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6 謎の事件と聖人候補
960 決断の行方
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960
「冒険者クラン〝金獅子の咆哮〟の代表を務めておりますエルディアス・テーセウスでございます」
シド軍部の将軍のお歴々に囲まれ、その視線を一身に浴びるテーセウスさん。
しかもテーセウスさんは立ったままで証言をするようで、舞台こそないものの強面だらけの場所でひとりステージに上げられているという私なら震え上がりそうな状況だ。
時間が惜しいので、社交辞令は不要にするようにとの言葉がドール参謀からあり、証言が始められた。
「我々はパレス近郊に突如出来上がった新ダンジョンに先日まで挑んでおりました。〝金獅子の咆哮〟〝朝日の誓約〟〝剣士の荷馬車〟三つのクランが合同し、困難はありましたが、十分な調査も行えたと考えております」
こんな状況下でもテーセウスさんの態度は堂々としたもので、まったく気後れは感じさせない。
(さすがは有名クランの代表、というところね)
「大変難しいダンジョンであることはわかっておりましたので、我々は入念な準備を行い、万全の対策と布陣で行動を開始いたしました。
これにより途中までは極めて順調といえる進行状況であったと考えます。もちろん多くの魔物との戦闘はございましたが、それは他のダンジョンと大きな差のあるものではございませんでした」
「なるほど、表面上は特に異常があったわけではないのだな。話を続けてくれ」
司会のような形でドール参謀が話を聞いていく。
「はい。ですが、階層が進むにつれ〝湧き〟の発生に異常が生じました。そこでその階層より下層の様子を地形の魔法が使える者たちに調査させたところ、そこにはありえない数の魔物がいたのでございます」
「つまり下層に進むほど〝湧き〟がひどくなったと?」
「我々も最初はそう考えました。
ダンジョンの最下層に近づくにつれ魔物が増え、また強さも増す……それは不思議な現象ではありません。ですが、今回のそれは明らかに異常でした。〝湧き〟が発生する速度は通常のダンジョンのそれではなかったのです」
「もう少し具体的に頼む」
「はい。我々は次の階層へ進むことを考えておりました。そこで〝地図班〟であった階下を見通せる魔法を持つ者たちが《地形探索》などの魔法を用い階層の様子を探ったのです。彼らの魔法から得られた調査結果は信じ難いものでした。
我々がいた層の下には、そのときすでにありえない数の魔物がひしめき合っている状態まで〝湧き〟が加速しており、魔物は異常な速度で増え続けていたのです。〝地図班〟は、早急な撤退をする必要があると報告してきました。彼らはいずれは上層へと溢れるだろう……との〝地図班〟の見立ては信頼できるものだったのです」
「つまりその段階で、もうその異常な〝湧き〟による増殖は君たちのいた下の階層まで達していたというのだな。そしていまもダンジョンの出口に向かって魔物は
増え続けながら異常な増殖を続けている……と」
将軍のひとりがボソリと言う。
「ダンジョンを起点とする魔物の大発生……そんなことが起こるのか? しかも帝都近郊で……」
その言葉に会場が静まり返る。
「このパーティーの〝地図班〟は大変優秀です。《地形探索》で得られた情報の確度は極めて高いと考えております。我々の撤退の段階では、まだ異常は上層には及んでおりませんでしたが、あの増殖が止まるとは思えません。
今回知りえた情報はすべて冒険者ギルドに開示させていただきました。もちろん我々冒険者もパレスを守るため最大限の協力をする所存ではございますが、これは冒険者ギルドだけで討伐を請け負えるような生半可なものではない、と断言いたします」
テーセウスさんもまた私との魔法契約があるので、〝地図班〟と一括りにすることで名前が出ないように気をつけ尚且つ〝彼ら〟という言い方でうまく逃げてくれたようだ。
(ドール参謀にはわかっちゃうだろうけど、まぁそれは仕方ないかな)
ここでグッケンス博士が再び口を開く。
「ダンジョンを封じる手段も考えてはみたが、おそらく無駄じゃ。むしろ、どこかとんでもない場所から噴出する危険の方が大きいの。ならば、少なくとも噴出場所が定まっているいまの状態でこれに対抗する手段を講じるしかなかろう?」
そこでドール参謀がテーセウスさんを労った。
「大変な帰還をしたばかりというのに、すぐの報告ご苦労だったな、テーセウス殿」
「いえ、これは緊急事態……当然のことでございます」
そこで頷いたドール参謀は全体に向けてこう言った。
「これよりは具体的な防衛手段の話を致したく存じます。すべて部隊に緊急招集をかけ、〝巨大発生〟と対峙するための軍勢を整えねば、パレスは崩壊するやもしれません。すべての軍の主導権は集約されねばならないのです。ご決断を!」
五人の将軍は、それでも即断はできずにいた。
ドール参謀は、この〝巨大発生〟に対応するには参謀本部が軍部を一元化しなければ間に合わないと訴えた。そのため個々の将軍にはそれに従ってもらいたいというわけだが、きっと軍の中の主導権争いやら、それぞれの考え方の違いがあるのだろう。
(ああ焦ったいわね! 時間はないのよ。ドール参謀の言う通り、いまは決断するしかないでしょうに!)
