、薄気味悪くて、なんなのかセイリュウならわかるかな、と〕
〔赤黒い小さな球体か……わかった。心当たりはあるけど、ちょっと様子が見たいかな。それについてもすぐに調べるよ〕
〔ありがとう、相手は魔王よ。気をつけてね。セイリュウ〕
戦いは始まってしまった。もう、終わるまで心静かな日は来ないような気がする。
それでも私はみんなの無事を祈りながら、豊作のさつまいも〝紅あずま〟を収穫し、どう料理するかソーヤと考えることで、なんとか日常に留まっていた。
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