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6 謎の事件と聖人候補
963 教区長室への潜入
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963
「うわっ! 〝ラッカービー〟がいるぞ! 気をつけろ!」
とても通る声が、教会の炊き出しや配給を求め街の人が集う場所で発せられると、みんなあっという間にその場から逃げ出した。思った以上に〝ラッカービー〟の痒み攻撃は周知されていて、心底嫌がられている魔物のようだ。
ありがたいことに声での警告だけで人々は顔色を変え、蜘蛛の子を散らすように逃げ始めてくれた。
「〝ラッカービー〟の巣が教会の庭にあるぞ! 近づくな!」
「教会の建物にも入り込んでいる! ボヤボヤしていると刺されるぞ! みんな離れろー!」
その後もヒスイに選別してもらった無害な〝ラッカービー〟を何匹か目につきやすい場所で放ちつつ、ソーヤは姿を隠しながら声色を使って〝警告〟を続けた。〝ラッカービー〟に刺される恐怖のため、すべてを放り出して全速で逃げてくれたので、すぐ教会周辺から人がいなくなったのだ。
(《索敵》でもチェックしてみたけど、避難誘導は完璧のようね)
即席の作戦だったが効果は抜群。サシャさんたち教会の人たちも、不安そうに教会を見ながら敷地外で立ち尽くしている。
「大丈夫ですよ。すぐに〝冒険者ギルド〟へ依頼を出しますからね。しばらくすれば戻れますよ」
司祭らしき男性がそう言って周囲の人たちを安心させていたので、時間は十分に稼げそうだ。
(それじゃ、その害獣駆除の得意な冒険者さんが来る前に、こちらの作戦を遂行しなくちゃね)
遠巻きに教会を見つめている人たちの間をすり抜けて、《隠蔽魔法》で姿を消した私は教会へと近づいていった。目指すはあの部屋だ。
(〝教区長室〟にある暖炉……あれを破壊する!)
ここでひとつ問題が発生する。
教会内に残っていた人たちが〝ラッカービー〟の侵入を恐れて、すべての窓や扉を閉めてしまったのだ。元々寒さが厳しくなり始めたこの季節なので、教会には窓を開けている場所は少なく、いまはその数少ない侵入可能な窓や扉もすべてぴっちりと閉められてしまった。
とりあえず増築された教区長室のある奥の区画までやってきたものの、侵入可能そうな場所がない。
「どういたしましょうか、メイロードさま。どこか他の入れる場所を探して……」
すぐに行動に移ろうとするソーヤを私は制した。
「ここはもう、元から教会のあった場所じゃなく、あの教区長が彼らの目的のために増築した場所よ。そんなの尊重してあげる必要ないでしょう?」
私の言葉にソーヤはうなずく。
「誠にその通りでございますね。では……」
「あ、壁を壊すのならちょっと待ってね。音を聞いてなにかあったと思った教会の人が来てしまうと危ないから、まずは周囲に《防音結界》を張るわ。はい、これで大丈夫」
「では!」
次の瞬間にはソーヤが教区長室に一番近い場所の壁をぶち抜いた。結構な轟音だったが、結界のおかげで外の人たちにこの場所の異変が伝わることはないだろう。
崩れた壁から侵入し、教区長室の大きな扉の前にやってくると、再びソーヤが今度は教区長室の扉を蹴破ろうとした。だが、その扉はかなり強固でソーヤの攻撃を跳ね返す。
「聖職者の部屋に必要とは思えない馬鹿げた《防御結界》を張っているようでございますね。力押しでは破るのに時間がかかりそうです」
呆れ顔でそう言うソーヤ。
どう考えても、人々を受け入れるための教会の一室にこんな強固な結界が施されているなど、異常だし、あり得ない。
(ここはとーっても怪しいですよ、って言っているも同じよね)
ここで私はプチっと何かが切れてしまった。
「私も伊達に〝壁抜き〟なんて称号はもらってないわ! それにこの扉を壊すことになんの後ろめたさも感じないし。危ないから下がっててね」