会議室全体にジリジリとした空気が満ちたそのとき、会議室の扉が開かれた。
「へ、陛下!」
「冒険者クラン〝金獅子の咆哮〟の代表を務めておりますエルディアス・テーセウスでございます」
シド軍部の将軍のお歴々に囲まれ、その視線を一身に浴びるテーセウスさん。
しかもテーセウスさんは立ったままで証言をするようで、舞台こそないものの強面だらけの場所でひとりステージに上げられているという私なら震え上がりそうな状況だ。
時間が惜しいので、社交辞令は不要にするようにとの言葉がドール参謀からあり、証言が始められた。
「我々はパレス近郊に突如出来上がった新ダンジョンに先日まで挑んでおりました。〝金獅子の咆哮〟〝朝日の誓約〟〝剣士の荷馬車〟三つのクランが合同し、困難はありましたが、十分な調査も行えたと考えております」
こんな状況下でもテーセウスさんの態度は堂々としたもので、まったく気後れは感じさせない。
(さすがは有名クランの代表、というところね)
「大変難しいダンジョンであることはわかっておりましたので、我々は入念な準備を行い、万全の対策と布陣で行動を開始いたしました。
これにより途中までは極めて順調といえる進行状況であったと考えます。もちろん多くの魔物との戦闘はございましたが、それは他のダンジョンと大きな差のあるものではございませんでした」
「なるほど、表面上は特に異常があったわけではないのだな。話を続けてくれ」
司会のような形でドール参謀が話を聞いていく。
「はい。ですが、階層が進むにつれ〝湧き〟の発生に異常が生じました。そこでその階層より下層の様子を地形の魔法が使える者たちに調査させたところ、そこにはありえない数の魔物がいたのでございます」
「つまり下層に進むほど〝湧き〟がひどくなったと?」
「我々も最初はそう考えました。
ダンジョンの最下層に近づくにつれ魔物が増え、また強さも増す……それは不思議な現象ではありません。ですが、今回のそれは明らかに異常でした。〝湧き〟が発生する速度は通常のダンジョンのそれではなかったのです」
「もう少し具体的に頼む」
「はい。我々は次の階層へ進むことを考えておりました。そこで〝地図班〟であった階下を見通せる魔法を持つ者たちが《地形探索》などの魔法を用い階層の様子を探ったのです。彼らの魔法から得られた調査結果は信じ難いものでした。
我々がいた層の下には、そのときすでにありえない数の魔物がひしめき合っている状態まで〝湧き〟が加速しており、魔物は異常な速度で増え続けていたのです。〝地図班〟は、早急な撤退をする必要があると報告してきました。彼らはいずれは上層へと溢れるだろう……との〝地図班〟の見立ては信頼できるものだったのです」
「つまりその段階で、もうその異常な〝湧き〟による増殖は君たちのいた下の階層まで達していたというのだな。そしていまもダンジョンの出口に向かって魔物は
増え続けながら異常な増殖を続けている……と」
将軍のひとりがボソリと言う。
「ダンジョンを起点とする魔物の大発生……そんなことが起こるのか? しかも帝都近郊で……」
その言葉に会場が静まり返る。
「このパーティーの〝地図班〟は大変優秀です。《地形探索》で得られた情報の確度は極めて高いと考えております。我々の撤退の段階では、まだ異常は上層には及んでおりませんでしたが、あの増殖が止まるとは思えません。
今回知りえた情報はすべて冒険者ギルドに開示させていただきました。もちろん我々冒険者もパレスを守るため最大限の協力をする所存ではございますが、これは冒険者ギルドだけで討伐を請け負えるような生半可なものではない、と断言いたします」
テーセウスさんもまた私との魔法契約があるので、〝地図班〟と一括りにすることで名前が出ないように気をつけ尚且つ〝彼ら〟という言い方でうまく逃げてくれたようだ。
(ドール参謀にはわかっちゃうだろうけど、まぁそれは仕方ないかな)
ここでグッケンス博士が再び口を開く。
「ダンジョンを封じる手段も考えてはみたが、おそらく無駄じゃ。むしろ、どこかとんでもない場所から噴出する危険の方が大きいの。ならば、少なくとも噴出場所が定まっているいまの状態でこれに対抗する手段を講じるしかなかろう?」
そこでドール参謀がテーセウスさんを労った。
「大変な帰還をしたばかりというのに、すぐの報告ご苦労だったな、テーセウス殿」
「いえ、これは緊急事態……当然のことでございます」
そこで頷いたドール参謀は全体に向けてこう言った。
「これよりは具体的な防衛手段の話を致したく存じます。すべて部隊に緊急招集をかけ、〝巨大発生〟と対峙するための軍勢を整えねば、パレスは崩壊するやもしれません。すべての軍の主導権は集約されねばならないのです。ご決断を!」
五人の将軍は、それでも即断はできずにいた。
ドール参謀は、この〝巨大発生〟に対応するには参謀本部が軍部を一元化しなければ間に合わないと訴えた。そのため個々の将軍にはそれに従ってもらいたいというわけだが、きっと軍の中の主導権争いやら、それぞれの考え方の違いがあるのだろう。
(ああ焦ったいわね! 時間はないのよ。ドール参謀の言う通り、いまは決断するしかないでしょうに!)
会議室全体にジリジリとした空気が満ちたそのとき、会議室の扉が開かれた。
「へ、陛下!」
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