周囲の安全確認と自分の周囲への防御結界を張ったあと、私はポケットから小さな石を取り出した。それは私が粉砕した鋼より硬い〝絶対に砕けない〟とされているダンジョンの壁のカケラだ。時間があまりなかったので少し歪んでいるが、魔法を使ってカケラ同士をぶつける研磨を行ったので、だいぶ丸くなった。
「これを芯にして、ぶち壊すよー!それ 《流風石弾》!」
渦を巻く風が猛スピードで扉に襲いかかると、芯が着弾した瞬間に扉に中心からミシミシという音と共に無数の亀裂が入り、その刹那大きな扉は跡形もなく吹き飛んだ。
「おみごとでございます!」
ソーヤがパチパチと手を叩いて喜んでる声がするが、目の前にはそれと正反対の表情をする人物の姿があった。
「化け物がぁ‼︎」
中にいた男は爆風のせいか髪を振り乱し、引き攣った顔でこちらを睨みつけていた。彼がここにいることは私の《索敵》で確認済みだ。
「教区長様……いえ、ラケルタ・バージェさん。そこをどいてくださいます? 邪魔なので」
私の声は自分でも驚くほど静かなものだった。
「ここはお前のような神に仇なす者が近づいて良い場所ではない! 不埒者め! さっさとこの教会から出ていけ!」
そう言いながらバージェは、私たちに魔法攻撃をぶつけ始めた。出ていけと言いながら、生かして返す気はなさそうだ。炎を駆使したバージェの魔法はなかなか強力だったが、そんなものがグッケンス博士仕込みのゴリゴリの結界魔法使いである私に効くわけもない。
「ぐっ!」
まったく動じる様子すらみせない無傷の小娘相手にバージェはしばらく魔法を打ち続けて、そこで打つ手がなくなったのか動きを止める。
「なぜだ! なぜ私の魔法が効かないんだ!」
息を切らし注意力も散漫になったバージェ。それをみてソーヤがあっという間に背後に回って距離を詰め、そのまま背中に蹴りを入れると、疲弊した教区長様はすごい勢いで顔面から地面に倒れ込み、そのままピクリとも動かなくなってしまった。
「やり過ぎでしたか?」
少しオズオズとソーヤは聞いてきたが、私は笑顔で首を振った。
「ありがとう、手間が省けていいわ。さあ、それじゃ、お仕事の仕上げといきましょう!」
「うわっ! 〝ラッカービー〟がいるぞ! 気をつけろ!」
とても通る声が、教会の炊き出しや配給を求め街の人が集う場所で発せられると、みんなあっという間にその場から逃げ出した。思った以上に〝ラッカービー〟の痒み攻撃は周知されていて、心底嫌がられている魔物のようだ。
ありがたいことに声での警告だけで人々は顔色を変え、蜘蛛の子を散らすように逃げ始めてくれた。
「〝ラッカービー〟の巣が教会の庭にあるぞ! 近づくな!」
「教会の建物にも入り込んでいる! ボヤボヤしていると刺されるぞ! みんな離れろー!」
その後もヒスイに選別してもらった無害な〝ラッカービー〟を何匹か目につきやすい場所で放ちつつ、ソーヤは姿を隠しながら声色を使って〝警告〟を続けた。〝ラッカービー〟に刺される恐怖のため、すべてを放り出して全速で逃げてくれたので、すぐ教会周辺から人がいなくなったのだ。
(《索敵》でもチェックしてみたけど、避難誘導は完璧のようね)
即席の作戦だったが効果は抜群。サシャさんたち教会の人たちも、不安そうに教会を見ながら敷地外で立ち尽くしている。
「大丈夫ですよ。すぐに〝冒険者ギルド〟へ依頼を出しますからね。しばらくすれば戻れますよ」
司祭らしき男性がそう言って周囲の人たちを安心させていたので、時間は十分に稼げそうだ。
(それじゃ、その害獣駆除の得意な冒険者さんが来る前に、こちらの作戦を遂行しなくちゃね)
遠巻きに教会を見つめている人たちの間をすり抜けて、《隠蔽魔法》で姿を消した私は教会へと近づいていった。目指すはあの部屋だ。
(〝教区長室〟にある暖炉……あれを破壊する!)
ここでひとつ問題が発生する。
教会内に残っていた人たちが〝ラッカービー〟の侵入を恐れて、すべての窓や扉を閉めてしまったのだ。元々寒さが厳しくなり始めたこの季節なので、教会には窓を開けている場所は少なく、いまはその数少ない侵入可能な窓や扉もすべてぴっちりと閉められてしまった。
とりあえず増築された教区長室のある奥の区画までやってきたものの、侵入可能そうな場所がない。
「どういたしましょうか、メイロードさま。どこか他の入れる場所を探して……」
すぐに行動に移ろうとするソーヤを私は制した。
「ここはもう、元から教会のあった場所じゃなく、あの教区長が彼らの目的のために増築した場所よ。そんなの尊重してあげる必要ないでしょう?」
私の言葉にソーヤはうなずく。
「誠にその通りでございますね。では……」
「あ、壁を壊すのならちょっと待ってね。音を聞いてなにかあったと思った教会の人が来てしまうと危ないから、まずは周囲に《防音結界》を張るわ。はい、これで大丈夫」
「では!」
次の瞬間にはソーヤが教区長室に一番近い場所の壁をぶち抜いた。結構な轟音だったが、結界のおかげで外の人たちにこの場所の異変が伝わることはないだろう。
崩れた壁から侵入し、教区長室の大きな扉の前にやってくると、再びソーヤが今度は教区長室の扉を蹴破ろうとした。だが、その扉はかなり強固でソーヤの攻撃を跳ね返す。
「聖職者の部屋に必要とは思えない馬鹿げた《防御結界》を張っているようでございますね。力押しでは破るのに時間がかかりそうです」
呆れ顔でそう言うソーヤ。
どう考えても、人々を受け入れるための教会の一室にこんな強固な結界が施されているなど、異常だし、あり得ない。
(ここはとーっても怪しいですよ、って言っているも同じよね)
ここで私はプチっと何かが切れてしまった。
「私も伊達に〝壁抜き〟なんて称号はもらってないわ! それにこの扉を壊すことになんの後ろめたさも感じないし。危ないから下がっててね」
周囲の安全確認と自分の周囲への防御結界を張ったあと、私はポケットから小さな石を取り出した。それは私が粉砕した鋼より硬い〝絶対に砕けない〟とされているダンジョンの壁のカケラだ。時間があまりなかったので少し歪んでいるが、魔法を使ってカケラ同士をぶつける研磨を行ったので、だいぶ丸くなった。
「これを芯にして、ぶち壊すよー!それ 《流風石弾》!」
渦を巻く風が猛スピードで扉に襲いかかると、芯が着弾した瞬間に扉に中心からミシミシという音と共に無数の亀裂が入り、その刹那大きな扉は跡形もなく吹き飛んだ。
「おみごとでございます!」
ソーヤがパチパチと手を叩いて喜んでる声がするが、目の前にはそれと正反対の表情をする人物の姿があった。
「化け物がぁ‼︎」
中にいた男は爆風のせいか髪を振り乱し、引き攣った顔でこちらを睨みつけていた。彼がここにいることは私の《索敵》で確認済みだ。
「教区長様……いえ、ラケルタ・バージェさん。そこをどいてくださいます? 邪魔なので」
私の声は自分でも驚くほど静かなものだった。
「ここはお前のような神に仇なす者が近づいて良い場所ではない! 不埒者め! さっさとこの教会から出ていけ!」
そう言いながらバージェは、私たちに魔法攻撃をぶつけ始めた。出ていけと言いながら、生かして返す気はなさそうだ。炎を駆使したバージェの魔法はなかなか強力だったが、そんなものがグッケンス博士仕込みのゴリゴリの結界魔法使いである私に効くわけもない。
「ぐっ!」
まったく動じる様子すらみせない無傷の小娘相手にバージェはしばらく魔法を打ち続けて、そこで打つ手がなくなったのか動きを止める。
「なぜだ! なぜ私の魔法が効かないんだ!」
息を切らし注意力も散漫になったバージェ。それをみてソーヤがあっという間に背後に回って距離を詰め、そのまま背中に蹴りを入れると、疲弊した教区長様はすごい勢いで顔面から地面に倒れ込み、そのままピクリとも動かなくなってしまった。
「やり過ぎでしたか?」
少しオズオズとソーヤは聞いてきたが、私は笑顔で首を振った。
「ありがとう、手間が省けていいわ。さあ、それじゃ、お仕事の仕上げといきましょう!」
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